着床前診断についての自主規制違反を理由とする除名は有効2007年05月11日

妥当な結論でしょう。

受精卵診断、医師除名は有効 法整備も促す 東京地裁asahi.com

遺伝性の病気などを妊娠前に調べる受精卵診断(着床前診断)を日本産科婦人科学会(日産婦)が自主規制しているのは違法だとして、神戸市の産婦人科医らが規制の無効確認などを求めた訴訟で、東京地裁は10日、無効確認の訴えを却下するなど原告側の主張をすべて退ける判決を言い渡した。中村也寸志裁判長は「規制が公序良俗に反するとまでは言えない」と理由を述べる一方で、立法による速やかな対応が必要との見解を示した。

訴えていたのは、大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎院長と患者ら。大谷医師は男女産み分けなどのために診断を実施。学会は大谷医師が会告に違反したとして除名処分にした。

中村裁判長は、現状について「立法が社会情勢の変化に対応して迅速に行われないため、学会の規制が法律に代わる機能の一端を果たさざるをえない状況だ」と指摘。規制が公序良俗に反する場合に限って無効になるとしたうえで、会員から広く意見を聴取して規制が決定された経緯などに照らし、「医学的な妥当性には検討の余地はあるとしても、公序良俗に反するとまでは言えない」とした。除名処分についても有効と判断した。

その一方で「遺伝病のない子を持ちたいという親の切実な希望、障害者の意見など多角的な検討が必要だ」と言及。学会による規制が理想とはいえないとして、何らかの法整備を促した。

判決がどのような理由で規制を公序良俗に反しないとしているのか,「医学的な妥当性には検討の余地はある」というのはどういう趣旨なのか,判決文を見ていないので分かりませんが,規制することについて合理性を認めたことは評価できます。

ただ,「遺伝病のない子を持ちたいという親の切実な希望」を検討に当たっての考慮要素として重視しているようなのはいかがなものでしょうか。そのような切実な希望にもかかわらず生まれてきた子に遺伝病があったら,親は子どもを「失敗作」としてとらえるということなんでしょうか。男女生み分け目的にしても,遺伝病を持つ子の出生防止目的にしても,一定の性質を持った人に対する偏見を助長するものにしか見えません。

着床前診断について法規制を加えるに当たっては,着床前診断が持つ上記問題点を十分に考慮した内容にしてほしいものです(私自身は全面的禁止でもよいと思っています。)。

着床前診断と「産む権利」2007年05月11日

読売新聞の記事によると昨日の判決,子を産む権利の侵害が問題になっていたようですね。

「着床前診断」制限ルールは適法、産婦人科医ら敗訴読売新聞

体外受精で問題のない受精卵を選んで子宮に戻す「着床前診断」を制限する日本産科婦人科学会の自主ルール(会告)は、患者の子を産む権利を侵害するなどとして、産婦人科医らが、会告の無効確認などを求めた訴訟の判決が10日、東京地裁であった。

中村也寸志裁判長は「会告の内容は公序良俗に違反しておらず、着床前診断の制約は違法ではない」と述べ、請求を退ける判決を言い渡した。

女性が産む権利を持つというのは,リプロダクティブ・ヘルス/ライツという考え方で,それ自体は肯定できると思いますし,(子どもを選別しない形での)中絶一般については広く認めてもよいように考えています。

でも,受精卵の段階とはいえ,生まれてきてよいものとそうでないものを選別するというのは権利行使とは言えないように思います。

選別が認められた場合,選別を経ずに生まれてきた障碍者については,選別を経ずに生まれてきたのだから親の自己責任であるとして,育児に当たっての福祉が受けられないということにはならないのでしょうか。

欧米では遺伝病を持つ子の出生回避の手段として着床前診断が認められている国があります。認める際の論理としては,選別を認めることと,生まれてきた子どもに対する福祉を手厚くすることは両立するというダブル・スタンダード論が唱えられています。

しかし,選別によって生まれてくる障碍者が減った結果,その障碍者に対する医療を施せる地域が減ったりするなど,障碍者の生活に対する影響が出ているとのリポートもあります(酒井「出生前診断」(NHK出版))。

産む権利と言っても無制限のものではなく,他の人権との調整が必要です。「障碍のない子を産む」といったことまで権利だというのはグロテスクな主張にしか思えません。