裁判員制度~改善される前の制度の犠牲になる人のことはどうするの?2008年08月22日

まあ官僚のトップとしては,一度決めたことは覆せないのでしょうが・・・。

樋渡検事総長、裁判員制度改善「実施してから」NIKKEI NET

樋渡利秋検事総長は21日、日本記者クラブ(東京・千代田)で講演し、来年5月に始まる裁判員制度について「国民が司法に参加する民主主義の申し子。予定通り実施し、直すべき点があれば改善していけばいい」と述べ、社民党や共産党が相次ぎ表明した実施延期や再検討を求める主張に反論した。

「改善」といっても,法律改正のためには結構な時間がかかるわけで,それまでに「改善」されない状態の制度によって犠牲になる人たちのことはどう考えているのでしょうか。「裁判員による裁判に対する再審の特例に関する法律」でも定めて救済することになるのでしょうか。

刑事裁判は裁判官、検察官、弁護士らプロに任せておけばいいという国民意識があることについて、樋渡氏は「我々を信頼していただけるのはありがたいが、裁判員制度は司法への国民の理解と信頼を向上させる重要な役割がある」と強調した。

裁判の内容がよくなるとかいうのではないんですね。まあ,検察官としては今までの裁判がよくないとは言えないでしょうし,裁判員裁判によって裁判がよりよいものになるとは実際考えていないのでしょう。

それにしても,「裁判員制度は司法への国民の理解と信頼を向上させる」と言いますが,この言い方自体,裁判員制度が国民を裁判に動員することにより,国民が司法をより理解,信頼するようこれを教育教化するためのものであることを物語っています。

こんな制度に日弁連はどこまで賛意を表し続けるのでしょうかね。

ところで検事総長は,取調の可視化について

取り調べの録画・録音については「全面的な録画・録音をしないのかという批判は承知しているが、裁判での供述調書の重みを考えると難しい」と述べた。(上記日経)

ということのようです。

しかし,現実の裁判で供述調書が証拠として重要視されてきたからこそ,取調状況の全面的な録音・録画が求められているのであり(「供述調書の重み」という発言は重要でないということを言いたいのではないでしょうから。),上記検事総長の発言は取調全面可視化否定という結論ありきの議論にすぎません。

可視化の議論自体,取調受忍義務を前提とするものではないか,とか,弁護士の立会権の議論はどこいった,とかいう問題点はあるものの,その可視化すら否定するようでは,裁判員制度はますますろくでもないものになってしまうでしょう。