予防原則の適用では中国にも負けている? ― 2008年01月14日
先ほどテレビ番組(びっくり法律旅行社 世界一周の旅スペシャル)を見ていたら,
中国では携帯電話の発する電波の悪影響を考慮して,ガソリンスタンドでの携帯電話の使用が禁じられている
というのがクイズになっていた。
日本では携帯電話の電波の影響によると思われる事故は起きていないので使用が規制されていないという説明がなされていた。
これって,中国では予防原則が適用されているのに対し,日本では適用されていないっていうことではないか。
この点は中国を見習うべきものがあるように思う。
プレゼンテーションソフト利用の巧拙で裁判が決まる? ― 2008年01月15日
違和感をぬぐえません。
法廷でのプレゼン能力磨け 米国の弁護士らが実技指導(asahi.com)
鹿児島地検では、05年9月から一部の公判でパソコンのプレゼンテーションソフトを使っている。検事は「視覚的に訴えやすくなり、要点もおさえやすくなる」と、手応えを感じている。対する鹿児島県弁護士会の上野英城会長は「ベテラン弁護士になると、ソフトを使いこなせる人は少ない。検察より出遅れている感は否めない」と危機感を持つ。
プレゼンテーションソフトの利用方法の巧拙で結果が決まる制度というのが果たしていいものかどうかということには思いは及ばないのでしょうか。
また逆に,現行の職業裁判官による裁判ではプレゼンテーション能力はいらないということなのか,というのも聞きたいところです。
職業裁判官にはプレゼンテーションは通用しなかったが裁判員になら通じるというのは,何か裁判員をバカにした態度のようにも見えます。
裁判員制度は,旗振り役だった日弁連がやっぱりおかしいといえばひっくり返る可能性の大きい制度だと思うのですが。
虐殺展示への苦情申入れの前になすべきこと ― 2008年01月17日
中国人が日本人に虐殺されたことの記念館なのに,日本人に配慮を求めろっていうの無理じゃないですか?
南京虐殺展示内容で申し入れ 日本政府「事実関係に疑義」(東京新聞)
【上海16日共同】中国・上海の日本総領事館の隈丸優次総領事は16日、面積を拡張して再オープンした南京大虐殺記念館(江蘇省南京市)について、中国側が主張する30万人という犠牲者数などを念頭に「事実関係に疑義がある展示がある」として、南京市幹部らに見直しを求める申し入れを行ったことを明らかにした。
旧日本軍の南京占領から70年に当たる先月13日に再オープンした記念館新館は、30万人という犠牲者数を至る所に表記するなど旧日本軍の「非人道性」を強調。
これに対し、隈丸総領事はこのほど南京市幹部や記念館の朱成山館長らと会談、日本政府の「問題意識」を伝達した。
この中で総領事は(1)残虐性が強調されており、(日本への)恨みを引き起こすという懸念がある(2)国交正常化以降の日中関係の進展などについての展示が不十分-などと指摘、福田康夫首相の訪中など日中間の「良い雰囲気」が反映されていないとの見方を伝えた。
南京大虐殺記念館「展示」に政府が異例の見直し申し入れ(YOMIURI ONLINE)
【上海=加藤隆則】隈丸優次・駐上海日本総領事は16日、昨年末に大幅拡張された「南京大虐殺記念館」に対し、「日本人の残虐さを繰り返し強調しており、参観した中国人に日本人への反感、恨みを抱かせる懸念がある」として、展示内容の見直しを申し入れたことを明らかにした。
日本政府が中国の抗日戦争関連施設に直接、展示見直しを求めたのは極めて異例。
申し入れは隈丸氏が10、11の両日、南京市を訪れ、同市や同館の首脳部に「日本政府の問題意識」として伝達。諸説ある南京事件の犠牲者を同館が30万人と特定していることに触れ、「従来以上に30万人が強調されている。いろいろな意見にも耳を傾けるべき」と述べた。中国側は「対日関係には十分配慮し、平和のメッセージを伝える内容だ」などと応じたという。
30万人という数を殊更に問題視しているようなのですが,数がスローガンに使われるのが嫌だということなのでしょうか。
しかし,虐殺された人の数が30万人かどうかは別として,虐殺したこと自体までは否定できないことは日本政府も認めています。そうであるからこそ,残虐性を強調している例として,「30万人」を挙げているのでしょう。
これが一般の刑事裁判であれば,30万人殺したとして起訴されている人について,3万人しか殺していないと弁護することは意味があります(今の日本の量刑基準ではどちらでも変わらないかもしれませんが)。
しかし政治的振舞いとして,30万人は殺していないということが妥当なのかは別問題です。30万人であっても,数万人,はたまた千人であっても,殺された人の側からすれば怨念は残ります。
しかもこの上海日本総領事,日中関係発展の展示が少ないなどという苦情を述べた由。それって自分たちは中国に善行を施したから感謝しろと言っているのと同じで,図々しさも甚だしいものです。
南京での虐殺があったことは素直に認めて謝罪し,将来二度と繰り返さないように誓う。過去を美化するような放言は少なくとも政治家が行わないということを,社会的コンセンサスにしていく。このようにすることで,過去の人は過ちをしたが今の我々はその過ちの歴史を押さえて二度と繰り返さないようにしていると胸を張って言えるような社会を作る。こうしたことで,虐殺記念館の展示ごときでゆらぐことのない関係を作っていくことが大事なのではないでしょうか。また,そうしてこそ,物を言い合える関係の基礎も作れるのではないでしょうか。
代理出産:法律で一律禁止を 学術会議検討委が報告書案 ― 2008年01月18日
一方的な情に流されない報告で,ホッとしています。
http://mainichi.jp/select/science/news/20080119k0000m040099000c.html
不妊夫婦のために他の女性が夫婦の受精卵を妊娠・出産する代理出産について、日本学術会議の検討委員会は18日、代理出産を法律で一律に禁止することを求める報告書案を提示した。法で規制する方針については合意したが、一部容認を求める意見も出され、調整を続けることにした。
この日は、背景説明や代理出産の許容性に関する部分の報告書案が示された。代理出産を許容するか否かに関し、▽死亡の危険性のある妊娠・出産を第三者に課す問題が大きい▽胎児への影響が不明▽「家」を重視する日本では強制や誘導が懸念される▽本来の生殖活動から大きく逸脱している▽胎児に障害があった場合の解決が当事者間の契約だけでは困難--などの問題点を指摘した。
そのうえで、このような技術を不妊夫婦の希望や妊娠・出産者との契約、医師の判断だけに委ねることは「妥当性を欠く」として、法律による規制を求めた。
だが、法律で禁止する対象や処罰の範囲については意見が分かれた。委員の中には「全面禁止にはすべきでない。報告書は両論併記にすべきだ」との意見もあり、次回の検討委を目指して調整することになった。
私は主に,代理出産者に対する身体的負担と,日本では強制や誘導が懸念されることから,代理出産契約は営利,非営利問わず禁止すべきと考えています。
規制を実効的なものにし,海外で行うことが跳梁跋扈することを防ぐためには,依頼者,仲介業者及び医師に対して,国外犯も処罰するという形の罰則規定を設けるべきでしょう。
また,強制や誘導のおそれという点からは,近親者による代理出産は特に強く規制すべきように思います。
ところで,毎日の別の記事では,
一方、代理出産に関する科学的な研究について、国の厳重な管理のもとで試行的に実施する方法があると言及している。具体的な実施方法については国が検討し、20~30年にわたり、生まれた子の成長過程や出産した女性の健康状況について報告義務を課すなど慎重な検討を求める声も出ている。
と書かれています。この試行的実施って,脱法行為として機能するおそれはないんでしょうか。
また,臨床試験としてではあれ,国が女性をいわば産む機械として扱うことを正面から認めるということであり,人間の尊厳を踏みにじるもので許されないのではないかという気がします。
代理出産の規制に反して生まれてきた子どもの戸籍上の扱いについては,記事で見る限りでは報告書上触れられていないようですが,別記事(「代理出産と戸籍上の取扱い」)で述べたとおり,代理出産者を実母とした上で,やむを得ない場合(代理出産者の養育が期待できない場合)に限り特別養子同様の手続を経て依頼者が親となれる手続を経させるべきでしょう。子どもがほしいという熱心さのあまり,子どもができた時点で燃え尽きてしまうことも考えられますし,目的達成のために人の身体に負担をかけることをいとわない人たちに本当に子どもの養育を任せてよいのかは慎重に考えるべきだからです。
予防原則における「二重の基準」(ダブル・スタンダード) ― 2008年01月19日
以下は今年の事務所報に載せたものに一部加筆訂正したものです。
飛行機に乗ると,搭乗している間中,携帯電話など電波を発信する機器は電源を入れること自体が禁止される。飛行機の操縦に影響を与えるからという理由だ。この携帯電話,心臓のペースメーカーを使っている人の近くで使うと,ペースメーカーの誤作動を起こす危険もあるという。このように機械に影響を及ぼすおそれのある電波(電磁波)は,人体に安全なものなのだろうか。
電磁波のうち極低周波(高圧線などが出す電磁波。携帯電話の出すのは主に高周波)について世界保健機構(WHO)は昨年,新しい環境保健基準を示し,その中で,健康被害を予防するための措置を講じることを推奨した。その根拠として,「平均〇・四マイクロテスラ(四ミリガウス)以上の低周波磁界の環境では、小児白血病の発症が二倍ほど増える」という疫学研究の結果を取り上げている。
この問題での日本政府の対応は消極的だ。政府は前記基準を受けて原子力安全・保安部会電力安全小委員会内にワーキング・グループを作ったが,昨年一二月の会合で検討された報告書案では,電磁波の長期的影響については不確実であるとして,厳しい規制を取ることを否定している。因果関係が分からない限りは積極的な予防策は採らないというのだ。
しかし北欧などでは既に,今回の基準を待たずに非常に厳格な基準を設けている。長期的影響が分からないからといって放置しておいては,アスベスト禍の二の舞になるのではないだろうか。現に欧州では電磁波は第二のアスベストと呼ばれているという。
一方政府が「予防策」を積極的に取る分野がある。「テロ」や「組織的犯罪」の「予防」だ。昨年,テロ予防を目的として,入国する全外国人(外交官等は除く)から顔写真と指紋を取得する入国管理制度が導入された。在日外国人に指紋を押捺させる制度の是非が裁判で争われ,結局指紋押捺の制度がなくなったのは二〇〇〇年四月,そんなに前のことではない。 外国人全員を被疑者と同じ扱いとすることに合理的理由があるのだろうか。また政府は,野党・市民からの再三の抵抗にもかかわらず共謀罪の導入に躍起である。集まって話すことだけを取り締まる必要性はどこにあるのか。人々が告発されてつかまることをおそれ,冗談もろくにいえなくなるのではないか。
電磁波規制で専ら制限されるのは電力会社や携帯電話会社などの大会社の経済的自由であるのに対し,新入国管理制度や共謀罪導入で制限されるのは個人のプライバシーやコミュニケーションの自由である。
大会社の経済的自由は保障されるべきだが個人のプライバシーやコミュニケーションは制限されてもやむを得ない,という「二重の基準」は妥当なのだろうか。
憲法学界の通説では,プライバシーやコミュニケーションの自由といった精神的自由の規制については,経済的自由の規制にくらべて,憲法に反しないかどうかの判断基準を厳格なものとすべきとされている。
このような判断基準からすると,大会社の経済的自由について制限することには慎重だが個人の精神的自由については積極的に規制するというのはおかしいのではないだろうか。
法曹人口問題についての架電講習会って・・ ― 2008年01月22日
日弁連会長選挙の某候補陣営が,電話勧誘の際に法曹人口問題について聞かれた際の実践的な答え方の講習会を今朝東京で開いたようだ。
事前情報では,午前8時から候補者本人が来て話をした後,講習会を開くということだった。
午前8時って,通常なら家で朝ご飯作ってる時間だよ・・・。
さすが朝食会などになれている人たちであると感心してしまった。
相手方陣営も同じようなことやるのかな?でも朝食会なんて縁のなさそうな人たちのような気もするしな・・・。
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