7,8割を謳った法科大学院関係者~読解力不足か,それとも希代の詐欺師か2007年11月22日

法科大学院卒業者に対する司法試験合格者の割合に関する法務省大臣官房司法法制部長の答弁が話題を呼んでいるようですね。→ボツネタ

答弁が掲載されている会議録はこちら(休憩後の木庭健太郎委員への答弁) ですが,何を今更騒いでいるのかという気もします。

争点となっている記述は,司法制度改革審議会の最終意見の,

「3(ローマ数字) 司法制度を支える法曹の在り方」 「第2 法曹養成制度の改革」  「2. 法科大学院」 「(2) 法科大学院制度の要点」 「エ 教育内容及び教育方法」

という項目内にあります。

同項の記述は,以下のようなものです。

必置科目や教員配置等についての基準を定めることにより、法曹養成のための教育内容の最低限の統一性と教育水準を確保しつつ、具体的な教科内容等については、各法科大学院の創意工夫による独自性、多様性を尊重することとする。各法科大学院は、互いに競い合うことによりその教育内容を向上させていくことが望まれる。

法科大学院では、実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した教育を行うべきである。このような観点から、授業内容・方法、教材の選定・作成等について、研究者教員と実務経験を有する教員(実務家教員)との共同作業等の連携協力が必要である。

法科大学院における教育方法(授業方式)としては、講義方式や少人数の演習方式、調査・レポート作成・口頭報告、教育補助教員による個別的学習指導等を適宜活用することとする。とりわけ少人数教育を基本とすべきである。

また、法科大学院での授業は一方的なものであってはならず、双方向的・多方向的で密度の濃いものとし、セメスター制(一つの授業を学期ごとに完結させる制度)の採用等によりなるべく集中的に行うこととすべきである。

「点」のみによる選抜ではなく「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備するという趣旨からすれば、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要である。このような観点から、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が後述する新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。厳格な成績評価及び修了認定については、それらの実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきである。

ここで要請されているのは,法科大学院が充実した教育を行うことであって,新司法試験を法科大学院卒業者の約7,8割が合格できる試験とすることではありません。

法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組み

も,あくまでも

法科大学院における充実した教育

によって担われるべきであって,新司法試験の対卒業者合格率を7,8割とすることによって担われるべきものとはされていないのです。

このことは,上記文章が,法科大学院についての章に置かれていることからも明らかでしょう。

大体,ちょっと考えれば,法務省が実績の何もない法科大学院の卒業者に易々と司法試験の合格率を保障するはずがないことぐらい分かりそうなものです。

法科大学院関係者がこのようなことも分からずに,7,8割という言葉から同程度の合格率が保障されるものと考えていたとしたら,審議会報告書の読解力に欠けた人たちであると言わざるを得ません。

いや,法科大学院関係者ともあろうものが司法審意見書ごときを読み解けないというのは不自然な気もします。マスコミなどの論調にのっかって,司法審意見書の真の意味を知りながら7,8割の合格率とうたい,学生を集めたところもあるかもしれません。しかしそのような法科大学院があったとしたら,学生を食い物にする希代の詐欺師であり,法律学教育機関としての資格を欠くものです。

読解力不足にせよ,詐欺師であるにせよ,合格率7,8割をうたって学生を集めた法科大学院があるとすれば,重要事項の不実告知であるとして,学生から契約の取消しが行われてもやむを得ないような気がします。

上記ボツネタのコメント欄で

7~8割大丈夫だよと屋根の上に登らせておいて、ハシゴを外した感がありますね。

というものがありましたが,屋根の上に登らせたのは法科大学院関係者であって,法務省ではありません。学生の人たちは勉学のほかに,まず自らの属する法科大学院に対して何ができるかを考えるべきように思います。

なお,新法曹養成制度に対しての私のスタンスは別途立ち上げているウエブサイトで述べたとおりで,実績も無い教育機関への通学をいきなり義務づけるなんてことは直ちに止めるべきと考えています。

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将来の法曹を法科大学院の闇と軛から解き放とう(2003年12月作成)

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