司法試験予備試験,初年度の合格者116人。2011年11月10日

司法試験予備試験口述試験の合格者が発表されました。

コチラ

合格者の方,まずはおめでとうございます。来年度の本試験でよい結果を得られることを期待しています。

初年度の今年の合格者は116人。論文合格者123名のうち1名は口述試験を受けなかったようですね。口述試験の合格率は95%。予備試験の口述試験は法律実務基礎科目について行われるのですが(司法試験法5条4項),この科目で口述試験が行われるのは初めてなのに,受験生は健闘したものですね。

この予備試験,出願者が8971人,受験者が6477人という数でした。受験者に対する合格者数の割合は1.79%となります。たかが受験資格を得るだけのために1.79%という関門をくぐらなければならないとは,不合理極まりないように思います。

法務省のサイトには,参考情報として,興味深いデータが出ています。参考情報というのは,データが出願者の自己申告によるものだからでしょう。

まず男女比については,男性103人,女性13人。女性の割合は11%にしかすぎません。新司法試験の合格者においては,女性の割合は2割を超えていましたから,男性優位ですね。受験者に対する合格者の割合でも,男性が約53人に1人であるのに対し,女性は約79人に1人になっています。

年齢別合格者数(5歳区切り)を見ると,20~24歳が40人と最も多くなっています。25~29歳は8人と激減,30~34歳が33人,35~39歳が16人となっています。20代後半は受験者数もその前後の年代に比べると少なめです。法科大学院に行った人が多いんでしょうかね。それにしても60歳以上の人が400人も受けているのには驚きです。

20~24歳の人たちが最多ということは,今後予備試験については,若くして法曹になれる最短コースとしての注目度が高まるということなのでしょうか。

職種別では大学生が40人と最多。無職32人がこれに続きます。有職者は35人。大学生は合格率も高いです。試験内容や合格者数が有職者の合格を遠ざけるものとなってしまったのではないかと思われます。

最終学歴別を見ると,法科大学院修了者が載っていました。法科大学院を修了した以上,予備試験は全員合格のはず・・と思って見ると,336人受験して19人合格。合格率は約5.7%です。修了者全員が合格するくらい予備試験の合格者数も増やすべきと考えると,  116÷0.057=2035 つまり2000人くらいは予備試験に合格させてもよいのではないか,という計算になります。

過去の司法試験の受験経験を見ると,最終合格者中80名が旧試験のみ受験したことがある者とのこと。予備試験が,法科大学院義務化によって法曹への途を閉ざされた者にとっての希望の途であることがうかがえる内容です。

司法試験については本来,法科大学院修了を受験資格から外すべきであると思いますが,それまでの間は予備試験の合格者を増やす形で,できるだけ多くの人が法曹資格取得へチャレンジする途を開いてほしいものだと思います。

連携法と法曹養成制度見直し2011年10月19日

先日,所属する弁護士会の常議員会で,会長から,法曹の養成に関するフォーラム(以下「フォーラム」といいます。)の状況についての報告がありました。

それによると,

8月に貸与制導入を決めて以後の会合が決まっていなかったが,次回期日が10月24日からと決まった。

同日の会議で今後の議論の進め方が議論される

とのことでした。

ところで,法曹養成に関しては,新司法試験と法科大学院教育の間について連携が取られるべきものと法律で定められています(「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」。以下「連携法」といいます。)。

この連携法には附則として,以下の定めが置かれています。

(施行期日)

第一条 この法律は、平成十五年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、それぞれ当該各号に定める日から施行する。

 一 第三条第三項から第五項まで及び第六条第二項第一号の規定 公布の日

 二 第五条第二項、第四項及び第五項並びに第六条第二項第三号の規定 平成十六年四月一日

 (検討)

第二条 政府は、この法律の施行後十年を経過した場合において、法科大学院における教育、司法試験及び司法修習生の修習の実施状況等を勘案し、法曹の養成に関する制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

上記附則によれば,平成15年4月1日の法施行から10年後の平成25年4月1日以後には,法曹養成制度について検討が加えられることになります。あと1年半弱ですね。

しかし,10年経過後に1から議論というのでは遅すぎるので,今のうちから議論を重ねようとする場がフォーラム,という見方ができるでしょう。

連携法の附則の見直し条項については,特に見直しの内容について,制限を加えていません。したがって,連携法の基礎となっている,司法制度改革審議会の意見とも異なる方向での見直しも可能なはずです。

ただ,現在のフォーラムの議論状況を見ると,法曹養成制度が法科大学院を中核とするものであるべきという前提を見直そうという気運があるようにはみえないんですよね。まあこれは,フォーラムが「司法制度改革の理念を踏まえる」ことを前提に法曹の養成に関する制度の在り方について検討を行う場と位置づけられている(平成23年5月13日付内閣官房長官ほか申し合わせ(PDF))ことからすれば当然の帰結なのですが。

上記のようなフォーラムの問題点を考えると,フォーラムはいったん解散として,新たに白紙状態で法曹養成制度について検討する場を設けた方が,法曹養成制度を抜本的に見直すためにはいい(というか必須な)んでしょうね。

それにしても自民党政権下での閣議決定に,政権交代後の民主党政権がどこまで拘束されなければならないんでしょうかね・・・。

桐蔭横浜と大宮、法科大学院で初の統合~「勝ち組」向け法科大学院の終焉2011年08月09日

久保利英明氏以下の歴代二弁会長経験者はこの結果をどう総括してくれるのでしょうか。

日経記事

桐蔭横浜大学法科大学院と大宮法科大学院の統合について(大宮法科大学院と横浜桐蔭法科大学院の記者向け共同発表文)

桐蔭横浜大学法科大学院との統合について(大宮法科大学院学長の学生,修了生向け報告文)

私の属する第二東京弁護士会(二弁)は大宮法科大学院に関し,その経営母体である佐藤栄学園と提携しています。今回の「統合」ですが,「統合」とはいいながら共同発表文に

学校法人桐蔭学園の下で、新たに「桐蔭法科大学院」として運営していくことに合意しました

とあることから,佐藤栄学園が事業を譲渡して法科大学院の経営から撤退したと見るのが妥当でしょう。

二弁はこれを機に(できれば直ちに)法科大学院の運営への関与から手を引き,間違っても桐蔭学園との提携などしないでいただきたいものです。

しかし,大宮法科大学院の柏木俊彦学長(二弁の弁護士です。)の報告文ですが,

現在の法科大学院の状況を打破し、将来に向けて、法科大学院制度を定着、発展させるためには、理念と制度設計を共有する法科大学院の統合が最も適切な選択であると考えます。司法制度改革審議会の意見書の掲げる法曹像に共鳴し、大宮の修了生、在学生と私ども教職員とで熱く共に作り上げてきた本学は、その教育理念を持続的に発展させるべく、桐蔭横浜法科大学院との統合に踏み切りました。

って,依然として司法制度改革審議会意見書を是とする考え方を変えないのですね。「撤退」を「転進」と称した戦前の日本軍みたいで,見苦しいと言わざるを得ません。

また,

今後は本学と桐蔭横浜法科大学院とを連続した一体の法科大学院ととらえ、多様な法曹の養成という松明を、より明るく、より強く、より確かなものとするために引き続き努力していく所存です。

って,二弁に対し大宮大学院大学に対するのと同様の協力をと言っているようで,いやらしいことこの上ありません。まあ,大宮の運営陣や教員からしてみたら,統合に当たって少しでも有利な条件をひきだすために「手土産」として二弁の協力がほしいのかもしれませんが,新法曹養成制度自体に制度発足当初から一貫して反対してきた私としては,もうこれ以上の協力は御免被りたいと思います。

※大宮法科大学院関連過去記事

「勝ち組」向け法科大学院の現状から考える

新法曹養成制度~誰をどう「救済」すべきか?

「勝ち組」用であることを誇る法科大学院関係者が自己責任論を唱えているが・・・

法科大学院と司法試験~もう切断しかない

ステイクホルダー2011年07月19日

以下,とりとめもなく。

弁護士激増が給費制維持や貸金業改正運動と異なるのは, 直接の利害関係人(ステイクホルダー)が弁護士しかいない (弁護士の行動形態の変化により市民は影響を受けますが, それはあくまでも間接的なものでしかない。) ということだと思います。

したがって,弁護士以外の市民に運動を盛り上げてもらう, (貸金業法改正の時はそのような運動があったようです。) というようなことは期待薄で, 弁護士が当事者として,自身の大変さを訴えるというところからスタートしなければならないのではないでしょうか。

正に弁護士として生きさせろ,ということです。

弁護士が自らの利益を訴えるために業界団体である弁護士会を使うのは自然かつ当然で,何とか弁護士会を動かして運動を進めていくしかないでしょう。

ただ,弁護士会のトップにこの点についての危機感が無いようなのが困りものですが。

これと状況は異なりますが,新法曹養成制度も,それにより直接の被害を被る法曹志望者の姿が見えにくい(法科大学院生も被害者とは言えますが,法科大学院原則義務化で法曹への道が大きくふさがれた人たちが一番の被害者でしょう)という点で,多重債務者や司法修習生と異なる面を持ちます。

弁護士がほんとに人権救済を言うなら,こうした見えにくい被害に光を当てて,法科大学院原則義務化撤廃を働きかけるのが筋であるように思うのですがね。

平成23年度11月期司法修習生採用選考要項2011年07月01日

裁判所のサイトで,平成23年度11月期司法修習生採用選考要項(PDF)が公表されています。

その末尾には,以下の記載が。

(参考)

司法修習生には,申請により修習資金が貸与される。貸与申請方法や申請書書式等は,平成23年9月上旬ころ,最高裁判所ウェブサイト(http://www.courts.go.jp/saikosai/)からダウンロードすることができる。

問い合わせ先 司法研修所(修習資金貸与担当) 電話 048(233)0025

今年の新司法試験の合格発表が9月8日で,選考申込受付期間もそれに合わせて9月8日から同月15日までの間となっています。

申込受付期間自体まだ2か月以上先のことで,しかも,司法修習生への給与制をさらに継続するかどうかが8月末日までの間に法曹養成フォーラムで話し合われることになっているのに,もう貸与制導入を前提とした採用選考要項を発表しているのですね。

最高裁はよほど貸与制を導入したいのでしょうか。それとも,単なる親切心?(現行法上は新たな立法措置が執られない限り,貸与制が導入されることになります。)

冷遇される法科大学院生、就職は狭き門2011年07月01日

韓国の話だが・・・。

http://www.chosunonline.com/news/20110628000055

http://www.chosunonline.com/news/20110628000056

日本から韓国を視察に行った司法改革推進派の弁護士の中には,韓国は日本と異なり法学部をなくしたからうまくいっている(暗に日本の法科大学院がうまくいっていないことを認めている)などと言う人がいたが,中に入った学生の立場からすると,かなり厳しい状況のようだ。

韓国では来年1月に,ロースクール第1期生に対する弁護士試験が行われるが,1期生として入学した学生2000人のうち,試験に合格できるのはおよそ1500人とか。日本の司法研修所みたいな制度は,旧制度ではあった(司法研修院)が,上記の記事を見た範囲では,ロースクールを出て司法試験に合格したら直ちに弁護士などになるということであろう。

このような養成課程と,75%の合格率(今回が第1回ということで,本当にそれだけの合格者を出すのか疑問だが)ということを考え合わせると,2000人の合格者のうち就職先が決まっているのが300人というのはかなり厳しい状況だ。

法科大学院の学費も,記事に出てくる学生の場合,1学期で約61万円と,日本の法科大学院と比べても遜色のない高さである。このまま大企業や法律事務所に就職できないと路頭に迷う,年俸が(これまでの司法研修院の修了生に比べて)半額でも4分の1でも就職できればいいというのは切なる願いなのであろう。

しかも韓国では法学部廃止の余波か,法科大学院学生の約半数を占める法学部出身者が冷遇されているという。それにしても「法学部出身者はひたすら法律ばかり勉強してきたため柔軟な思考ができない」って,どんな偏見だよ・・。

記事で就職先として取り上げられているのがソウルの法律事務所や大企業法務ということで,他にも就職先はあるだろうとは思うが,学生に人気なのはやはり大法律事務所や大企業ということらしい。仄聞する学歴競争事情や財閥の影響力などからすると,この辺は日本以上に大事務所,大企業指向が学生に強いのかなとも思う。

韓国については,先行した日本の司法改革を横目で見ながらその失敗点を回避するように動いたという評価がなされることもあるけど,やはり,具体的な需要を精査せずに行った供給増は悲惨な結果を生むという点は共通ということだろう。

法科大学院と司法試験~もう切断しかない2011年06月11日

(人権擁護・二弁の会ニュースに掲載された文章です。)

 新司法試験の受験資格を得るために修了が必要とされる法科大学院。その入学者数は2006年度の5784人をピークに減り続け,2011年度には過去最低の3620人まで落ち込んだ。適性試験の志願者も,重複して受験可能な2回の合計で延べ約1万3000人と,2004年の延べ5万9000人に比べると,4分の1にも満たない。またこの数は,2010年度旧司法試験の出願者数1万6088人をも大きく下回っている。法科大学院を経て法曹になる途が魅力ないものであることはもはや明らかだ。

 しかも法科大学院は,多様な人材の法曹界への受入れをうたって未修者中心の教育をする建前のはずなのに,今年度の入学者中過半の53%が既修者コース。試験の合格率が既修者と未修者で大きく開いていることから,各校が定員減の指導に従うに当たり未修者コース中心に減らした結果だ。二弁が提携している大宮法科大学院も,未修者コースのみで開校したが,やはり合格率低迷から,既修者コースを設置するに至っている。「理念」を理由に提携したのだから,それをないがしろにした法科大学院と提携,協力する意味はどこにあるのか。

 激増のもと,弁護士の経済的状況も楽ではない現在でも,なお司法試験予備試験に約9000人もの出願者が集まることから分かるように,余計な費用と時間の支出を強制されなければ法曹になりたいという人は多く存在する。法曹志望者を法科大学院という時間的・金銭的縛りから解くこと,司法試験受験資格を法科大学院から切り離すことが急務ではないだろうか。