45分入力して15分中断は問題視されるべきことか?2007年06月18日

もう10年以上前のことです。テレビゲームに長時間にわたり興じていた私を見咎め,当時勤務先で総務畑の仕事を担当していた父親が言うには 「労働省の基準でも1時間(と言ったと思います)作業したら15分休憩することになっているんだ」 とのこと。

最近,年金記録問題に関連して,社会保険庁と自治労との間で労働条件に関して結ばれていた「覚書」「確認事項」が問題視されたことを見聞きし,上のような記憶が思い起こされました。

そんな基準が本当にあるのかと,「VDT 労働衛生」でググって見たところ,現行の基準が厚生労働省のページに載っていました。

このガイドライン(VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン)では,

事務所において行われるVDT作業(ディスプレイ、キーボード等により構成されるVDT(Visual Display Terminals)機器を使用して、データの入力・検索・照合等、文章・画像等の作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業)

について

イ  一日の作業時間

(イ)  作業区分A

別紙における「作業区分A」に該当する作業に従事する者(以下「作業区分Aの作業者」という。)については、視覚負担をはじめとする心身の負担を軽減するため、ディスプレイ画面を注視する時間やキーを操作する時間をできるだけ短くすることが望ましく、他の作業を組み込むこと又は他の作業とのローテーションを実施することなどにより、一日の連続VDT作業時間が短くなるように配慮すること。

(ロ)  作業区分B

別紙における「作業区分B」に該当する作業に従事する者(以下「作業区分Bの作業者」という。)についても、同様に、VDT作業が過度に長時間にわたり行われることのないように指導すること。

ロ  一連続作業時間及び作業休止時間

(イ)  「単純入力型」及び「拘束型」

別紙における「作業の種類」の「単純入力型」及び「拘束型」に該当する作業に従事する者については、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10分~15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1回~2回程度の小休止を設けること。

(ロ)  (イ)以外の型

別紙における「作業の種類」の「単純入力型」及び「拘束型」以外の型に該当する作業に従事する者については、同様に作業休止時間及び小休止を設けるよう指導すること。

ハ  業務量への配慮

作業者の疲労の蓄積を防止するため、個々の作業者の特性を十分に配慮した無理のない適度な業務量となるよう配慮すること。

と定められています。

年金記録の端末への入力は,「資料、伝票、原稿等からデータ、文章等を入力する。(CADへの単純入力を含む。)」という「単純入力型」に当たるでしょうから,一連続作業時間が1時間をこえないようにしなければならず,次の連続作業時間までの間に10~15分の作業休止時間を設けなければなりません。さらに,一連続作業時間内に小休止を1~2回設けなければならないのです。

社会保険庁と自治労との間の「覚書」ないし「確認事項」には,

窓口装置を連続操作する場合の1連続作業時間は、50分以内とし操作時間50分ごとに、15分の操作しない時間を設ける

との定め(後に連続作業時間は45分以内とされたとのことです。)があったとのことですが,15分の「操作しない時間」はガイドラインの規定に合っていますし,連続作業時間が短縮されていることについても,上記ガイドラインの趣旨(「ディスプレイ画面を注視する時間やキーを操作する時間をできるだけ短くする」)に照らせば,短すぎるとは言えないでしょう。

また,端末機操作は専門職化されておらず,一般職職員が行うことからすれば,操作しない時間には別の業務をやっていたという自治労の主張は合理的なものと推測されるので,端末操作の一連続時間が短いことをもって非難するのはおかしなことです。

この点,

45分やったら、15分休憩

と言う自民党や,

ふんふん、50分働いて15分休憩ということか。

などという産経新聞記者に対しては,政治家や表現者としての能力に疑問を持たざるを得ません。

「終末期医療に関するガイドライン(たたき台)」の問題点2007年06月19日

第二東京弁護士会のサイトに,厚生労働省が意見を募集した「終末期医療に関するガイドライン(たたき台)」に対する人権擁護委員会の意見書(PDF)が公開されています。

この意見書では上記ガイドラインに併せて,日本尊厳死協会が2003年12月に公表した「尊厳死に関する法律要綱案」と,尊厳死法制化を考える議員連盟が2005年11月に公表した「尊厳死の法制化に関する要綱骨子案」についても意見を述べています。

意見書では,「尊厳死」「延命」と言った用語自体がミスリーディングな用語ではないか,尊厳死を認めることは患者の生命権を侵害するものではないかなどの観点から,上記ガイドライン案や要綱案,骨子案を批判的に検討しています。

電磁波の健康被害~WHOが認めた研究結果を葬り去ろうとした文部科学省2007年06月19日

文部科学省はどう考えているのでしょうか?

WHO、電磁波対策の法整備を勧告NIKKEI NET

WHOは、具体的な規制値は示さなかったものの、日本や米国などでの疫学調査から「常時平均0.3―0.4マイクロテスラ(テスラは磁界や磁石の強さを表す単位)以上の電磁波にさらされていると小児白血病の発症率が2倍になる」との研究結果を支持。「電磁波と健康被害の直接の因果関係は認められないが、関連は否定できず、予防的な対策が必要だ」と結論づけた。

落合弁護士のブログ経由で知りました。)

上記報告書で挙げられている「日本・・での疫学調査」とは,生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究(概要はこちら,詳細報告本文はこちら)です。

この研究では,電磁波の小児の健康に及ぼす影響に関して,寝室での磁界レベルが0.4マイクロテスラ以上になると,小児白血病のリスクが2.6倍になるという結果が示されていました。

ところが,この研究に科学技術振興調整費という形で資金を出した文部科学省は,こちらにあるような,極めて低い評価を下しました。評価項目の全てにわたり,3段階評価で最低ランクのC評価をつけたのです。

このような評価が下ったいきさつについてはこちらの読売の記事(安全?危険?電磁波(3)葬られた疫学からの警鐘)で詳しく述べられていますが(よく取材されていると感心しました。),調査研究結果の影響をできる限り矮小化して葬り去ろうという役所や電力業界の意図がうかがえます。

幸い,この研究結果はその後専門誌に掲載され(専門誌に載るには査読を得なければならないので,掲載によって研究結果の信憑性が認められたということになるそうです。),そしてこの度WHOの環境保健基準でも取り上げられるようになりました。

市民団体からは企業寄りと批判されることもあるWHOですが,そのようなWHOさえ認めるに至った研究を文部科学省が葬り去ろうとしていたことは,今後の文部科学行政を見つめる上で忘れてはならないことでしょう。

追記

今回のWHOの報告は,こちらに掲載されています。ただし英文ですが・・。

代理出産~自分が代理母になる場合はどうなんだろう?2007年06月22日

代理出産容認54% 自分なら利用10% 厚労省調べasahi.com

生殖補助医療について厚生労働省が実施した国民の意識調査で、子どもをほかの女性に産んでもらう代理出産を「社会的に認めてよい」とした人が54%にのぼったことが21日わかった。「認められない」は16%にとどまった。代理出産の是非などを巡っては、厚労省などの依頼で日本学術会議が年内にも結論を出す予定で議論を進めており、今回の調査結果は影響を与えそうだ。

調査は3月、一般国民(20~69歳の男女)5000人と小児科や産婦人科の医師らを対象に行った。

アンケートを取る際の情報の提供の仕方はどんなものだったのでしょうか。

代理出産については依頼者となる女性の側の卵子排出時の苦労の問題や,代理出産する女性の側の身体の危険,代理出産する女性に契約上課せられる種々の制約,代理母が出産経験者の場合の,既に生まれた子どもの精神に与える影響など,代理出産の具体的実態について知らされた上で調査しなければ,単に「子どもがほしいけどできない人がいるからかわいそう」という感情から賛成する人が増える気がします。

アンケートに当たっては,例えばこちらのページに書いてあることくらいは読んでもらうべきだったように思います。

代理母/代理母出産/代理出産arsvi.com

さて、妊娠期間中、代理母は妊婦服を買う費用として 200ドルを受け取る。交通費として 1.6キロメートルごとに15セントが支払われる。出産経費をカバーする医療保険に入るかどうかは代理母側の責任とされている。

人工授精は6月カ間、月2回、妊娠しなかったら計画からはずされ、新しい代理母に この場合、報酬は受けない 流産した場合も報酬はなし 死産の場合は契約を完了したとみなされる ……

ところでこの調査,記事の以下の部分を見ると,自分が代理出産を依頼する側に回ることだけ考えさせているかのようにも見えます。

ただ、自分が子どもに恵まれない場合の代理出産については「利用したい」が10%、「配偶者が賛成したら利用したい」が41%。これに対し「配偶者が望んでも利用しない」も48%おり、より慎重な傾向がうかがえた。

代理出産をしてもらう女性は誰がいいか(複数回答)は「姉妹」が38%で最も多く、「分からない」が34%。「仲介業者から紹介される女性」28%、「母親」16%だった。

この調査って,まじめに考えさせるのであれば,自らが頼まれる側になった場合の賛否についても問うべきように思うのですが・・・。そもそも日本でできないから外国に行って行うのはおかしいというのが容認論の理由の一つだったのだから,代理出産が容認されるということは,自分が依頼される側に立つこともありうるということなのですが・・。

新聞記事から見る限りでは,この調査で代理出産を認めるべきという結論を出すのはいかがなものかという気がします。

また,仮に一定の場合に代理出産を認めるとしても,代理出産で生まれた子どもの戸籍上の取扱いについては,既に述べたように,依頼者の実子としての届出を認めるべきではないでしょう。

レイアウト変更2007年06月24日

レイアウトを変更するとともに,トンパおみくじをつけてみました。

法曹関係者では稀な(少なくともネット上で公言しているのは他にいないと思う・・)超漢字使用者であることのアピールと,同ソフト利用者=同志の増加をもくろんでのことです。

カテゴリーも増やしました。

出た1等6億円が2口=ビッグで国内くじ史上最高額,って煽っていいのか?2007年06月25日

最高金額が高いことはよいことなんでしょうか。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070624-00000091-jij-spo

日本スポーツ振興センターは24日、第286回スポーツ振興くじ(サッカーくじ、愛称toto)のBIG(ビッグ)で、国内くじ史上最高額となる1等当せん金6億円が2口生まれたと発表した。過去最高は同じビッグで昨年11月に出た5億8415万6640円。当せんくじの発売場所は26日以降に発表する予定という。

販売金額のうち当選金に充てられる割合が50%を割る,つまり寺銭5割以上というものについて,高額な当選金の可能性があると言って購買をあおるのはいかがなものかという気がします。

こちらにも書きましたが,こういった籤やゲームについての規制に関しては,期待値がどのくらいかを買い手に周知させるようにすることが必要でしょう。

追記

ヤメ蚊さんの記事を見ると,totoについては払戻金以外の使途についても明確にさせることが必要かもしれませんね・・。

「異常」受精卵かどうかはどう判断するのか?2007年06月27日

「異常」か否かってどういう基準で判断するのでしょうか。

ヒトクローン胚作製 異常受精卵からも認める方針

文部科学省の人クローン胚(はい)研究利用作業部会は26日、これまで未受精卵の利用を前提に検討してきた研究目的のヒトクローン胚作製を、一部の受精卵を使う場合にも認める方針で合意した。新たに認めるのは、異常のため生殖医療に使われず廃棄される受精卵の利用で、今後、実施のための条件を詳しく詰める。

国内では受精卵の扱いを巡り、ヒト胚性幹(ES)細胞の作製をめぐる指針づくりの過程で「生命の萌芽(ほうが)」としつつ、研究目的に限って壊すことを認めている。ただ、これまでのクローン胚は未受精卵から作る技術しかなかったため、国の総合科学技術会議でもヒトクローン胚の作製・利用について、未受精卵の利用を前提に容認する報告書をとりまとめていた。

今回の方針変更は、米ハーバード大チームがマウスの異常な受精卵を使って、クローン胚作製に成功したのをうけたもの。将来的にはヒトでも可能とみられ、利用できる卵の対象を広げることでクローン胚作製の機会を増やす狙いがある。

作業部会では当初、あくまでも受精卵を「生命の萌芽」として改めて慎重な扱いを求める意見と、ヒトES細胞をめぐる指針づくりで議論は終わっているとする意見が出た。最終的には、受精卵の異常を理由に廃棄・利用に同意された胚について、クローン胚作製に使うことを認める方向で進めることにした。

一方、この日の部会では、分化が進んでクローン胚作製に使えないと通常みられる正常な受精卵でも、クローン胚づくりが可能なことを示唆する同じハーバード大チームの研究が紹介された。

これについては「廃棄する必然性のない正常な受精卵を使ったクローン技術にもつながる可能性がある」として、あらためて慎重な審議が必要とする意見が複数の委員から出された。

「異常のため生殖医療に使われず廃棄される受精卵」といいますが,異常か否かは誰が判断するのでしょうか?また何をもって「異常」とするのでしょうか。全く生まれる可能性がないことを持って異常とするのか,それとも生まれてきた時に障碍を持つ可能性があることをもって「異常」とするのか。後者だとすれば,同様の疾病を持つ人に対する差別思想であると言わざるを得ないでしょう。

また,「異常」であればヒトクローン胚作製に使ってもよく,「正常」であればダメというように差別する根拠は何なのでしょうか。

作業部会の上記考え方は,「異常」なものというレッテル張りをして,研究に使ってもいいものだというイメージを作ろうという考え方が透けて見えるので極めて不愉快な提案だと思いますが,そもそも異常だとしても使ってもいいのかというところから慎重に考えていかなければならないように思います。