新聞社の遵法意識と自由経済の理解度について2008年02月18日

新聞販売員に対して絶大なる効力を発揮する断り方をお教えしたい。

私はこれで,ここ十数年来,新聞を購読せずに済ませてきている。

再販がある限り取らないこととしています」というのだ。

これは私の本音であり,実際に再販適用除外がなくなるまでは定期購読はしないつもりでいる。

弁護士の中にはM.T.さんのように新聞購読をやめられる決意をされた方もいらっしゃるとのこと,御同慶の至りである。

今後しつこい勧誘員に勧誘されたら,上記台詞で撃退されることをお勧めしたい。

ところで先日の日弁連会長選挙の結果につき,いくつかの新聞で,激増見直しを言い出すのはけしからんというトーンの社説が載った。これに対する弁護士からの反論の中で,新聞には再販売価格維持契約禁止の例外や,地域別に価格差をつけて販売することを禁止する特殊指定があることが指摘されている。

こうした例外的扱いを受け,新聞業界がいわば独禁法番外地ともいえる状態になっていることは確かにヘンだ。

ただ,問題は単に競争を制限していることだけではないように思う。

新聞業界は競争を制限するルールを設けるのに熱心だが,それを破ることにかけても,とても熱心なのである。

公取のサイトにある審決等データベースシステムで,事件名に新聞と入れ検索してみると,多くの事件がヒットする。

景品表示法が制定された昭和37年以降のものに限っても,36件の審決や排除命令が出されており,そのほとんどが,景品表示法上の排除命令である。

新聞業界については,公取による業種別規制(「新聞業における景品類の提供に関する事項の制限」)のほか,景品の規制についての自主的な業界ルールが公正競争規約(PDF)という形で定められ,公正競争規約の運用機関として新聞公正取引協議会という組織が存在している。

景品類についての公正競争規約が存在する業界の場合,過大な景品類の提供については,まず公正取引協議会によって業界内での制裁が加えられ,悪質なもののみが公取による措置の対象となってくる。

私の記憶では,景品類の提供について公正競争規約を設けている業界で,公取からこれほどまでに排除命令を受けている業界はない。

新聞はその販売について余りにも問題が多いことから,販売正常化宣言というのが何度か出されるに至っている。正常化を宣言しなければならないほど異常,違法な状態がまかりとおっているということだ。

新聞業界も法令遵守のため,各販売店ごとに組織内弁護士を1名ずつ雇うようにしてはどうだろうか。

併せて,取材段階での人権侵害の防止のため,各支局ごとにも組織内弁護士を1名ずつ雇うようにすべきだろう。

ところでこの景品規制,1998年(平成10年)までは,新聞業における景品類の提供を禁止するものだった。禁止から一部解禁へと変更になったのは,公取の要望もあるが,新聞販売拡張の手段として景品類の提供が必要だからという新聞社の判断もあったからだという。

御都合主義きわまれりという感じだ。

それに,販売の拡張は,本来,よりよい内容のものをより安い値段で提供するという形の競争で行うのが本筋である。景品という,取引本来の内容でないものでお客をつろうというのは邪道である(マーケティングの手段としてはあるのかも知れないが。)。

景品による顧客獲得競争を緩和し,価格による顧客獲得競争を禁止する。こうしたいびつな競争形態が,市場経済,競争社会の本質,例えば,儲からない(生活のできない)仕事へは人は就業しないことについての新聞社の無理解へとつながっているのではないだろうか。

ところで,一連の激増見直し批判のトップバッターを切った日経の社説は,以下のように締めくくっている。

日本の司法は、大方の国民の役には立たない「2割司法」と酷評されてきた。司法改革の大目標にすえた、そこからの脱却にはまず法曹の大幅増員が要る、と再確認したい。

2割司法からの脱却を唱えた人がどのようなことを実際にしたのか。日経社説子はそれを認識してこのフレーズを使っているのだろうか。

新聞社は,2割司法からの脱却を唱えるよりも先に,一度,独禁法番外地から脱却して,市場経済というのが何かを世間並みに体験した方がいいのではないだろうか。