住民訴訟と議会による賠償請求権放棄の意味するもの ― 2009年07月05日
賠償請求の対象となった行為がなされた背景にも目を向けるべきではないでしょうか・・・。
住民訴訟敗訴…首長への賠償請求阻む自治体(YOMIURI ONLINE)
(ボ2ネタ経由で知りました。)
住民訴訟で敗訴し、判決で「違法な公金支出があり、首長に賠償を求めなければならない」と認定された自治体が、判決の確定前に、賠償請求権を放棄するケースが相次いでいる。
請求権放棄には議会の議決が必要だが、議会が首長へのチェック機能を果たすどころか、“先手”を打って首長への責任追及を阻んでいる形だ。地方議会の多数派が首長を守るなれあいの構図が背景にあるとみられるが、住民側は「訴訟を起こす意味がなくなる」と反発。国は、請求権放棄の議決の制限を検討し始めた。
上記記事に,議会が賠償請求権を行使した事例の表が載っていました。その表によれば,各自治体で問題となった支出や損害は
千葉県鋸南町:町職員の時間外手当
新潟県旧安塚町(現上越市):第3セクター派遣職員の給与
山梨県旧玉穂町(現中央市):公共工事談合を巡る損害賠償
大阪府茨木市:臨時職員への一時金
大阪府大東市:非常勤職員への退職慰労金
神戸市:外郭団体派遣職員の人件費
東京都檜原村:非常勤職員の手当
となっています。
上記対照表を見て気づくのは,山梨県旧玉穂町を除き,職員,特に非常勤職員や嘱託職員についての人件費(嘱託職員や非常勤職員については「物件費」)が問題になっているということです。
現在は地方自治体の現場で職員の非正規化,業務の民間委託が進んでおり,例えば,2008年2月時点での東京都三多摩26市の職員の正規・非正規の割合は,正規職員62%,非正規職員38%となっています(布施哲也『官製ワーキングプア』(七つ森書館)62頁)。
総務省からの人件費圧縮の要請(圧力)の一方で,自治体が住民に提供すべきサービスの総量はそれほど減らないことから,対応策として職員を非正規化し(非正規職員の給与は経理上「人件費」ではなく「物件費」として扱われるため,経理上「人件費」は圧縮された形となります。),又は業務を民間委託することが広く行われるようになりました。
同じ職場の中で,正規職員と同じ仕事をしながら,非正規職員と言うだけで昇給も退職金も受けられないという扱いを受ける(非正規職員が正規職員を指導することもあるそうです。)。このような扱いが不合理だとして,その是正のために非正規・嘱託職員への一時金支給をあえて行うことは,不合理とは思えません。
また,民間委託に伴い第3セクターや外郭団体に派遣された職員の報酬分を,職員の待遇維持のために支給する(民間委託の是非は別論として,当該職員の退職後は経費節減となるのが通常です。)ことも,不合理とは思えません。
こうした報酬の支給については地方公務員法との関係で微妙なところがありますが(詳述は避けます。),実際に現場で働く職員のために支給を決断した首長の判断を議会が賠償請求権放棄という形で支持するというのは,地方自治の現れと評価してもよいものであり,無下に否定されるべきものではないように思います。また,議決によって,条例上規定の無かった一時金の支給を事後的に根拠づける役割を果たすものと見ることも考えられてよいでしょう。
メディアも,単に住民訴訟の意味を無にすると批判する側の声を取り上げるだけでなく(本件に関しては朝日も3月の記事で取り上げていました。),なぜこのような違法とされる公金支出が行われるのか,また議会の議決がなされるのかといった背景事情にまで迫った記事を書いてほしいものです。
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