反対尋問のない被告人質問2006年11月16日

阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」で,被告人質問の際に検察官が反対尋問をしない例が挙げられており,ボツネタで「刑事事件の被告人質問で質問を全くしない検察官っているんですね」との表題がつけられていました。

でも,私の数少ない弁護経験でも,検察官が「結構です」と言って発問しなかったことがあったように記憶しています。

弁護人としては,検察官がつっこみそうだなというところについてはあらかじめ弁護人の方からつっこんで聞いてしまうということがままあり(もちろん事前の練習をした上ですが),そうした場合検察官が質問する事柄がほとんど無くなってしまい,せいぜい1,2問しか聞かないということがあります。

また,弁護人の方で検察官からつっこまれそうな事実をなくすためにあらかじめ処置しておいた(前記コラムの例で言えば,被害者への謝罪等)結果,検察官の質問事項がなくなったということもあるでしょう。

検察官の側から見ても,被告人が起訴の対象となった事実(公訴事実)を認めている事件については,被告人の供述した内容を記載した調書が証拠として使われることになっているのが通常なので,書面に記載してあることを重ねて公判廷で聞かなくてもよいと考えるのはおかしなことではありません。

民事では,無益な反対尋問はしない方がよいと言われますが,刑事にも当てはまると思います。

体外受精児、小学生まで追跡調査2006年11月22日

妊娠・出産は男女間のプライベートな問題にはとどまらないということなのでしょうか。

この調査結果,着床前診断の可否などの問題にも影響しそうですね。

体外受精児、小学生まで追跡調査…心身影響を客観評価YOMIURI ONLINE

不妊治療として一般的になってきた体外受精で生まれた子供たちの健康状態について、厚生労働省が、2000人以上を対象にした初の長期追跡調査に来年度から乗り出すことが明らかになった。

不妊治療の進展は子供ができない夫婦には朗報だが、体外受精で生まれた子供の発育過程はこれまで十分には調べられていなかった。調査は、この技術が子供の健康や心理面に与える影響を客観的に評価し、子供の健康確保につなげる狙いがある。

出産率を上げるために、複数の受精卵を体内に戻す例が多いことから、双子や三つ子などの多胎妊娠が増え、未熟児などが生まれやすいという指摘が以前から小児科医などからあった。ただ、その実態はスウェーデンなど一部の国を除いて調べられておらず、国内では体外受精を行う不妊治療施設と出産施設の多くが違うこともあって、継続調査は難しかった。

このため、厚労省は日本産科婦人科学会などと協力。調査チームの体制やデータの管理・分析方法などは今後詰めるが、誕生から学童期(小学生)までを追跡調査し、発育の実態や、子供が成長して事実を知った時に心理面で影響が出るのかどうか調べる。また、親も含めた家族全体をカウンセリングなどで支援する体制をどう構築していくのかも検討するとしている。

臓器移植・代理出産等で無償性を強調することの欺瞞2006年11月22日

最近,患者間の対価のやりとりを伴った臓器移植や,「謝礼」を支払ってやってもらう代理出産など,「高度医療」「生殖補助医療」に対価の提供が伴う例が議論となっています。

臓器移植や代理出産が有償で行われることは問題だと私も思います。では,「無償」で行われればいいとする議論に問題はないのでしょうか?

代理出産についてこれを積極的に進めようとする医師は,有償で行われることを問題視し,ボランティアで行うものならばよいとするようです。

しかし,全ての関係者が「無償」でやっているのでしょうか?推進論者であるこの医師は「実費相当分」を含め一切の対価を受け取っていないのでしょうか?

臓器売買についても同様の問題があります。

「脳死」者からの臓器移植についても,金員のやりとりが発生しないわけではありません。関係する人や組織は対価を得て施術や臓器運搬などの業務にたずさわっているのです。

無償性を強調する人自らが,「実費相当」という名目ではあっても金員を授受している。これが欺瞞でなくてなんでしょうか。自分たちの儲けや新規業務開拓や研究のために行って,しかも仮に実費相当であるとしても費用を取っている者は,ドナーや代理出産者に対して費用を取ることを非難することはできないでしょう。

「無償」の行為とされているものについても,お金が利害関係者の間で動いているという事実をふまえた議論が必要だと思います。