ニュース争論:法曹人口はなぜ増えない 高木剛氏/宇都宮健児氏2010年06月20日

タイトルからしてミスリーディングなんですが・・・。

http://mainichi.jp/select/opinion/souron/news/20100620org00m070003000c.html

日弁連の会員数は,1990年(日米構造問題協議の最終報告が出された年です。)に13800人だったのが,2009年には26930人と,19年間で倍近くに増えています。2000年の会員数が17126人ですから,9年間で

 26930÷17126=1.572

つまり1.6倍に増えているわけです。

ちなみにこの間のGDPは,

名目ベースで 474,218.70÷502,989.90=0.9427

実質ベースで 525,170.70 ÷503,119.80=1.0438

ですから,経済規模がほとんど変わらない(名目ベースではむしろ落ち込んでいる)のに弁護士数が5割以上増えていることになります。増えていないなどといえるものではないでしょう。

それにしても高木前連合会長の,以下のような規制緩和万歳的発言にはめまいすらおぼえます。

私が審議会メンバーとして参加した当時、日本の司法は「小さな司法」や、世の中の問題を2割しか解決できない「2割司法」と言われた。経済活動のテンポの速さに対応するには、司法の容量が小さすぎ、訴訟に時間がかかりすぎた。具体性を持った改革を進めていくため、合格者の目標人数を決めた。意見書提出から10年近くたったが、「小さな司法」からの脱却に成功したと評価するには、まだ不十分な状況にある。

法曹人口問題は審議会で大論争をした。事前規制型社会から事後チェック型社会への移行に伴い、司法がチェック機能を果たす役割も期待された。日弁連も法曹人口増加に賛同していたはずだ。

上記のように弁護士人口は9年で5割以上増え,いわゆるゼロワン地域もほぼ解消されているのですが,どう不十分なのでしょうか。

高木元会長は,司法修習生の就職難や,多額の負債を抱えることになることについて,以下のように発言しています。

資格を取った人が高いレベルで所得を得るのに越したことはない。だが、どんな職業の人でも、自分たちの領域や需要の拡大に努力している。今の就職難や借金の話は、苦労して法曹資格を取ったのだから、せめて食いぶち保障をしろ、というようにも聞こえてしまう。

普通の職業に就くのに数百万円の借金をしなければならないものかという問題は考えないのでしょうか(まあ,法科大学院義務化の問題は宇都宮会長もスルーですが・・)。それに,非正規雇用の問題などから目をそらした挙げ句,会長選挙の際に得票率が7割を下回った(突き上げを食らって非正規雇用の問題などにも取り組み始めたようではありますが)ような人から需要の拡大などと言われても,・・・。

このコーナーでは,毎日新聞の記者が立会人として参加しているのですが,その発言にも首をかしげざるをえないところが。

弁護士全体の収入は一般の目から見ても高い。パイを奪われないよう、先輩弁護士が若手の参入を阻んでいる印象も受けるが……。

収入が高いように見えても,事務所維持のための経費などを差し引いた所得がどのくらいあるかは別論ですし,収入自体近時は大分下がっているのではないでしょうか。

「社会正義の実現」など法律上も特別の使命が要求される弁護士に、競争至上主義がそぐわないのは分かる。ただ、今でも頭打ち状態の合格者数をさらに減らすのはどうだろうか。活動領域を広げるため、弁護士も頭を切り替える必要があると思う。(伊藤正志)

いや,活動領域はいろいろ模索してると思いますよ,言われんでも。その結果が今の状況なんでしょう。合格者数については,従前に比べれば遙かに増大しており,今でさえ増やしすぎと思われるところにあるものであって,そのような従前との比較なしに頭打ちということ自体不公正な評価だと言えるでしょう。それに,活動領域といっても,その活動で食べることができる領域であることが必要であり,そのような領域を弁護士激増に合わせた分だけ広げることが市民にとって本当によいものかどうか,慎重に検討される必要があるでしょう。

「課題解決士」のススメ?2010年06月20日

前の記事で取り上げた毎日新聞のコーナー記事で,高木元連合会長が以下のように述べていました。

先程言ったように、多様な課題解決に関与できるプロフェッショナルを育てるために、法科大学院や司法修習も、訴訟実務中心の教育を見直し、専門性を追求できるシステムにすべきだ。

 どこかで見た文言だと思ったら,「法曹養成制度改革に関する提言」にあったものでした。よく見ると,高木元会長も提言者に名前を連ねているではないですか。

 この提言では,日本が今後「途上型国家」から「課題解決型国家」へと脱皮するために法曹の役割が重要であり,法曹像についてもこれまでの「国内訴訟担当者」から「課題解決者」へと転換する必要があると述べています。

 「途上型国家」というのは,提言で引用している新成長戦略での記載から推し量ると,「坂の上の雲」(ここにも司馬遼太郎!)を夢見て経済成長を図ることを目的とする国家をいうもののようです。

 経済成長による国民生活の向上も1つの課題ではないかという点は措くとしても,課題解決って法曹以外の人では図れないものなんですかね?従前の公務員にも,公務員試験という,法律の知識も問われる試験をくぐってきている人が数多くいるわけで,そうした人が「法科大学院」を出た「法曹」に取って代わられなければならない理由が分かりません。

 提言では,法曹像の転換に伴い,法曹教育についても,「国内訴訟実務家養成」から「課題解決者養成」へと転換する必要があるとしています。その上で,研修所教育について,

修習内容としては,国内裁判実務の修習が中心である。

国内裁判科目の修習と修了試験に合格しなければ,法科大学院を修了し新司法試験に合格しても,法曹資格を取得することができない仕組みになっている。

国内裁判実務に就くことを予定していない新司法試験合格者が法曹資格を取得するためには,国内裁判実務修習を(2010年採用者からは)1年間無給で受けるか,あるいは弁護士法5条2号の定める法律関連実務に7年間就業しなければならない。

との認識に立ち,

司法修習制度について,現在の制度及び運用状況が「国内訴訟担当者」養成を想定したものであることは疑いない。そこで,「課題解決者」養成の観点に立った場合,法曹資格を取得するために必須の制度として現在の内容のまま維持する必要があるのかを含め,抜本的な検討を行うべきである。

としています。(点はコンマに直しています。)

 要するに,国内裁判実務に就くことを予定していない新司法試験合格者について,国内裁判実務のトレーニングを経ずとも法曹になれるように修習内容を変更せよ,そうしなければ修習なんて廃止だ,ということのようです。

 しかし,法的紛争は最終的に裁判によって解決されるのが原則である以上,課題の解決に当たっても,裁判に持ち込まれたときどのような手続でどのような判断がなされるのかまで考えて処理しなければならないはずのものです。事件の相談者・依頼者も,そこまで考えてもらうことを前提に弁護士に相談・依頼してくるのではないでしょうか。

 国内裁判実務の教育を積まない者について弁護士としての資格を与えることは,相談者・依頼者にとっても有害無益でしょう。

 もし,国内裁判実務についての教育や試験を経ない状態で課題解決に当たる存在を認めるとすれば,その人たちについては,法曹ではなく,「課題解決士」という新資格をつくり,そちらを付与することにしてはどうでしょうか。国内裁判実務のトレーニングを積んでいない以上,訴訟代理権は有しないことになります(この点では,現行の認定司法書士より権限が制限されることになります。)。

 その上で,新司法試験については課題解決士試験と名称を変更し,合格者には「課題解決士」の資格を修習無しで与えるものとし,一方,法曹については,旧司法試験同様,法科大学院卒業を受験資格としない試験を設けて選抜するのがよいと思います(合格者数は1000人程度が妥当でしょう。)。

 この提言,弁護士会への強制加入制度をあたかも問題であるかのように(「諸外国と比べて高額の弁護士会費を毎月納入し続ける必要がある。」)述べるなどもしています。

 弁護士会費,確かに安くはありませんが,それがいやなら,弁護士をめざさないという途もあるわけで,「課題解決士」制度の設置は,そのための選択肢を提供するという意味でもよい政策かと思います。

 ただ,その資格にどの程度需要があるのか,資格名称自体不当表示ではないのか,という疑問は残りますが。