予定だけ・・・2011年08月03日

最近まとまったものを書く気力が湧かないのですが,以下のようなタイトルのものを考えています。

原子力損害賠償法の免責要件について 立場が発言を作る~学者としての良心は? 不況だけが原因なのか~司法修習生の就職難を考える 法科大学院通学というサンク・コスト(埋没費用)

原子力損害賠償法の免責要件について2011年08月05日

もう結構前になりますが,東京電力の株主が,原子力損害の賠償責任が東電にないことを理由に,国家賠償請求を求めたというニュースがありました。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110630/trl11063018000009-n1.htm

国賠ではなくて,経営者に対する株主代表訴訟を提起すべきではないかと思うのですが,その点はおきます。

賠償責任がないことの理由というのが,今回の地震,津波が原子力損害賠償法(原子力損害の賠償に関する法律)3条1項但書にいう「異常に巨大な天災地変」に当たるからだということでした。

原子力損害賠償法はこの免責事由を定める前提として,同法3条1項本文で原子力事業者の無過失責任を定めています。

ところで,この無過失責任を定めた立法としては,最近は製造物責任法の例があります。

製造物責任法では,欠陥ある製造物を製造などした事業者に,製造物の欠陥から生じた損害についての無過失賠償責任を負わせている一方で,開発危険の抗弁と言って,以下の事実が証明された場合に免責されることを認めています。

当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。

この開発危険の抗弁については,欠陥の認識可能性を基礎付ける技術水準が最高程度の知識水準であることが分かるように書けと求める消費者側と,なるべく抗弁の認められる範囲を広くしようという産業界が対立していました。結局,少なくともこれまでの判例による救済水準を下回ることはしない,ということで,入手可能な最高の技術水準を示す「価額又は技術に関する知見」という言葉が採用されたのです。

その際参考とされた裁判例が,東京スモン訴訟第一審判決でした。(東京地裁昭和53年8月3日判決,判例時報899号)。

このスモン判決は,キノホルムとスモンとの因果関係を認定した上で,過失を基礎付ける予見義務について

ところで、医薬品を製造・販売するにあたつては、なによりもまず、当該医薬品のヒトの生命・身体に及ばす影響について認識・予見することが必要であるから、製薬会社に要求される予見義務の内容は、(1)当該医薬品が新薬である場合には、発売以前にその時点における最高の技術水準をもつてする試験管内実験、動物実験、臨床試験などを行なうことであり、また、(2)すでに販売が開始され、ヒトや動物での臨床使用に供されている場合には、類縁化合物をも含めて、医学・薬学その他関連諸科学の分野での文献と情報の収集を常時行ない、もしこれにより副作用の存在につき疑惑を生じたときは、さらに、その時点までに蓄積された臨床上の安全性に関する諸報告との比較衡量によつて得られる当該副作用の疑惑の程度に応じて、動物実験あるいは当該医薬品の症歴調査、追跡調査などを行なうことにより、できるだけ早期に当該医薬品の副作用の有無および程度を確認することである。なお、製薬会社は、右予見義務の一環として、副作用に関する一定の疑惑を抱かしめる文献に接したときは、他の(同種の医薬品を製造・販売する)製薬会社にあててこれを指摘したうえ、過去・将来を問わず、当該医薬品の副作用に関する情報を求め、より精度の高い副作用に関する認識・予見の把握に努めることが要請されるのである。

なお、右(1)(2)の場合を通じて、動物実験によつては、必ずしもヒトにおける重篤な副作用の予見が可能であるとは限らず、また可能であるとしても容易であるとは限らないのである(前記第四節参照)から、予見義務の内容として、製薬会社に第一次的に要求されるのは、国の内外を通じて、主としてヒトに関する臨床上の副作用情報の収集に努めることであるといわなければならない。

と述べています。

ここで収集すべきものとされている文献の範囲について上記判決は,かなり広い範囲の文献を求めており,南米の文献まで,取り寄せ可能な文献の範囲に含めています。

また,予見可能性を基礎とした結果回避措置の内容について判決は,

副作用の存在ないしその「強い疑惑」の公表、副作用を回避するための医師や一般使用者に対する指示・警告、当該医薬品の一時的販売停止ないし全面的回収

と,販売停止,全面的回収までありうべきことを示しています。

この理論からすると,

世界中の知見を集めて起こりうる天災を予見して対応を講じるべきであり, また,結果回避のための措置としては,運転停止(販売停止)や廃炉(全面的回収)まで併せて考えるべきということになるのではないでしょうか。

そして,今回の地震や津波については,世界的に例がないものではなく,日本でも貞観地震の例などが知られていたのですから,そのような天災は当然予見して対策を講じるべきだったということになるでしょう。

また,結果回避のための措置としても,運転停止や廃炉を含めて考えるべきだったことになります。

そう考えると,そもそも今回の原発事故による損害について東電には,事故発生について過失が認められてしかるべきということになるでしょう。

そして,無過失責任の定めは被害者保護の観点から入れられたものであることからすれば,今回のように世界的知見から予見可能な天災について「異常に巨大」なものとして免責の余地を与えることは妥当ではないでしょう。

「異常に巨大な天災」かどうかも,あらゆる知見を併せ考えて,世界的に全くありえないものなのかどうかという点から判断すべきで,そう考えると,上記のような事情からは,今回の震災・津波は「異常に巨大な天災」とは言えません。

法律制定時の審議では,「異常に巨大な天災」とは関東大震災の3倍くらいの大きさを指すといった議論もあったようですが,その議論が現在も通用するものではありません。原発事故による被害の深刻さ,重大さにかんがみれば,被害者保護の観点から,異常に巨大か否かの判断基準も厳格になされていくべきものです。

いずれにせよ,東京電力については免責を認めるべきではなく,生じさせた全損害について賠償責任を負ってもらうべきでしょう。

冒頭で挙げた筋違いの訴訟が,しっかりと請求棄却で終わることを切に望みます。

桐蔭横浜と大宮、法科大学院で初の統合~「勝ち組」向け法科大学院の終焉2011年08月09日

久保利英明氏以下の歴代二弁会長経験者はこの結果をどう総括してくれるのでしょうか。

日経記事

桐蔭横浜大学法科大学院と大宮法科大学院の統合について(大宮法科大学院と横浜桐蔭法科大学院の記者向け共同発表文)

桐蔭横浜大学法科大学院との統合について(大宮法科大学院学長の学生,修了生向け報告文)

私の属する第二東京弁護士会(二弁)は大宮法科大学院に関し,その経営母体である佐藤栄学園と提携しています。今回の「統合」ですが,「統合」とはいいながら共同発表文に

学校法人桐蔭学園の下で、新たに「桐蔭法科大学院」として運営していくことに合意しました

とあることから,佐藤栄学園が事業を譲渡して法科大学院の経営から撤退したと見るのが妥当でしょう。

二弁はこれを機に(できれば直ちに)法科大学院の運営への関与から手を引き,間違っても桐蔭学園との提携などしないでいただきたいものです。

しかし,大宮法科大学院の柏木俊彦学長(二弁の弁護士です。)の報告文ですが,

現在の法科大学院の状況を打破し、将来に向けて、法科大学院制度を定着、発展させるためには、理念と制度設計を共有する法科大学院の統合が最も適切な選択であると考えます。司法制度改革審議会の意見書の掲げる法曹像に共鳴し、大宮の修了生、在学生と私ども教職員とで熱く共に作り上げてきた本学は、その教育理念を持続的に発展させるべく、桐蔭横浜法科大学院との統合に踏み切りました。

って,依然として司法制度改革審議会意見書を是とする考え方を変えないのですね。「撤退」を「転進」と称した戦前の日本軍みたいで,見苦しいと言わざるを得ません。

また,

今後は本学と桐蔭横浜法科大学院とを連続した一体の法科大学院ととらえ、多様な法曹の養成という松明を、より明るく、より強く、より確かなものとするために引き続き努力していく所存です。

って,二弁に対し大宮大学院大学に対するのと同様の協力をと言っているようで,いやらしいことこの上ありません。まあ,大宮の運営陣や教員からしてみたら,統合に当たって少しでも有利な条件をひきだすために「手土産」として二弁の協力がほしいのかもしれませんが,新法曹養成制度自体に制度発足当初から一貫して反対してきた私としては,もうこれ以上の協力は御免被りたいと思います。

※大宮法科大学院関連過去記事

「勝ち組」向け法科大学院の現状から考える

新法曹養成制度~誰をどう「救済」すべきか?

「勝ち組」用であることを誇る法科大学院関係者が自己責任論を唱えているが・・・

法科大学院と司法試験~もう切断しかない