指定入院医療機関訪問記2005年11月06日

弁護士会の委員会関係のツテで,国立精神・神経センター武蔵病院を見学する機会を得て,10月8日に行ってきた。 武蔵病院は,今年9月から施行された心神喪失者等医療観察法で指定入院医療機関として指定された医療機関の1つだ。

医療観察法に基づいて入院する患者(法律上「対象者」と呼ばれる。)が入院する施設は,病院の入り口からかなり歩いたところにある。施設自体は真新しい。逃亡と侵入防止・プライバシー保護のため,建物はフェンスで取り囲まれている。

建物に入るに当たってはボディーチェックを受けることになる。それも結構厳重なものだ。

建物入口の二重扉をくぐったところにはソファが置いてあり,サロンのような場所となっている。その横に3畳くらいの広さだろうか,面会室がおかれている。付添人と本人との面会もここで行うことを予定しているとのことである。人権センターの人などとの面会もここで行うとのことである。

まずは入口近くの会議室で,施設の概要などについて話をうかがった(以下の内容には見学後の質疑応答時のものも含む。)。話をしてくださったのはソーシャルワーカーの方である(以下のまとめは管理人による。)。

対象者が入院する建物は司法精神医療専門病棟と呼ばれる十字構造の病棟で,床面積は2400平方メートル。4つのユニットに分かれ,事実上33床からなっている。

各ユニットの病床数は,

  • 急性期ユニット 6 
  • 回復期ユニット 14
  • 社会復帰期ユニット 8
  • 共用ユニット 5

となっている。

急性期の対象者は,病棟から全く外出することができない。回復期になると外出可能となる。社会復帰期になると,社会復帰準備のため,外泊も行うようになる。

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ユニット数の割り当ては,各ユニットへの予想滞在期間を考慮して決めているようで,

  • 急性期 3か月→6床
  • 回復期 9か月→14床
  • 社会復帰期 6か月→8床

という対応関係になっている。共用ユニットの5床は女性を対象としており,病院としては,入院者の男女比を10対1程度と見ているとのことだ。共用ユニット以外はすべて男子用であるという。

現在6~7名の対象者が入院しているが,入院してから半年程度で退院できる人も出てくるのではないか。急性期ユニットから社会復帰期ユニットへ直接移行する人もいる。

医師の数については3.75名とされた。看護師については43名認められた。

作業療法士2名,臨床心理技術士3名,精神保健衛生士2名,事務職員2名が配置されている。

管理部門から病床のある部門へは施錠された扉を通るが,いったん中に入ると通行は自由だ。各ユニットに通じる,中央大広場のような場所(アトリウム)には,各ユニットから自由に出られるようにされている。また,個々の病室についても,今のところ施錠はしていない。現在は,アトリウムまでも出られない人はいないということである。

病棟内部に入ると,アトリウムの隅2カ所にスタッフステーションが置かれている。スタッフステーションの隅には,対象者が気軽にスタッフに相談できるように,お話ルーム(この名称についてはうろ覚えである。)というコーナーが設けられ,対象者が相談できるようになっている。

急性期対象者用ユニットのうち,トイレがついている部屋は2部屋しかない。それ以外は準保護室として使えないということである。トイレなどについては,看護がついて連れ出しているということであった。

社会復帰期になると,トイレ,シャワー付きの部屋となり,外から中の様子を見るための観察窓もついていない。回復期,社会復帰期においては,対象者本人に鍵を持たせている。

急性期ユニットには保護室が1室ある。ベッドはウレタンのみで作ったマットレスである。ベッドが壊されるケースは,金属製部分をいじられる場合が多いとのことで,それゆえ1枚のマットレスにしてあるとのことだ。金属部分がないので,対象者をベッドに拘束することもできない仕組みになっている。対象者を保護室に入れた場合には,保護室の外に職員が立ち,中の対象者の様子を見ているとのことだ。ずっと職員が張り付いていなければならないので,保護室に入れておける時間もそう長くはないとの説明だ。ガラス越しではなくなるべく同じ空間で話ができるようにしているとのことであった。

施設の配置は,武蔵病院が設計し,それが他の施設へも波及しているとのことである。英国の施設の影響も受けており,庭を設けたのも英国の施設の影響を受けたものであるようだ。

2400㎡の面積,ユニットに分けるというのが基本で,形としては,武蔵病院のように十字型にするものと(花巻病院も同じスタイルとのことである。),ロの字型に配置するものとあるとのことである。厚生労働省からは,ある程度の面積を確保すること,個々の対象者ごとに個室とすること,また,個室の面積については十平米以上とすることという指示がきている。

今入ってきているのは全員急性期の患者として入れている。入院当初は対象者についての情報がないので,とりあえず急性期にあるものとして扱う。入院後2~3週間でアセスメントを行い,その結果をふまえてどの時期の対象者として処遇するかを決めるが,それまでは急性期の者として対応する。治療評価会議で毎週,入所者善意にについて評価を行っているとのことであった。

全員急性期ということをいったが,急性期というのは症状の急性期であり,その人がどこのユニットに入っているかとは別である。急性期の部屋を使っているが,回復期の人として処遇している場合もある。急性期をどう見るかは難しい。急性期病棟にいる人が全員急性期というわけではない。

身体合併症の人の部屋は一時的なもので,武蔵病院で診断しきれない場合は他の公的病院に移してみてもらっている。

退院後の通院については,通院医療指定機関となっていないので,対応していない。対象者が東京以外から非常に多くきていることもあり,主治医の継続は無理である。

現在,指定入院医療機関として作動しているのは,武蔵病院と花巻病院しかない。

病院での治療についての説明書であるが,入院当初に対象者に渡している。主治医から入院の経緯を説明し,その際,抗告ができること,退院請求や処遇改善の要求が法的にできることを説明する。

1人の対象者に対し,ドクター1名,ナース2名(プライマリー1名,アシスタント1名),その他職員3名が1チームとなってつくこととしており,最初にチームのメンバーと対象者と顔合わせを行う。

また,2週間に1度行う予定の,権利擁護説明,生活保護についての説明も行っている。知的障害者も出てきているので,何度も易しく説明している。

患者同士の交流は全面的に認められているが,部屋(病室)に入っての交流はできない。友人を呼ぶことについてどのように対応していくかは今後の課題である。

金の無い者については基本的に生活保護を受けてもらっている。電話代については,職員の寄付したテレホンカードを対象者に使ってもらっている。退院請求,処遇改善要求については,施設予算で貸与している。

生活保護の受給先については,厚生労働省に対し,できれば元の居住地にてあてしてもらうようにしてほしいと申し入れている。そうでないと帰った時に困るからである。

外泊は,社会復帰期に入ればOKだが,その態様については,逃亡防止などのための配慮が必要である。交通費は病院持ちである。外泊にはスタッフ2名が付き添っている。

新しい病院ができた場合には,その近くに返していく方針である。たとえば,青森の人については,家族の同意で花巻に転院するなど。

病院間の転院については,武蔵と花巻の間で直接やりとりをしている。入院先の決定は地方矯正局だが,転院の予算は武蔵病院が支出している。

説明を受けた後,実際に中に入ってみる。

急性期ユニットは,すでに対象者が入っていることもあり,病室の前まで行くことはできなかった。

回復期ユニットは,病床数が最も多いところである。喫煙室が広い。建築時の担当者が喫煙について理解のある人だったとのこと。このユニットからは,各対象者ごとのロッカーが与えられる(ロビーに設置されている。)ほか,病室内にも対象者自身の物を入れておくスペースが与えられている。

社会復帰期ユニットになると,シャワートイレ付き(いずれか一方だったかもしれない)の部屋となる。外から室内の様子を観察するための窓も設けられていない。

各ユニットごとに内庭が設けられている。これも,英国の施設にならったものであるらしい。急性期ユニットの内庭には丘がある。回復期ユニットの内庭は野菜畑になっており,ほうれん草が植わっていた。社会復帰期の内庭は見られなかった。

施設には,個室のほかに,茶室,体育館などが設けられている。茶室は,ボランティアの人にきてもらい,いろんな習い事をする場所として使えるようにしたいとのこと。体育館は,運動をすることで精神的にも落ち着くことができるということで設けられており,マシンの置かれた部屋も体育館にくっついて設けられている。

説明を聞き,見て回った限りでは,医療体制としては充実したところであるという印象を受けた。一緒に見学した弁護士も,他の精神病院に比べて態勢が充実しているという。ただ,このような充実した施設が全国でどの程度設立,維持できるのかという疑問は生ずる。現に,指定入院医療機関の設置は当初の計画(中山先生のブログによれば,「全国に30床規模の病棟を24箇所設置するという壮大な計画」)に比べ大幅に遅れている(本件訪問当時2施設しか稼働していない。)し,厚生労働省は,指定入院医療機関の設置基準の一部改正(基本診療料及び医療観察精神科専門療法の施設基準等の一部改正)によって,14床以下の病棟であっても指定入院医療機関とできるようにもくろんでいる(PDF)。また,武蔵病院に対しては厚生労働省から,もっと対象者を受け入れられないかという要請が来ているとのことだ。

施設不足の背景にはいろんな要因があるのだろうが,通院決定よりも入院決定が多いという現状は果たして妥当なのだろうか。入院治療は強制的に対象者の移動の自由を奪うもので,対象者は入院させられている間,社会との接触が極めて制限されることとなる。社会復帰という観点からは,できる限り通院治療で対処するようにすべきで,そのために通院治療のレベルをアップさせる方策を考えるべきなのではないだろうか。施設不足の原因を考えずに,施設の数の拡大のために設置基準を緩和するといった愚だけは犯してほしくないものだ。

懸賞品は景品ではないのか?2005年11月06日

少し前の記事ですが,なんか誤解を生みかねない内容ですね。

ペプシおまけのガンダムは「懸賞品」…公取委が注意(読売新聞。現在はリンク切れ。Googleのキャッシュはこちら

清涼飲料水「ペプシツイスト」などのおまけをめぐり、同飲料水を製造・販売しているサントリー(大阪市)が公正取引委員会から、景品表示法違反の疑いがあると注意を受けていたことが、25日わかった。

(中略)

サントリーは2003年9月から、32種類の「ガンダム」の模型のうちいずれか1種類を袋入りのおまけにして、「ペプシツイスト」ボトル缶などの販売を始めた。おまけは全商品についていれば、通常は「景品」とされるが、ペプシの場合、いくら商品を買っても全種類を集め切れるかどうかは運に左右されるため、公取委は「懸賞品」と認定。懸賞品の価格は商品価格の2%以下でなければならないが、今回はこの制限を超えていたという。

上記の記事だと,「景品」か,「懸賞品」かは,二者択一的なもののように読めます。

しかし,本件の「懸賞品」は,法律上は,懸賞の方法により提供される「景品」(法律上は「景品類」といいます。)のことであって,懸賞品だからといって景品に当たらなくなるものではありません。公正取引委員会の出した注意や要請の内容が具体的にどのようなものか分かりませんが,「懸賞品」というのは法律上の用語ではないですし,公取が「『懸賞品』と認定」するという言い回しをすることはないと思います。

もっとも,他社も以下のように「懸賞品」という言い方をしており,正確さよりもわかりやすさをねらったのかもしれませんが・・。

仮に「懸賞品」ではない「景品」だとしても,商品の価格の10パーセント(商品の値段が1000円未満のときは100円)以下の価値のものしか出せないという規制があります。この点毎日新聞の記事はきちんと指摘していますが,それではペプシにつけられていた「おまけ」は100円以下の価値しかないものなのでしょうか。サンスポの記事につけられている写真を見る限りでは微妙です。レアものがあり,

全種類そろった模型は、ネットオークションで10万円前後で売買されているという。(前出の読売記事)

ということからすると,100円を超えていると判断される可能性も否定できないでしょう。

こう考えてみると,「懸賞品」でない「景品」,つまり懸賞の方法によらないで提供される景品類だとしても,法律に違反するおそれはぬぐいきれません。

本件のような場合の「おまけ」が適法だというためには,「おまけ」がペプシツイスト本体と一体となって一つの商品を構成している,とか,キャラクター模型はペプシツイストの付属品である,といったように,「おまけ」は景品類に当たらないという構成をとる必要があります。

新聞業界は景品類を顧客に提供することが長らく禁じられてきた業界ですが,そうだからと言って,いや,そうだからこそ,景品の規制について知らないというのでは済まされないと思います。

ところで,今回の注意は,懸賞の方法によって提供する景品類の「総額」の規制に反するとして行われています。この総額規制については別稿であらためて考えてみることとします。