「救済」の範囲と本音2011年06月07日

もう10日ほど前のことだが,5月27日の日弁連総会で,「東日本大震災及びこれに伴う原子力発電所事故による被災者の救済と被災地の復旧・復興支援に関する宣言」が可決された。

この宣言では,福島第一原子力発電所事故への対応として,

(4) 国、電力会社その他原子力関係機関は、二度とこのような原子力発電所事故を繰り返さないために、原子力発電所の新増設を停止し、既存の原子力発電所は段階的に廃止すること。特に、運転開始後30年を経過し、老朽化したものや、付近で巨大地震が発生することが予見されているものについては、速やかに運転を停止し、それ以外のものについても、地震及び津波への対策を直ちに点検し、安全性が確認できないものについては運転を停止すること。

を提言している。

「廃止」をうたうのはいいのだが,「段階的」って,いつまでかかるのであろうか。その間発電所での労働者は被曝を続けるわけで,こうした被曝をできるだけ抑えようとすれば,即時廃止を訴えるか,せめてはっきりとした期限を設けるべきではなかったのか。

総会では,上記宣言案に関して,仙台の弁護士から,被災した司法試験受験生に配慮して,司法試験の受験回数や受験期間の制限について救済することを考えないのかとの質問もなされた。質問をした弁護士によると,法務省が東北地方の受験生に個別に電話をかけ,勉強に差し支えが無いか聴いたという。

これに対し執行部からは,法務省に受験生への配慮を要請したところ,法務省は該当する約500人の受験生に個別に電話をかけて調査したが,影響があるとする受験生は少なかったので特別の配慮措置は講じないと回答したという。

この回答を受けて,日弁連の法曹養成検討会議でもどう対応するか検討したが,今回の震災のみを特別に扱う理由がないということで,更なる要請等はしないことになったとのことであった。

法務省の対応はめちゃくちゃである(いかにも役人らしいといえば役人らしいが)。上記の質問をした方も言われていたが,試験運営を司る当局から勉強に差し障りは無いかと聴かれれば,差し障りがあると答えた場合に否定的評価を受けるおそれがあると考え,差し障りは無いと答えてしまうのではないだろうか。

法務省のやり方はめちゃくちゃであるが,日弁連の法曹養成検討会議の検討結果にもあきれるほかない。確かにこれまでも地震はいくつもあったかも知れないが,受験回数や受験期間に制限が設けられてからこれだけ大きな震災があったであろうか。

(まあ,中越地震の時にこのような点に配慮が及ばなかったのは,もともと受験回数制限自体否定されるべきと主張し続けてはいたものの,私自身反省すべきところではあるが。)

今回の決議,被災者の救済をタイトルにうたっているが,原発労働者や司法試験受験生といった,表には出しにくい(前者は原発事故の収束の緊急性に隠れてしまい,後者は法曹にとってはいわば将来の身内である)人たちを放置して,何が被災者救済だ,エエカッコしいだけではないのかと思わざるを得ないという思いが強く残るものである。

法曹の養成に関するフォーラム事務局からのアンケートが来たが2011年05月16日

法曹の養成に関するフォーラム(PDF)事務局から,司法修習終了後の経済的な状況に関する調査についての調査票が送られてきました。

日弁連の宇都宮会長名の協力依頼書も添えられています。

調査票は,(1)収入・所得調査票と,(2)奨学金等調査票の2種類があるようで,(1)の収入・所得調査票は司法修習終了後15年以内(48~新62期)の弁護士,(2)の奨学金等調査票は,新司法修習を終了した判事補・検事・弁護士と,新司法試験に合格した司法修習生に送られているようです。

修習終了後の未登録者が増えている現状からすれば,当該未登録者に対してもアンケートを取るべきように思うのですが,そこまでは難しいということなのでしょうか。

(1)のアンケートでは,修習期,性別,年齢,扶養家族,所属先の種別・規模並びに所属先の所在地と,最近5年分(5年内に弁護士になった人は弁護士になって以後の収入・所得)が問われています。

この数年の収入・所得の推移を振り返るのもぞっとしますが,給与制維持のために役立つのであればアンケートに協力しようとは思います。しかし,司法修習についての給与制の可否は,修習を受けさせるという形で強制的に時間的拘束を加えることを,何らの見返り無くして行うことがいいのかどうかという問題であり,修習生が修習時ないしその後におかれる経済的状況によって決せられるべき問題ではないと思うので(その意味では,「給費制」ではなく「給与制」継続の問題と言うべき),修習生や修習修了者の経済的状況を調べる必要性自体,疑問なんですよね。

(2)のアンケートについては詳しい内容はわかりませんが,新司法試験合格者(現在のところは全員,法科大学院修了者)についてわざわざ聞く以上,このような奨学金の負担を生む法科大学院制度の可否にまで踏み込んで議論してほしいものです(フォーラムの趣旨に「司法制度改革の理念を踏まえるとともに」となっているので期待薄ですが。)。

韓国の司法研修院生ら入所式ボイコットの動き~背景に法科大学院生青田刈り2011年03月02日

法務部の方針に反発、司法研修院生ら所式ボイコット!?~法務部、ロースクールの学生を優先的に検察官に採用する方針Chosun Online | 朝鮮日報

ロースクール(法科大学院)の学生を優先的に検察官に採用するという法務部(省に相当)の方針に対し、司法研修院生らが反発し、2日に行われる同院の入所式への出席をボイコットするよう呼び掛けた。同院生約20人が先月末、入所式への不参加を呼び掛けるショートメッセージやメールを約800人の同院生に送っていたことが、1日までに分かった。また、同院生らは先月21日から、集団で法務部に抗議の電話をかけ、同部の業務をまひさせたという。

入所式ボイコットとはやりますな。韓国。まあ,非正規労働者の多さや受験戦争の苛酷さを見ると,抑圧も多そうだけど。

法務部が先月14日に打ち出した案は、ロースクールの3年生を院長の推薦により検察官として採用するというもので、優秀な人材をあらかじめ確保することを目的としている。

韓国のロースクール制度,日本より新しいはずなのに,すごい特権与えられているな。他国のことながら大丈夫なのか。

同部は、どの程度の学生を検察官に採用するかについてはまだ明らかにしていないが、全国に25カ所あるロースクールから二人ずつ採用したとすれば50人になる。昨年採用された検察官が139人だったことを考えると、かなりの人数になる。

検察官の採用人数,日本より多いじゃないか。

法務部がこのような案を打ち出したのは、人材の確保をめぐる裁判所との競争で遅れを取らないためだ。裁判所は来年から、ロースクールの卒業生と司法研修院の修了者を対象に「ロー・クリーク」制度を導入することを検討している。これは、裁判官を補佐しながら裁判業務に関する調査などを担当させるという、英国や米国にならった制度だ。

裁判所と検察が、人材確保をめぐり、このような青田買い競争を繰り広げていることに対し、ソウル地方弁護士会は先月23日に声明文を発表し、「裁判所と検察が打ち出した案は、裁判官や検察官として採用できる対象者を、弁護士の資格を有する者に限定した法律に違反する」と批判した。

ロースクール制度を梃子に,司法研修院での法曹志望者の合同修習が有名無実化して,分離修習になるという結果を招いているということか。

ロースクール制度を,官僚支配下の司法研修所からの脱出と,法曹一元に向けた道筋と位置づけたであろう人たちはどう考えるのだろうか?

(3/3追記)

本当にボイコットしたみたいですね。すごいことです。

司法研修院生、半数以上が入所式ボイコット

974人中520人が欠席ということですから,過半数が欠席したことになりますね。すごい団結力だと思います。

新司法試験受験回数制限に関するメモ2011年02月28日

日弁連の2000年11月1日付け総会決議では,新たな法曹養成制度について

3  法曹一元制を目指し、21世紀の「市民の司法」を担うのにふさわしい専門的能力と高い職業倫理を身につけた弁護士の養成を眼目として、下記事項を骨子とする新たな法曹養成制度を創設し、大学院レベルの法律実務家養成専門機関(以下「法科大学院(仮称)」という。)における教育と、その成果を試す新たな司法試験及びその後の司法(実務)修習を行うこととし、弁護士会は、これらに主体的かつ積極的に関与し、その円滑な運営に協力する。

1. 法科大学院(仮称)は、公平性・開放性・多様性を基本理念とし、全国に適正配置する。

2. 新たな法曹養成制度は、法曹養成における実務教育の重要性を認識し、法科大学院(仮称)においてもこれを適切に行う。

3. 新たな司法試験後に実施する司法(実務)修習は、法曹三者が対等な立場で運営する。

と述べるだけで,司法試験受験回数制限については何ら触れていない。

ただ,上記決議案には,その提案理由において,司法制度改革審議会中間報告を引用する形で,次のように述べられている。

5. あるべき法曹養成制度としての法科大学院(仮称)構想

(1) 検討の経緯と構想案

現在、あるべき法曹養成制度として検討の対象になっている法科大学院(仮称)構想は、大学院レベルでの法理論教育と実務教育、その成果をためす司法試験、その合格後の司法(実務)修習という一連のプロセスにより法曹の選抜と養成を行うというものである。これは、少なくとも司法試験合格者が合格以前に一定の法学教育と実務教育を経ていることを保証するものであり、今日の法曹養成制度につき指摘されている種々の問題点に適切に対応して正しく制度設計がなされるならば、法曹一元制の理念に適い、現在の法曹養成システムの問題点を解消する可能性を持った制度となりうるものである。

司法制度改革審議会は、法科大学院(仮称)を中核とする新たな法曹養成制度の構想についての検討を文部省に依頼し、文部省は、大学関係者、法曹三者、文部省及び司法制度改革審議会委員による「法科大学院(仮称)構想検討会議」を設置した。検討会議は、本年8月7日、下記の概要を骨子とする中間報告書を取りまとめ、司法制度改革審議会に報告した。

A. 基本理念(略)

B. 法曹養成のための法学教育のあり方(略)

C. 基本的枠組み(略)

D. 法科大学院(仮称)の設置と第三者評価(略)

E. 法科大学院(仮称)と司法試験・司法(実務)修習

新司法試験は法科大学院(仮称)の教育内容を踏まえたものとし、法科大学院(仮称)修了者のうち相当程度が合格するものとする。

法科大学院(仮称)修了を新司法試験の受験資格とするが、その場合、開放性や公平性の徹底の見地から、入学者に対する経済的支援や夜間大学院、通信制大学院の開設などの方策を講じることが特に重要となる。3回程度の受験回数制限を設けることが合理的である。

法曹に要求される実務能力涵養のために、司法(実務)修習を実施することを前提として、法科大学院(仮称)は、実務上生起する問題の合理的解決を意識した法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分をあわせて実施する。

この部分に引き続いて,決議案提案理由では,「(2) あるべき法科大学院(仮称)実現に向けた我々の課題」として,改善を求めるべき点が挙げられているが,新司法試験に関しては,

第3に、新司法試験は、法科大学院(仮称)における教育を前提として、その成果を試す試験とすべきであり、新司法試験の管理には、弁護士会の実質的関与が認められるべきである。

と述べられるだけで,受験回数制限については何ら問題視されていないことからすると,この決議で日弁連は,受験回数制限について事実上容認したということになる。

この決議第3項については,何ら討論の時間が設けられない(質問についてもほとんど割り当てられなかったと思う)ままに,討議打切りの動議が出され,採決されるに至ったもので,それ自体議論が尽くされたものとは全く言えないものであった(決議に掲げられた3項目を分離すべきとの意見も出されたが,執行部は受け入れなかった。)。

決議の趣旨自体についてもその手続に重大な問題があると言わざるをえない上に,受験回数制限の容認については,提案の趣旨には出さず,提案理由に隠れた形で潜ませていたもので,適正な手続を経た意思決定とは到底言えないものである。

日弁連執行部や,それを支えてきた東京などの大規模会執行部は,司法審の意見にも記載され,司法改革関連法で規定されたことだからとして,受験回数制限の見直しに一貫して否定的であったが,上記のように決議案提案理由に書かれていたにすぎない受験回数制限については,こだわることなく,直ちに見直しを提言するべきだと思うのだが。

法学研究者養成の危機~法科大学院を廃止すべき理由2011年02月21日

日本学術会議で,以下のようなシンポジウムが開かれるようです。

「法学研究者養成の危機と打開の方策-法学研究・法学教育の再構築を目指して-」(PDF)

シンポジウムの趣旨は以下のようなもののようです。

法科大学院設立後、法学系研究大学院への進学者の減少、研究大学院における研究指導体制の弱体化など、法学研究者養成に困難な状況が生じています。

このシンポジウムでは、こうした事態の打開方策について問題提起を行い検討を深めることを狙いとしています。

昨年秋に開いた法科大学院に関する学習会でも,大学教員の方から,法科大学院が設立されたことに伴い研究大学院での修士課程(博士前期課程)における実定法科目のコースがなくなるという措置が多くの大学で取られ,その結果,これらの科目の研究者養成に多大なる支障を来しているとの報告がありました。実定法科目の研究者を目指す者が,研究を続けるには,まず法科大学院に入学して学修した後,博士課程に戻ってこいと言われるのだそうです。

法科大学院への通学による時間的,金銭的負担は大きなものがありますし,実務家養成を目的とする法科大学院に,研究職を目的とする者を義務的に通わせる意味があるとは思えません。そのため,実定法の研究者の養成が極めて困難になっているというのです。

上記シンポジウムの開催母体の1つである「法学系大学院分科会」自体,その設置目的(PDF)が,

法科大学院等専門職大学院の開設に伴い,法学系大学院の在り方をめぐって,早急に対応しなければならない課題が生じている。研究者養成システムの再構築という観点からは,法学系教員の研究・教育スタイルの変容をも視野に入れて,法科大学院等専門職大学院と従来の大学院との円滑な連携関係を再整備する必要がある。また,法科大学院等専門職大学院,研究者養成を中心とする従来からの大学院,法学系学部が,それぞれ法学専門教育において果たすべき役割分担を再調整する必要がある。これらの課題を総合的に検討するために,本分科会を設置する。

というものであり,研究者養成システムを再構築しなければならない状態,つまり研究者養成システムが崩壊し,ないしは崩壊しかかっていることを前提としています。

研究者の中には,法学研究者の養成についてはもう手遅れと言っている人もいます。

法曹養成の面ではその卒業を司法試験受験資格とすることが専ら問題でしたが,研究者養成にも多大な問題を生じさせているということを考えると,法科大学院制度は,制度自体廃止し,従前のように職業人にも門戸を開いたコースを付設する形に戻すべきように思います。

司法試験予備試験の出願の追加受付2011年01月28日

今年から始まる司法試験予備試験については,昨年12月14日に出願受付が締め切られていましたが,この度,出願を追加して受け付けることとなったようです。

平成23年司法試験予備試験の再出願受付について

平成23年司法試験予備試験の短答式試験は5月15日(日),論文式試験は7月17日(日)及び18日(月),口述試験は10月28日(金),29日(土)及び30日(日)に実施されるということなので,短答式試験の5か月も前に締め切るのは早いなあ,どれだけ出願者が集まるのだろうか疑問だ,と思っていましたが,やはり司法試験委員会でも同じ問題意識を持たれた方がいたのでしょうか。

新司法試験をめぐっては,ちょうど,総務省の研究会の報告書が出され,それに対する意見も法科大学院卒業の受験資格化に批判的なものが大勢であることから,法科大学院をオミットするルートとしての司法試験予備試験に対する注目が高まってきたということも,この措置の背景にあるのかもしれません。

いずれにせよ,この再出願受付の措置は妥当だと思います。

ちなみに追加出願期間は,2月3日から16日までの間,願書交付期間は1月31日から2月16日までの間とされています。詳しくは法務省のサイト内の上記リンク先ページをごらんください。

平成23年司法試験予備試験の実施について~願書受付締切迫る2010年12月07日

法務省のサイトが更新されているようです。

実施予定表(PDF)を見てみました。

短答式試験実施が来年5月15日なのに,願書交付が今年11月19日から12月14日まで,願書受付も12月1日から14日までと,何と試験の5か月以上も前に願書受付が締め切りとなっています。

まだ先のことかと思ったら,願書受付締め切りまで1週間を切っているのですね。

こんなに早く受付を行い,そして締め切るのって,できるだけ予備試験受験者を少なくしようとしているのではないかと勘ぐってしまいます。

それにしても,予備試験にすぎないのに1万6800円という受験料,高いですね・・・。