裁判員制度の予定通りの実施にこだわる日弁連2008年08月20日

日弁連が本日(8月20日)付けで,裁判員制度施行時期に関する緊急声明を出していますね。

以下,多少のツッコミを。

裁判員法制定とともになされた刑事訴訟法改定で,公判前整理手続が導入されましたが,この点について日弁連提言では,

今回の法改正で、公判前整理手続が導入され、弁護人の活動により、捜査側の手持ち証拠が広範囲に開示されることになりました。再審開始決定された「布川事件」のような冤罪事件で問題になった捜査側の証拠隠しの防止のためには大きい改善であり、裁判の充実にも良い結果をもたらしています。

としています。

エッ!公判前整理手続を経ることによって公判廷に出すことのできる証拠が制限されてしまうという問題点には触れないんですか?弁護士の団体なのに,弁護士が独自に証拠収集するためには時間がかからざるを得ないこと,したがって,一定の時期までに証拠を出さないと原則として証拠が出せなくなってしまう公判前整理手続の導入は弁護活動に深刻な影響をもたらすことは無視ですか?

社会民主党の裁判員制度の実施に対する社民党の見解の中でも

裁判員制度の導入によって被告人の防御権が大きく損なわれる可能性が指摘されている。3回からせいぜい5回程度の集中審理、「迅速、軽負担、平易化」の審理の下で、裁判が拙速となったり、裁判員の日程に配慮した超短期審理のため強引な訴訟指揮が行なわれるおそれが強い。すでに実施されている公判前整理手続(裁判員制度導入をにらみ05年の刑事訴訟法改正で導入)のなかでこうした危惧は現実のものとなっており、裁判員制度の実施にあたっては被告人の防御権をいかに保障するかという視点から注意深い検証が必要である。

現実の裁判では公判の過程で新たな証拠と真実が浮かびあがり、事実の解明に至ることも少なくない。裁判員の日程を優先させれば、追加の主張や立証もほとんど受け付けない、異議も受け付けないという形式的な裁判となり、真実の解明が疎かにされる危険が高いと危惧される。

と,上に挙げた問題点がまさに指摘されているのです。この問題点に何らふれずに公判前整理手続を称揚する日弁連提言は,本当に弁護士団体の提言かと疑われても仕方のないものです。

また,「手持ち証拠が広範囲に開示」って,日弁連自身も認めるように,全面的な証拠開示にはほど遠いのが現状です。あたかも良い状況がもうやってきたかのような幻想を振りまくのは罪としかいいようがありません。

裁判員制度参加について消極的な市民が多いという点について日弁連提言では,

事前のアンケートでは不安を覚える市民の方が多いという報道がなされています。

この点、同じ市民が司法に直接参加し、検察官の不起訴の判断の妥当性を判断する検察審査会では、守秘義務を負いつつも、多くの市民が日常生活を中断して参加されていますが、参加前のアンケートではやはり多くの市民の方が参加に消極的です。しかし、一度審査員を経験された後では、実に96%の市民の方が「参加して良かった」と言う御意見に変わっています。諸外国でもこのような傾向は同じです。裁判員制度は誰もやったことがなく情報も少ないためご不安を覚える方も多いと思いますが、問題のある刑事裁判を良くするために是非ともご参加をいただきたいと考えています。

と言っています。

しかし,最終的に有罪にするか否かは別な機関が決める検察審査会と,死刑判決を下すかどうかまで決める裁判員裁判を同列に扱えるのでしょうか?それに,これまでかなり多数回にわたり裁判員制度についての模擬裁判が行われてきたと思うのですが,その経験者の声が取り上げられていないのはなぜなんでしょう?非常に欺まん的な物言いです。

日弁連の提言では当然ながら触れられていませんが,裁判員制度の最大の欺瞞性は,裁かれる被告人に,裁判員による裁判をうけるかどうかの選択権がない,ということです。裁判員制度が本当に被告人にとって冤罪を防ぐ良い制度であるならば,選択権を与えたとしても,自然に裁判員による裁判が選ばれていくようになるでしょう。それが選べないとなっていること自体,裁判員制度が,被告人に選択権を与えると崩壊してしまうようなしょうもない制度であることが露見しないようにするためのトリックではないでしょうか。

日弁連提言では,

裁判員裁判を延期したのでは何よりも根本的な欠陥を抱えた現行の刑事裁判が続く結果となるだけです。

とも述べられていますが,現行の刑事裁判よりもっと悪くなるおそれの方がはるかに大きくはないのか,もう1度検討してみるべきなのではないでしょうか。日弁連自身が,一度決めたものは変えないという官僚的因襲にとらわれているようにしか見えません。

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