「弁護士激増・新法曹養成制度の見直しを求める集い」報告・所感など2007年04月10日

標記集いを4月3日に東京の弁護士会館内で開催しました。弁護士中心に約30名が参加しました。だいぶ時間が経ってしまいましたが以下,私なりのまとめと所感です。会としての公式な報告ではないことを御承知ください。

プログラムの標目は以下の通りです。

0 開会挨拶

1 激増・法曹養成制度現状報告

2 「司法システムの変質にどう立ち向かうのか」

3 「弁護士人口増員論について~札幌での状況」

4 「弁護士人口に関する意見」(愛知県弁護士会常議員会決議)報告

5 質疑・フリートーク

6 行動提起

7 閉会挨拶

激増をめぐる現状について

第1報告では,これまでの司法試験合格者数の変化と今後の予想,弁護士人口をめぐる各種審議会の意見・答申,新法曹養成制度の概要とこれまでの制度との違いについて報告を行いました。

弁護士の就職難については既に59期から顕在化していたようで,同期の弁護士から,修習修了までに就職先の決まらなかった修習生がクラスで3名おり,修習終了後の翌年2月になってようやく全員の就職が決まったといった実態が紹介されました。

また,60期の就職状況については,多摩地区の弁護士から,新人弁護士の募集をかけたところ,これまでであれば5名くらいしか集まらないところ,40名もの応募があった,しかも,司法試験の成績を持参してアピールするなど,今までにない行動を取ってくる応募者も見られるといった紹介がありました。

第3報告では,激増をめぐる地方の状況として,札幌の猪野さんから,多重債務整理業務が多数存在することもあって危機感はまだ薄いが,弁護士数の増加に伴い弁護士としての意識の同質性が失われているように思われるといった報告がありました。

一方,在京の弁護士からは,近時はこれまでなら受任していなかった地方の事件も受任するようになってきている,それだけ東京では(競争の激化のためか)仕事が減ってきているといった話がありました。また,国選刑事弁護について,現在は事件を取るために弁護士会に朝から弁護士が並ぶような状況になっており,その様子はまるで職安のようであるとの報告もありました。東京はこれまでも弁護士が集中していたこともあり,競争が地方に比べより激しいようです。

激増の問題点について

第2報告では,沖縄の岡島さんから,司法改革の動きについて,近年の社会の各領域への1)市場原理の浸透と2)権力的監視の浸透という動きを相伴ったものであるとの見方が示されました。

その上で,弁護士の存立基盤を「リーガルサービス」に置き,単なるサービス業の一種として捉えた場合,市場原理の浸透の一環としての激増に抗うことはできない,むしろ,人権擁護(これは弁護士に必ずしも経済的保障を与えない。)が弁護士の本質的業務,存立基盤であり,このような本質を持つ弁護士業務は「社会的共通資本」である,そのような社会的共通資本を支えるためには,弁護士を競争圧力に無条件でさらすことは避けなければならないということを,激増に反対する理由としていくべきとの議論が示されました。

この点については,人権擁護よりも質の低下ということを訴えるべきではないかといった意見がありました。

また,弁護士が競争にさらされていないから報酬が高いと言われる点についても議論がありました。

質の低下や人権擁護機能の低下への不安については,前者については競争による淘汰,後者については公的扶助の存在といったことで対処できるという説明が考えられますし,今までも激増論者からなされてきたように思います。

これに対しては,競争による淘汰の過程で「質の低下」した弁護士に当たった依頼者はどうするのか,また,公的扶助の担い手として考えられている司法支援センターは,検察庁を同一組織内に持つ法務省所管の組織であるが,このような司法支援センターと契約した弁護士の弁護を被疑者・被告人として受けることをどう考えるかといったことを世間の人々に想像してもらうことで,激増の問題点を理解してもらうしかないでしょう。

新法曹養成制度について

この点については,

新司法試験経由の修習生はこれまでの修習生に比べバラつきが大きい

61期からは導入研修がなくなるがいきなり実務修習というのは問題で,前期研修を復活させるべきである

追試がなくなった状況で二回試験に不合格となった者は翌年まで弁護士になれないことになるが,現在のような就職難の状況では就職は事実上不可能になるのではないか

といった点が問題点として指摘されました。

今後について等

第4報告では,愛知県弁護士会の纐纈さんから,3000人増員計画自体の見直しを求める旨の愛知県弁護士会意見(「弁護士人口に関する意見書(2007年2月13日,愛知県弁護士会)についての紹介がありました。

このような意見が弁護士会の常議員会で反対なく可決されるということは画期的なこととのことです。

今回の集い以後の活動としては,弁護士激増・法曹養成制度の見直しの必要性について,弁護士界内外に引き続き訴えていき,その一環として,秋により大規模な集会を開催することになりました。

ところで,日弁連執行部は現段階では,3000人という年間合格者数を見直すつもりはなく,それは先に述べたように,もともと3000人というのは全員が弁護士として法律事務所に入ることを想定した人数ではないからであるということのようです。

いったん決まった以上はその後事情が変わっても計画が変更されない公共事業みたいですね・・・。