司法試験合格者増と他業種からの参入は究極の選択か2009年11月12日

弁護士激増に反対する人に向けられる,弁護士会内の増員容認派からの意見として,弁護士の数を増やさないと他業種からの参入要求をはねつけられない,ということが言われます。

でもねえ,これだけ増員を容認しながらなおかつ他業種の参入を許しているわけで,増員が他業種からの参入の阻止に有効に機能しているとは思えないんですよね。

同じ「弁護士」という肩書を持つ人が増えるのと,他業種の人が従前弁護士のみに認められた業務に参入するのとどちらが既存の弁護士にとって対処しやすいかといったら,私は後者だと思います。

具体的にどう対処するか?

弁護士会は,依頼者情報の公権力への通報が法制化されるについては(極めて不十分ではありますが)反対し,法制度上,個々の弁護士から捜査機関への直接の報告はなされないことになりました。これに対し,司法書士など他業種については,

(略)業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあり、又は顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

(犯罪による収益の移転防止に関する法律(依頼者密告法)第9条)

こととされています。しかもこの通報は,依頼者に内緒で行わなければならないこととされています。

このように,他業種については,依頼者に内緒で依頼者の情報が公権力に直接漏らされる可能性のある制度となっているのです。

現実に他業種との競合が生じている以上,この際弁護士会は,

「弁護士は,あなたの秘密を守り抜きます」

といったキャンペーンを張るべきなのではないでしょうか。 (執行部は現行法制を一定の成果であるかのように言っていたのですから,このような宣伝をしても問題はない,はずですよね?)

このほか,司法書士との垣根の問題では,司法書士には簡裁管轄の事件についてしか代理権がないというのもありますが,この点を強調しても司法書士側からの更なる権益拡大要求を呼ぶだけなので,あまり得策ではないように思います(あえて強調すれば,「弁護士は限りなくあなたの権利を守ります。」ということになるのでしょうが。)。 

個人的には,弁護士激増も他業種からの参入も好ましくはありませんが,二者択一を迫られたら,後者の方が差別化を図りやすいだけ個々の弁護士にとってはまだ対処しやすいのではないか,という気がしています。

大学生の就職難も弁護士の就職難も放置してよい問題ではない2009年11月25日

白浜弁護士のブログによれば,日弁連現執行部を支持する弁護士として,「今の大学生も就職が困難となっている時代に、弁護士だけが就職が困難になっているからなんとかしろと言うことはできないという考えを持って」いる弁護士がいるということであった。

この考え方,他に困っている人がいる,困っているのはおまえだけじゃない,だから我慢しろ,というように聞こえる。

更に言えば,大学生の就職難も,弁護士の就職難も,所与のこととしてあきらめて受け入れろと言っているようにも。

でも,他人が困っていることも,自分(の同業者)が困ることも,放置してよい問題ではないのではないか。

大学生の就職難は景気対策の無策に,弁護士の就職難は弁護士激増政策に,それぞれ由来するものだが,いずれも政策により引き起こされた人為的なものだ。

そうであるなら,景気対策をきちんとやることと,弁護士激増政策の方向転換をそれぞれ求めることで対処するのが筋ではないか。

なお,就職難って簡単に言うけど,渦中にいる人にとっては相当な負担がかかるものだ。

私自身いわゆる2000年問題(修習が2年の期と1年半の期が同じ2000年に修習を終了する)の年に修習を終了したが,1年の間に当時としては大人数の1500名以上の修習生が修習終了を迎えるということで,修習生の多くは就職先探しに前期修習初めから躍起になっていた。

それでも今の修習生の就職状況を思えば楽に就職できたものだと思うが,就職先が決まるまでは内心本当に焦ったものだった。

そんな精神的負担,弁護士業務をやっていく上での緊迫感に比べれば,などと言うのかもしれないが,ある程度職業人としての経験を積んだ状況でのストレスと,新世界へ足を踏み出せるのかどうかというストレスはその質が違うものだと思う。

こんなストレスを味わう人はいない方がいい。弁護士激増が就職難の原因であることは明らか(少なくとも激増前は,就職難がこれだけ騒がれたことはほとんどなかった。)なのだから,弁護士激増政策は直ちに見直し,撤回されるべきだ。