司法修習と国勢調査2005年10月05日

私が司法修習を終えたのは2000年10月。そう,今から5年前だ。

私たちの時から司法修習が1年半となり,10月初めに和光市の司法研修所で司法修習を受けている状態となった。

末尾が0の年の10月と言えば国勢調査。司法研修所の寮にいた私の調査票は寮(いずみ寮)の管理人が配布,回収していた。

私は当時配布された封印用シールを調査票に貼り,紙を巻いて提出した。寮の管理人とはいえ,見られるのがいやだったから。

提出したのは提出期限ぎりぎりだったと思う。ところが,その晩か翌晩,管理人から私の部屋に呼出しの電話が。

何かと思い出向くと,

「記入漏れがありますよ。」

何のために封印していると思っているのか。調査員には封印したものは見ることはできないはずなのに?

今から思うと抵抗すればよかったと思うが,修習も残りわずかであったし,管理人もいろいろ大変かと思い,修正には応じた。しかし釈然としなかったことは今でもはっきり覚えている。

あれから5年。今年の司法修習生は国勢調査にどう対応しているのだろうか?と思っていたら,9月末で修習は終わり,10月3日が修了式であったという。

10月1日現在の住所がいずみ寮であることには変わりないので,寮で暮らしていた人は寮の管理人に提出したのだろうか。今回の国勢調査では封筒が配られていたが,封入して出した人はどれくらいいたんだろうか?封入したけど管理人に見られて修正させられたなんてことはないんだろうか。

私みたいな目に遭う人がでなかったことを祈るばかりである。

国勢調査が分かる(国勢調査の見直しを考える会)

公務執行妨害罪に罰金刑導入検討2005年10月05日

公務執行妨害罪への罰金刑の導入を法務省が検討しているようですね(以下の記事はボツネタ経由で知りました。)。

窃盗罪に罰金刑導入、万引きなどに適用検討…法務省:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050924-00000215-yom-pol]]

 法務省は、現行法では懲役刑しか設けられていない窃盗罪などの財産犯について、罰金刑を導入する方針を固めた。

 南野法相が10月の法制審議会(法相の諮問機関)総会で諮問する。法務省は、来年の通常国会に刑法改正案を提出したい考えだ。

 現行の刑法で窃盗罪に対する罰則は「10年以下の懲役」と定められている。被害金額の少ない万引きなど軽微な窃盗では、検察が「懲役刑とするのは、刑が重すぎる」として起訴猶予処分としたり、裁判になっても執行猶予判決となることが多かった。このため、中間的な刑罰を設けることによって、犯罪の軽重に応じた刑事処分を可能にする狙いがある。

 罰金の金額は数十万円程度を想定。罰金刑は簡易裁判所での略式裁判で手続きが行われるため、迅速な事件処理も可能となる。

 窃盗罪のほか、詐欺や横領など財産に対する犯罪や、懲役刑と禁固刑しか設けられていない公務執行妨害罪などでも罰金刑の導入を検討している。

(読売新聞)

公務執行妨害として逮捕,勾留されるものの中には本当に懲役刑や禁固刑を科してもいいのか?という軽微なものがあるのは確かです。ただ,そういう軽微なものはそもそも公務執行妨害の構成要件を満たさないものとして即釈放にすべきもので,そのようなものについて罰金刑として処罰すべきというのは方向が逆ではないでしょうか。

ところで,罰金刑を導入するということは,略式裁判によって刑罰を与えることができるようになるということです。

そうするとどうなるか?えん罪が増えるのではないでしょうか。

「認めれば罰金刑で早く出られるけど,認めないと正式な裁判を請求されてまだまだ拘束される。」という捜査官からの脅しが出てくるのです。今までは,正式な裁判か不起訴による釈放しかなかったので,「認めれば早く出られる。」とはいえませんでした。しかしそれが可能になるのです。

痴漢えん罪事件については上記のような捜査手法がつかわれているとの報告もありますから,これが公務執行妨害に使われないとも限りません。

しかも,公務執行妨害は「転び公妨」などによる市民運動弾圧の手段としても使われるものです。筋金入りの活動家であれば「完全黙秘」で突っぱねるのでまだしも,そこまで筋金入りでないデモ参加者などにとって,罰金払えば出られるというのは虚偽の自白への誘惑として働きかねないような気がします。

上記記事と符丁を合わせるかのように,公務執行妨害が増加、「精強な警察」へ装備強化といった記事も出されました(落合弁護士のブログで知りました。)。

公務執行妨害が増加しているというのは,昔に比べて軽微なものも認知するようになったということなのか,それとも警察に対する信頼の低下の現れなのか。それとも単に世の中が荒んできたことの現れなのでしょうか。

この問題は公務の執行の適正化や,社会政策による生活の安定といったやりかたで対処すべき事柄で,罰金刑を新設して公務執行妨害罪による処罰範囲を広げることとは無関係でしょう。

公務執行妨害罪への罰金刑の導入は慎重に検討すべき事柄であると思います。

村上ファンド,阪神タイガースの株式上場を提案2005年10月05日

村上ファンドの村上世彰氏が,阪神電鉄の株式取得に関し,阪神タイガースの株式の上場を提案したようですね。

球団の株式が上場され,市民が株式を保有する形になれば,真の意味での市民球団となり,好ましいことではないでしょうか。

私は横浜ベイスターズのファンですが,ベイスターズの株式を大洋漁業が手放す際,TBSとかフジサンケイグループといったメディアだけではなく,市民に広く開放してこそ真の市民球団ではないかと思っていました。

今回の村上氏の提案が球団経営のあり方について変革をもたらしてくれれば,それが横浜ベイスターズにも波及してくれれば,と思います。

処罰範囲の拡大と自由~共謀罪再提出に当たって考える2005年10月07日

(この記事は管理人のウエブサイトに掲載済みのものを修正して載せたものです。)

 昨年、Winny(ウィニー)というソフトウェアの開発者が著作権法違反の幇助(犯罪を容易にすること)ということで逮捕・起訴された。ウィニーを使って映画を配信した者の行為を容易にしたというのだ。

 しかし、ウィニーそれ自体の機能は、インターネットを通じて他所のコンピュータ内のファイルを取得することができるようにするというものにすぎない。インターネットを通じたファイルのやりとりは、世界各地に散らばる多数の研究開発者の能力を集めてソフトウェアを開発・改善したり、各研究者の研究情報交換等といった場面でも行われるものであり、それ自体違法なことではない。今回の逮捕・起訴は、バールを製造した者に対し、そのバールを用いて住居侵入、更には窃盗が行われたということで住居侵入・窃盗罪の幇助犯に問うようなものだ。さすがに通常、バールを製造したからと言って住居侵入・窃盗の幇助に問われることはないだろう。

 ウィニー開発者逮捕に際しての新聞報道では、開発者は違法性を認識していたとか、開発者が現行の著作権制度に対する挑発的な発言を行っていたといった情報が流されている。つまり、開発者の内心の意図が逮捕に当たっての重要な鍵になっているようなのだ。

 同様の事情が、バールの「所持」に当てはまる。バールを鞄の中に入れておいただけで、「隠し持っていた」ということになり、持っている理由を警察官に納得させないと逮捕勾留されてしまう。所持していることの認識を超えた行為の目的が犯罪成立の鍵となっている。

 ウィニーの開発も、バールの所持も、それ自体が直ちに他人の権利利益を侵すものではない。それが開発・所持目的によっては犯罪として処罰される。著作権や住居の平穏を守るために準備段階で取り締まるということなのだろうが、違法な目的を持っていたという内心の悪性を理由に(ウィニー開発者についてはその悪性の有無も疑問だが)取り締まることは、目的についての自白を取得するための逮捕・勾留・取調べの横行につながらないのだろうか。また、ウィニーが広く違法なファイルコピーの手段としても使われている、バールが侵入窃盗の手段として使われているといったことから開発や所持の違法性が推定されるおそれはないのだろうか。大いに疑問だ。

 現在開催中の特別国会において,これまで2度にわたり廃案となった,いわゆる共謀罪の新設を内容とする法律案が審議される予定となっている。共謀罪が成立すると、600を超える数の犯罪(注:本年7月12日の衆議院法務委員会での政府側答弁では619とされている。)について、実際に犯行に手がつけられていなくても、その犯行についての共謀=意思の連絡をしたというだけで刑罰を科せられることになる。また、共謀をしたという容疑で逮捕・勾留されたり、共謀の証拠を確保するためと称して盗聴やパソコンの差押が広範になされかねない。

 このように、現実に人の権利利益を侵害する行為よりも前段階の行為について、広く処罰する傾向が近時強まっている。キーワードは「安全・犯罪防止」だ。入国する外国人全員からの指紋採取、人相のデジタルデータの入ったICカードの旅券への埋め込みなど、犯罪防止名目で公権力が市民の個人情報を管理強化する動きも強まっている。

 しかし安全を脅かす犯罪が行われる原因は何なのだろう。刑罰による抑止は対処療法にすぎず、犯罪の根本的な原因である貧困や差別を社会保障等によって無くすことが肝要ではないか。また、自由な社会ではある程度の不安定さは甘受すべきもので、安全は、人々が地道に取り結ぶ信頼関係により確保されるものではないか。管理の下の安全に満足することでよいかを江湖に考えていくべき時だと思う。

 共謀罪については,与党内部からも,あまりにも危険であるとして修正の動きがあるようだ。共謀罪自身の危険性と修正がどこまで人権擁護に有効かについては,別稿をたててみたいと思う。

共謀罪法案の国会再上程が近づいている

「共謀罪」創設を閣議決定…なんとか止めよう!

留保者数の増加の原因は何か?2005年10月09日

修習終了時の評価であることにもっと留意されるべきではないでしょうか。

裁判官任用希望者、9人不採用…1966年以降最多(読売新聞)

 最高裁は5日、9月に実施された司法修習の卒業試験に合格した第58期修習生1158人のうち、裁判官への任官を希望した133人について採用の当否を審議し、9人を採用しないことを決めた。

 不採用者数は、一昨年の8人を上回り、記録の残る1966年以降では最多となった。

 一方、卒業試験に合格できなかった修習生は31人に上った。例年は10人前後で推移してきたが、昨年の46人に続いて2年連続の多さとなり、修習生の質の低下を懸念する声も法曹界から出ている。うち1人は「不合格」で、来春以降に修習をやり直さない限り法曹資格を得られない。残る30人は「留保」とされたため、今後の追試で合格すれば、法曹資格を得られる。

この記事に関連した紀藤弁護士のエントリについて,かなり議論が沸騰しているようですね。

ところで,上記新聞記事には「例年は10人前後で推移してきた」とありますが,私が修習を受けた期(第53期)に19人もの留保者が出る前は,留保者無しが通常で,留保者は出たとしても1~数名でした(ごくまれに二桁の留保者が出た年もあったようです。)。

それでは53期とそれ以前の違いは何か。53期から司法修習が,それまでの2年間から1年半に短縮されたのです。ちなみに53期の修習を受けた多くの修習生が合格した1998年(平成10年)の司法試験合格者は約800名。その前年が約750名ですから,合格者数にそれほど違いはありません。

合格者数と修習生の成績という点では,司法試験の合格者が1997年には約750名だったのが2003年には約1200名になったのですから,修習生間での成績のバラつきが広がるのは自然です。従前はこのバラつきを2年間の司法修習で下支え(底上げ)していたのを,53期からは1年半の修習で底上げしなければならなくなった,そこに無理があったと見るのが自然ではないでしょうか。

53期の修習については,1年半に短縮された修習でも送り出す法曹の質が落ちないようにと,司法研修所でもいろいろカリキュラムを工夫はしていたようです。しかしいくらカリキュラムを詰め込んでも,それまで2年間でやっていたものを1年半に押し込むのは無理があります。制度の無理を,それを担う者の努力で補おうとする「司法版プロジェクトX」の世界。しかも1年半修習で従前同様の能力向上を図ろうと焦るあまり,研修所による修習生管理は厳しくなりました。管理人は,自殺者の発生や鬱病になる者の増加も仄聞しています。そのような運営が司法を担う者を養成する機関で繰り広げられたことの是非について,1年半修習が6回行われた現時点で検証することが必要でしょう。

今後,修習は現行司法試験合格者についてもさらに短縮され,また,新司法試験合格者については1年間の修習しか行われないこととなります(何と実務修習は原則各2か月になるのです)。

修習を短縮しても本当に質を維持できるのでしょうか。それが可能だという幻想を抱いて管理強化のもと無理なカリキュラムを設定し,ついてこられない者は遠慮無く切り捨てる(留保又は不合格もしくは退所勧奨)というのは,制度設計の失敗を修習生の責任に転嫁して済ますもので,責任転嫁される修習生の立場からしたら弥縫策でさえありません。

この6年間の留保者数増加という状況を,単に「司法修習生の質が低下したからだ」などと修習生に責任を転嫁することですまさずに,合格者増・修習期間短縮といった制度改革が失敗ではなかったのか,質量一挙両得というのが無謀な企てであり,まやかしのスローガンにすぎなかったのではないか,ということを謙虚に見つめ直すことが,司法制度改革にたずさわった人たちに求められているように思います。

法テラスは現代のお白州か2005年10月12日

日本司法支援センターの愛称が「法テラス」に決まったようですね。

この名称,4~6個の愛称案の中から選ばれたものです。 管理人は候補案とその趣旨が記載された紙を同じ事務所の弁護士から見せられ,どの案がいいか聞かれました。いずれの案にもロゴマーク案がついていた記憶があります。「法テラス」のほかにどんなのがあったか思い出せませんが,隣の席に座っている弁護士に聞いたところ「法エール」(鯨がマスコット)というのがあったとのことです。

私は,いずれもパッとしない名前だなと思いつつ,日本語が使われている(テラスも「照らす」と考えれば外来語ではない。)という点から「法テラス」が良いのではないかと回答しましたが,本当にそれに決まったことには驚いています。

まあ,パッとしないのが愛称だけにとどまっているのならまだ許せます。しかしこの司法支援センター,国選弁護に関して弁護人を推薦し,その結果選任された弁護士に国選弁護人の仕事を行わせるという業務を行う組織なのですが,選任された弁護人の弁護活動の独立性などの点で弁護士の多くから懸念が示されており,そのような懸念から司法支援センターとの契約を拒否する弁護士も少なくないようです。

司法支援センターが法務省所管の独立行政法人であり,理事長が法務大臣の任命にかかるといったことからすれば,弁護士が司法支援センターの作成する「業務方法書」や「法律事務取扱規程」(いずれも法務大臣の認可にかかるものです。)によって弁護活動を縛られるのを嫌い契約を拒否するのは自然でしょう。

司法支援センターのウエブサイトには,

 支援センターの主な業務は、以下のとおりです。
  • (4)  国選弁護関連業務・・・被疑者・被告人段階を通じ、一貫した刑事弁護体制を整備し、裁判の迅速化、裁判員制度の実施を支えます。

とあります。司法支援センター自身,その国選弁護関連業務が,被疑者・被告人に国選弁護を受ける権利を保障することを目的とするものではなく,「裁判の迅速化、裁判員制度の実施」といった刑事司法制度の維持を目的としていることを認めてしまっているのです。これでは,司法支援センターと契約する弁護士は,刑事司法制度のもと迅速な処罰,国民の処罰感情に沿った処罰を被疑者・被告人に科すための介添人に成り下がってしまうのではないでしょうか。

こうした司法支援センターに刑事弁護を任せられないという危機感から,弁護士会で当番弁護,国選弁護を運営していこうという動きも出てきています。

「悩みを抱えている方々にくつろいでいただけるような,さんさんと陽が差し,気持ちの良いテラスのような場所」。司法支援センターの愛称の由来にはそうあります。しかし,刑事被疑者や被告人にとっては,「法テラス」とは,さんさんと陽はさすかもしれないが,自らの主張を十分に聞いてもらえずに灼熱地獄のもと「法の裁き」を受けるお白州を意味する言葉にすぎないのではないでしょうか。

被疑者国選弁護制度の導入と同時に作られた司法支援センターですが,国選弁護を委ねるのには値しない機関のように思います。