代理出産が認められている国の実情は?2008年04月04日

代理母志願の「軍人の妻」急増=半数を占める州も-米誌

【ニューヨーク1日時事】3月31日発売の米誌ニューズウィーク最新号は、第三者の子供を産む代理母に、軍人を夫に持つ女性が志願するケースが急増していると報じた。夫が戦地に赴いている間を利用できることなどが理由。テキサス州やカリフォルニア州では、代理母の半数を「軍人の妻」が占めるという。

同誌によれば、不妊に悩む夫婦らに代わって妊娠・出産に臨む代理母への報酬は、2万-2万5000ドル(約200万-250万円)。これに対し、新兵の年間基本給は最高で約2万9000ドル(約290万円)だ。転勤が多い米兵の妻が定職に就いてキャリアを築くのは困難だが、代理出産であれば家計に大きく寄与できる。

cf.代理出産:これが実態だ国際結婚妻のひとり言。

年間290万円の給与で軍人という危険な任務に就く人がいるのも驚きだが,代理母になる人には貧困者が多いという実態を思い知らされる。

妊娠・出産には現在でも死の危険が伴うわけで,軍人とその妻はいずれもその身を殊更に危険にさらす業務に,しかも高いとはいえない報酬(十月十日で200~250万円という収入より低い収入の代理出産依頼者(カップル)というのはまれであろう。)で就くことを余儀なくされている。

このような社会が妥当なのかどうか,代理出産を肯定する論者にはよく考えてほしいものだ。

一方,営利目的での代理出産を禁じさえすればいいのではないかというと,そうも言えない。

以下はむささびさんの記事経由で知ったものだが,英国の実態をよく知らせてくれていると思う反面,この記者の姿勢には疑問を感じざるを得ないものがある。

「産むための選択」代理母制度

去年秋から今年の春にかけて英国の「代理母制度」を取材しました。英国では90年以降、手続きさえすれば、代理出産で生まれた子供を「実子」とすることが認められています。

いきなりですが、代理出産で産まれた子供を見たことありますか?

ということで、訪ねました。

こちらはオリバー君とアリスちゃん、15歳の双子です。

(年齢が、いかに前から制度があるかを物語っています)

「母は1人で混乱はないんだよね」「生まれてよかったです」の言葉に、どっきりしました。

高校に通う彼らは、授業で代理出産についてプレゼンテーションをしたりしているそうです。

代理出産のうちホスト・マザーと呼ばれる形態(日本で話題となったタレント夫婦もこの事例)では,体外受精によりできた胚を代理出産者の子宮に着床させて懐胎させる。その際,成功率を高めるために,一度に複数の胚を入れることがある。つまり,人為的に多胎の状況を作り出すのだ。上記の双子もそのようにして生まれてきたのだろう。 双子の妊娠・出産は一人の子どもの妊娠・出産よりも母体に負担をかけるものだ。子どもをほしいと望む夫婦自身が多胎による危険に自らをさらすのならまだしも,このような危険を第三者に受けさせることが果たして妥当なのだろうか。

記事は次に,代理出産を依頼して子どもを得た女性の話へと続く。

「とにかく代理出産で肝心なのは、代理母との信頼関係だ」とのこと。

過去の例では、10か月もお腹の中に居た子供を手放したくないと気持ちの変わる代理母も居て裁判になったりしています。・・・・いくら進んでいるとはいえ、産んだ女性が最初の段階で、母親であることには争いはありません。

出産後に手続きをするわけですが、それは当人同士の信頼関係でやるもの。法的義務はないため、余計に2人の間の関係が大事なのです。

リンダさんは、友人関係を続ける努力をしたといいます。

 イギリスでも,出産と同時に依頼者が母親となるものではない,ということだ。このことは,遺伝子が依頼者のものだから依頼者夫婦との間の親子関係を直ちに認めるべきだ,とする人たちには特に強調しておきたい。  

 それにしても,子どもを引き取らせてもらえるために続ける努力をする友人関係って,いかがなものなんだろう?

彼女が話した言葉の重みは、代理出産を支援する団体の会合に通うと、さらに実感できました。

中に、涙ぐむ女性が居ました。彼女は、「代理母」の側でした。

妊娠したわけでもないのに、代理出産をするためには薬を飲んだりして、体調が悪いのだといいます。

さらに、「困っている旦那の親戚に依頼されたから断れなかった」、「でも旦那は複雑な表情をする」・・・そう話し、いかに大変な作業かを語ってくれました。

他にも「人生で自分の出産より遥かに大変だった」という人も居ました。

英国は日本に比べるとイエ制度の縛りなどが薄いと思っていたが,それでもやはり,「旦那の親戚」からの依頼となると断れないものなのか。 日本ではイエによる圧力が更に強力なものとしてかかってくるのではないだろうか。代理出産の「試行」を仮に認めるとしても,親族間での腹の貸し借りは認めるべきでないだろう。

それにしても,「旦那」っていう訳,ジェンダー的に問題あるのでは?何で「夫」と訳さなかったのだろう?

営利目的でない代理出産というが,対価無しに他人のために妊娠・出産のリスクを冒す他人ってどんな人なんだろうか。結局,親族などの関係にある人が周りの圧力から引き受ける場合くらいしか考えられないのではないか。現に,代理出産を日本で手がけている根津医師が呼びかけたボランティアも,代理出産に伴う危険性を告知された途端応募者がゼロになったではないか。

非営利での代理出産についても,周囲の圧力が働く危険が大きいということを考えれば,禁止すべきであろう。

ところで上記の日本テレビの記事,取材はなかなかよくできていると思うのだが,評価の部分になると以下のように,代理出産依頼者の側に偏った見方になるのが残念だ。

英国の代理出産制度は進んでいるといわれていますが、それでも多くの問題点や悩みを抱えていると感じました。

1)依頼する側と依頼される側の間に法的拘束力はなくトラブルになる可能性が残っていること

2)補助制度が整っていない   など・・・まだ不備があります。

依頼される側に対する拘束力を課すのがよいとでも思っているのだろうか。十月十日にわたって体内で育んできた子どもを引き渡さなければならない代理出産者の気持ちには心が及ばないのだろうか?

また、アメリカと違って「商業主義」を禁止しているからこそ、

「必要経費」以外は負担しなくてよいとされていますが、

完全に依頼者目線だな。

こうしたことは日本では、まだまだ先のことかもしれません。法律や制度も違います。

ただ、代理出産で生まれた子供、代理母、依頼した母、の3者の「笑顔」を見て感じたこと;

それは素朴に同じ女性として、「選択肢」があるのはいいことではないか、ということでした。

冒頭で挙げた米国発の記事など見ると,代理母は,「選択肢」が与えられている者というよりもむしろ,依頼者に,代理懐胎の依頼という「選択肢」を提供させられている者ではないか。この記事を書いた記者は,自分や家族が貧困や家族の圧力によって「選択肢」を提供させられる側に回るということは考えないのだろうか。

代理出産については,メディアの報道では子どもを持てない女性の立場からのものが目立つように感じる。しかし実際に代理出産を行う人の立場はどのようなものか,なぜ代理出産を引き受けるようになるのか,といった観点からの報道がきちんとなされていくべきではないだろうか。

ここまで書いてきた後,冒頭の時事通信の基となったNewsweekの記事を見つけた。

The Curious Lives of Surrogates

ウエブ上の翻訳で大意をつかむことができたので,このニュースウイーク記事本体についても別項を立てて触れようと思う。