本当に阪急ならよいのか2006年06月05日

村上ファンドとの比較で「よりまし」論が優勢なようですが,慎重に考える必要があるように思います。

村上ファンドがTOBに合意 阪急と阪神、経営統合へasahi.com

阪神電気鉄道の筆頭株主で村上世彰(よしあき)氏率いる投資ファンド(村上ファンド)は3日、阪急ホールディングス(旧阪急電鉄)による阪神株の公開買い付け(TOB)に応じ、保有する阪神株(発行済み総数の約47%)の大半を売却する方針を阪急側に伝えた。TOBの成立は確実とみられ、阪急と阪神は10月1日付で経営統合し、「阪急阪神ホールディングス」となる。大手私鉄同士の統合は戦後初めて。売上高(06年3月期、連結ベース)で東京急行電鉄、近畿日本鉄道に次ぐ私鉄第3位のグループになる。

阪神間を結ぶ鉄道3社のうち2社が同一の企業グループに属することとなるわけですが,「一定の取引分野における競争を実質的に制限」(独占禁止法第10条第1項)することにならないんでしょうか?>公取

それとも,阪神間では旧国鉄のシェアが大きいので,問題にならないといった事情でもあるのでしょうか(この点は輸送量などを調べてみないと分かりませんが)。

別の記事では

乗客減も統合の背景 阪神・阪急

 阪急ホールディングスと阪神電気鉄道の経営統合は、関西大手私鉄では57年ぶりの業界再編となる。村上ファンドの動きばかりがクローズアップされたが、100年のライバルが手を握った背景には、乗客減による鉄道事業の将来への危機感があった。

 「人口が減り始めた中で、今の事業だけで厳しい時代を乗り切れない。(村上ファンドによる阪神株の大量取得がなくても)いずれ、統合はあったのではないか」(阪神の西川恭爾社長)

 「阪急と阪神は競合していない。(鉄道やバスなどの)公共交通機関対マイカーの時代だ」(阪急の角和夫社長)

となっていますが,乗客減だから統合という理屈は,廃止された不況カルテルと同じ論理で,今の世に当てはまるのか疑問です。

村上ファンドではだめだが阪急ならいい,という論調は,村上ファンドに検察の捜査が入るだろうこともあって今後強まっていくと思いますが,阪急で本当によいのか,ということは,上記のような競争上の問題点や,過去に突然球団身売りを発表した前歴のある会社であるという点も含めて,慎重に考えていく必要があると思います。

カウンターを設置してみた2006年06月18日

カウンター・ホスティングのサービスを利用してカウンターを設置してみた。

設置方法については,openglさんのページのコメント欄での御回答を参考にしました。

破棄差戻判決が捨て去ったもの2006年06月21日

応報感情に対する,刑罰以外での対応策を真剣に考えるべきではないでしょうか。

「死刑判決ほしかった」母子殺害差し戻しに本村さんYOMIURI ONLINE(読売新聞)

命をもって罪を償ってほしい――。妻と長女を殺された遺族の悲痛な訴えが、司法を動かした。

犯行時18歳だった被告(25)の無期懲役判決を破棄し、2審に差し戻した20日の最高裁判決。被害者の夫、本村洋さん(30)は「上告が棄却されなかったのはうれしかった」と語る一方、「最高裁自ら死刑という判断を出してほしかった」と、今後も裁判が続くことにやり切れなさものぞかせた。

「残念だというのが正直な気持ちです」

判決後、午後4時から東京・霞が関の司法記者クラブで会見した本村さんは、感情を押し殺すように、淡々と感想を語り始めた。

被害者遺族の方の気持ちとして,命をもって罪を償ってほしいという気持ちを持つのは自然な感情です。しかしそれを,刑事裁判の結着がつくまで持たざるを得ない状況にしておいていいのでしょうか?

死刑判決は,もし間違ってなされ,そのまま執行された場合には取り返しのつかない結果をもたらすものです。したがって,被告人,そして被告人の立場を守るべき弁護人が徹底的に争うのは当然ですし,警察のように調査のための手足を自前では持たない弁護人が争うことになれば,それなりの時間がかかるのもまた必然です。判決も,そのような徹底的な弁護活動が行われたことをふまえて慎重になされるべきものです。ですから,時間がかかるのもやむを得ないことです。(なお,ここでは死刑制度が存置されている現状を前提としています。)

被害者や遺族が早期処罰を望んでいるから手続を簡略化して早期に判断をというのはおかしな議論だと思います。

むしろ,刑事裁判に頼ることなく,被害者の経済的,精神的損害を回復するための措置を考えるべきではないでしょうか。

本判決を含めた最近の重罰化の傾向を見るに,これまでの被害者保護の無策のツケを,量刑における重罰化でごまかそうとしているように思われてなりません。

最高裁、無期懲役の破棄blog of Dr. Makoto Ibusuki

死刑は本当に必要か?~合法的殺人ではないのか?情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士

これが最高裁の判決か★J憲法&少年A★

破棄差戻判決が捨て去ったもの(2)2006年06月21日

山口母子殺害事件の最高裁判決がウエブサイトに公開されていた(PDFファイル)ので読んでみました。

上告審で弁護人が殺人,強姦致死の点について事実誤認がある旨主張した点について判決は,

その指摘は,他の動かし難い証拠との整合性を無視したもので失当であり,本件記録によれば,弁護人らが言及する資料等を踏まえて検討しても,上記各犯罪事実は,各犯行の動機,犯意の生じた時期,態様等も含め,第1,第2審判決の認定,説示するとおり揺るぎなく認めることができるのであり,指摘のような事実誤認等の違法は認められない。

としています。

 では,「他の動かし難い証拠」とは?どういう思考過程で「揺るぎなく認めることができる」のでしょうか。第1審,第2審では殺意の点について争いがなかったようなので,最高裁での判断が殺意の有無という「争点」についての最初の判断(しかも差戻し審を拘束するとすれば最後の判断でもある。)になるので,もっときちんと説明されるべき事柄でしょう。

 まさか,動かし難い証拠というのは,被告人の供述調書のことなんていうことはないんでしょうね。18歳とはいえ,犯行当時被告人は少年でした。成人もそうですが,特に少年は,捜査官の誘導にのりやすいのです。

 判決文にも,

被告人は,捜査のごく初期を除き,基本的に犯罪事実を認めているものの,

とありますが,この供述の変遷がどのような経緯で起こったのか,検証する必要はないんでしょうか。また,誘導による自白の効果が公判段階まで継続していたということはないんでしょうか。

 弁護人の主張を「一蹴」するにしても,人1人を死に至らしめる可能性の大きい判決を書くのであれば,こうした疑義についてきちんと回答した形の判決を書くべきではないのでしょうか。ここここで指摘されているように,ただ結論先にありきでは困ります。

 メディア等で問題とされる被告人の手紙ですが,無期懲役でも法的には7年経てば仮釈放がありうるというのと,実際に仮釈放を受けることができるかというのは別問題です。無期懲役による収容期間は現実には長期化していますし,20代からの,世間にいれば「働き盛り,遊びたい盛り」の年代を刑務所で,いつ出られるかのあてもなく暮らすことは容易なものではありません。こうした実態を世間に広報することで,被害者のこのような浅はかな行為を防げたのではないかと思うと残念です。

 さらに言えば,このような手紙を書くことを反省の情の欠如として当然のように証拠に提出する検察官の考えも理解できません。隠すのは悪いこととの考え方もありえましょうが,公開することでセカンド・レイプのような状況をもたらすおそれは考えなかったのでしょうか。また,なぜこのような手紙を書いたのかという背景事情について考えは及ばなかったのでしょうか?

 メディアでは被告人と弁護人がもっぱら責められるような報道のされ方がなされていますが,検察官の手法や最高裁の判断に問題がなかったのかという点ももっと検証されるべきように思います。

日本司法支援センター(法テラス),「3点セット」を公表2006年06月22日

日本司法支援センター(法テラス)のウエブサイトで,いわゆる国選刑事弁護に関する3点セットが公開されています(このうち業務方法書と法律事務取扱規程」は民事弁護にも適用されるものです。)。

どんな問題点があるか,今後読んで検討してみたいと思います。

日本司法支援センター業務方法書(PDF)

法律事務取扱規程(PDF)

国選弁護人の事務に関する契約約款(PDF)

参考

刑事司法の改悪に反対する全国弁護士ACTION通信 №49(2006年5月16日時点でのものです。)

サラ金金利上限規制~例外は規制を空洞化するからダメ!2006年06月25日

朝日新聞によれば,貸金業規制に関する自民党金融調査会の幹部会が,出資法の上限金利を利息制限法の水準まで引き下げるなどの方針を固めたようですね。

ただ,

少額・短期の融資は多重債務に陥る危険が少ないとして例外を認める可能性が高い。上限50万円、期間1年以内などの案がある。

というのでは,結局のところザル法になってしまうおそれが強いのではないでしょうか。

サラ金(消費者金融)業者は,長く借りていてもらった方が利息を多く得られて利益になるので,借り手が契約どおりの返済ができない場合,利息だけでよいですよと言って利息だけ受け取ることが多くあります。 短期の融資に例外を認めると,

とりあえず契約では短期で返済を受けることにしておき,

毎月の返済期日には利息だけ受け取っておいて,

本来の完済時期に元本分の完済を受け,同額を新たに貸し付ける契約を新たに結ぶ

という形にすることによって規制を免れるおそれがあります。

なお,この「短期,小口」の例外に関する問題点については,

貸金業規制見直し自民党方針固まる 「短期小口」の抜け道を許すな!ろーやーずくらぶ

50万円以下を例外扱いすることには強く反対!~サラ金金利引き下げ問題情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士

に詳しく書かれています。

形の上では利息を引き下げるように見せながら,実際には従来通りの利息を取れる道を残しておくのでは,まやかしの改正案でしかありません。引下げ後の上限金利に例外を認めないよう,政党への働きかけや署名運動(日弁連で行っています。)を進めていきましょう。

民事・刑事を同一手続で?~附帯私訴2006年06月25日

日々を大切に(齢はとっても気持ちは若く)さんのページ経由で知りました。(★犯罪被害者への損害賠償を刑事訴訟手続きでとの法務省の方針

損害賠償、刑事訴訟で請求可能に・法務省方針NIKKEI NET

 法務省は犯罪者を裁く刑事訴訟の法廷で被害者が被った損害の賠償に関する審理を同時に進め、有罪の場合は同じ裁判官が賠償命令も出す「付帯私訴」制度を導入する方針だ。刑事訴訟と別に被害者が損害賠償を求める民事訴訟を起こさなくてはならない現行制度に比べ、迅速に結論が出るため、被害者救済に役立つと判断した。

 10月にも法制審議会(法相の諮問機関)に制度創設を諮問。付帯私訴導入を盛り込んだ刑事訴訟法改正案を早ければ来年1月召集の通常国会に提出する。

被害者に対する損害賠償を早期に実現するため,刑事訴訟も迅速に進行させようという圧力がさらに強くなって,手続を適正に進めることがおろそかになるんじゃないでしょうか。被告人が否認している場合など,裁判迅速化法に則って民事も刑事も2年以内で・・などというと,なおさらそのおそれは強まります。

また,手続上も,民事,刑事の両方に対応しなければならない裁判官は大変です。弁護人だって,刑事はやるけど民事は被告人本人で,というわけにもいかないでしょうから,結局民事,刑事両方抱え込んで大変なことになりそうです。国選弁護人の場合,民事については法律扶助で,ということになるのか,それとも,国選弁護の報酬で双方に対応しろということなのでしょうか。

検察官は刑事だけやればいいから法務省は気楽にこうした法案を出してくるのかもしれません。しかしそもそも,民事訴訟の提起も判決も,必ずしも刑事の有罪判決を待って出す必要はないので,立法する理由に疑問があります。極めて無責任な提案のように感じます。

最近,運用面でも法制面でも刑事裁判に被害者保護の機能を持たせようという動きがありますが,刑事手続が被害者保護機能を持つことは結果的にありうるとしても,それを目的とすることについては,手続の適正さをないがしろにしないものかどうか,検察官と弁護人との間の資料収集能力の差などを踏まえて慎重に考えるべきでしょう。