法学研究者養成の危機~法科大学院を廃止すべき理由2011年02月21日

日本学術会議で,以下のようなシンポジウムが開かれるようです。

「法学研究者養成の危機と打開の方策-法学研究・法学教育の再構築を目指して-」(PDF)

シンポジウムの趣旨は以下のようなもののようです。

法科大学院設立後、法学系研究大学院への進学者の減少、研究大学院における研究指導体制の弱体化など、法学研究者養成に困難な状況が生じています。

このシンポジウムでは、こうした事態の打開方策について問題提起を行い検討を深めることを狙いとしています。

昨年秋に開いた法科大学院に関する学習会でも,大学教員の方から,法科大学院が設立されたことに伴い研究大学院での修士課程(博士前期課程)における実定法科目のコースがなくなるという措置が多くの大学で取られ,その結果,これらの科目の研究者養成に多大なる支障を来しているとの報告がありました。実定法科目の研究者を目指す者が,研究を続けるには,まず法科大学院に入学して学修した後,博士課程に戻ってこいと言われるのだそうです。

法科大学院への通学による時間的,金銭的負担は大きなものがありますし,実務家養成を目的とする法科大学院に,研究職を目的とする者を義務的に通わせる意味があるとは思えません。そのため,実定法の研究者の養成が極めて困難になっているというのです。

上記シンポジウムの開催母体の1つである「法学系大学院分科会」自体,その設置目的(PDF)が,

法科大学院等専門職大学院の開設に伴い,法学系大学院の在り方をめぐって,早急に対応しなければならない課題が生じている。研究者養成システムの再構築という観点からは,法学系教員の研究・教育スタイルの変容をも視野に入れて,法科大学院等専門職大学院と従来の大学院との円滑な連携関係を再整備する必要がある。また,法科大学院等専門職大学院,研究者養成を中心とする従来からの大学院,法学系学部が,それぞれ法学専門教育において果たすべき役割分担を再調整する必要がある。これらの課題を総合的に検討するために,本分科会を設置する。

というものであり,研究者養成システムを再構築しなければならない状態,つまり研究者養成システムが崩壊し,ないしは崩壊しかかっていることを前提としています。

研究者の中には,法学研究者の養成についてはもう手遅れと言っている人もいます。

法曹養成の面ではその卒業を司法試験受験資格とすることが専ら問題でしたが,研究者養成にも多大な問題を生じさせているということを考えると,法科大学院制度は,制度自体廃止し,従前のように職業人にも門戸を開いたコースを付設する形に戻すべきように思います。

新司法試験受験回数制限に関するメモ2011年02月28日

日弁連の2000年11月1日付け総会決議では,新たな法曹養成制度について

3  法曹一元制を目指し、21世紀の「市民の司法」を担うのにふさわしい専門的能力と高い職業倫理を身につけた弁護士の養成を眼目として、下記事項を骨子とする新たな法曹養成制度を創設し、大学院レベルの法律実務家養成専門機関(以下「法科大学院(仮称)」という。)における教育と、その成果を試す新たな司法試験及びその後の司法(実務)修習を行うこととし、弁護士会は、これらに主体的かつ積極的に関与し、その円滑な運営に協力する。

1. 法科大学院(仮称)は、公平性・開放性・多様性を基本理念とし、全国に適正配置する。

2. 新たな法曹養成制度は、法曹養成における実務教育の重要性を認識し、法科大学院(仮称)においてもこれを適切に行う。

3. 新たな司法試験後に実施する司法(実務)修習は、法曹三者が対等な立場で運営する。

と述べるだけで,司法試験受験回数制限については何ら触れていない。

ただ,上記決議案には,その提案理由において,司法制度改革審議会中間報告を引用する形で,次のように述べられている。

5. あるべき法曹養成制度としての法科大学院(仮称)構想

(1) 検討の経緯と構想案

現在、あるべき法曹養成制度として検討の対象になっている法科大学院(仮称)構想は、大学院レベルでの法理論教育と実務教育、その成果をためす司法試験、その合格後の司法(実務)修習という一連のプロセスにより法曹の選抜と養成を行うというものである。これは、少なくとも司法試験合格者が合格以前に一定の法学教育と実務教育を経ていることを保証するものであり、今日の法曹養成制度につき指摘されている種々の問題点に適切に対応して正しく制度設計がなされるならば、法曹一元制の理念に適い、現在の法曹養成システムの問題点を解消する可能性を持った制度となりうるものである。

司法制度改革審議会は、法科大学院(仮称)を中核とする新たな法曹養成制度の構想についての検討を文部省に依頼し、文部省は、大学関係者、法曹三者、文部省及び司法制度改革審議会委員による「法科大学院(仮称)構想検討会議」を設置した。検討会議は、本年8月7日、下記の概要を骨子とする中間報告書を取りまとめ、司法制度改革審議会に報告した。

A. 基本理念(略)

B. 法曹養成のための法学教育のあり方(略)

C. 基本的枠組み(略)

D. 法科大学院(仮称)の設置と第三者評価(略)

E. 法科大学院(仮称)と司法試験・司法(実務)修習

新司法試験は法科大学院(仮称)の教育内容を踏まえたものとし、法科大学院(仮称)修了者のうち相当程度が合格するものとする。

法科大学院(仮称)修了を新司法試験の受験資格とするが、その場合、開放性や公平性の徹底の見地から、入学者に対する経済的支援や夜間大学院、通信制大学院の開設などの方策を講じることが特に重要となる。3回程度の受験回数制限を設けることが合理的である。

法曹に要求される実務能力涵養のために、司法(実務)修習を実施することを前提として、法科大学院(仮称)は、実務上生起する問題の合理的解決を意識した法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分をあわせて実施する。

この部分に引き続いて,決議案提案理由では,「(2) あるべき法科大学院(仮称)実現に向けた我々の課題」として,改善を求めるべき点が挙げられているが,新司法試験に関しては,

第3に、新司法試験は、法科大学院(仮称)における教育を前提として、その成果を試す試験とすべきであり、新司法試験の管理には、弁護士会の実質的関与が認められるべきである。

と述べられるだけで,受験回数制限については何ら問題視されていないことからすると,この決議で日弁連は,受験回数制限について事実上容認したということになる。

この決議第3項については,何ら討論の時間が設けられない(質問についてもほとんど割り当てられなかったと思う)ままに,討議打切りの動議が出され,採決されるに至ったもので,それ自体議論が尽くされたものとは全く言えないものであった(決議に掲げられた3項目を分離すべきとの意見も出されたが,執行部は受け入れなかった。)。

決議の趣旨自体についてもその手続に重大な問題があると言わざるをえない上に,受験回数制限の容認については,提案の趣旨には出さず,提案理由に隠れた形で潜ませていたもので,適正な手続を経た意思決定とは到底言えないものである。

日弁連執行部や,それを支えてきた東京などの大規模会執行部は,司法審の意見にも記載され,司法改革関連法で規定されたことだからとして,受験回数制限の見直しに一貫して否定的であったが,上記のように決議案提案理由に書かれていたにすぎない受験回数制限については,こだわることなく,直ちに見直しを提言するべきだと思うのだが。