カテゴリ追加しました ― 2008年09月14日
新たにカテゴリとして「弁護士激増」と「法曹養成制度」を設け,既存の記事のうち関連するものを当該カテゴリに入れました。
by ノムラ [コメント(0)|トラックバック(0)]
新法曹養成制度~誰をどう「救済」すべきか? ― 2008年09月14日
先日,某出版社の人から電話があり,弁護士激増による就職難について話を聞きたいとの申入れを受けました。どうやら,弁護士激増反対パンフを読んで,電話をかけてきたようです。
私自身は53期で,最近の就職事情の厳しさについてそれほど詳しくはない(パンフでも,私自身の時の就職事情についてしか話をしていない。)と言って取材は断ったのですが,その際,相手方から,新60期の人のできはどうか,低下しているのかという質問を受けました。それに対してどう答えたかって?きっぱりと否定しましたよ。総体としてどうこういうことはできないし,私自身が接した範囲の人はよくできる人だ,って。
相手方からはさらに「司法改革」全般についての問題点について聞かれたので,司法改革での一番の問題点は,法科大学院などというところに行かなければ司法試験を受けることも原則としてできないっていうのは,いままでの一念発起,人生巻き返し型の受験ができなくなるという点だという旨のことを述べました。
ところで新司法試験合格者数~「ペースダウン」したと誇れるのか?という記事に対し,合格者さんから,
しかし、これを見た受験生はどのような気持ちになるでしょうか?
数年前まで受験生であった者として、彼らの気持ちは察するに余りあります。
私も、個人的な見解はありますが、受験勉強を続ける友人や後輩もいる中、とても「削減すべきだ」などとは公には言えません。
というコメントをいただきました。
受験生にとっては確かに,その後のことは何とかするから受からせてくれ!という気持ちはあるのかもしれません。
ただそれを満たす方法は合格者増でなければならないのか,各年度の合格者数は少なくても頑張って受け続けることができる制度に戻すということではいけないのか,という疑問があります。
私自身,「司法改革」のうち最悪の制度が新法曹養成制度だと思っていることもあって,受験生も気の毒ではあるが,他にもっと気の毒な人もいるだろ!という気持ちが抜けないんですよね。誰かって?諸事情により法科大学院に行くことができないために,司法試験を受験できない人たちです。
以下,参考までに,私が以前,所属する弁護士会の選挙の政策パンフに書いた文章の抜粋を再掲載します。
後生に恨まれない法曹養成制度を(2002年12月作成)
先の臨時国会で,法科大学院修了又は司法試験予備試験合格を司法試験受験資格とするという新司法試験法が成立しました。一方二弁でも,昨年の常議員会において,学校法人佐藤栄学園の埼玉県大宮への法科大学院設立に当たって同学園と提携するとの基本協定を締結することが議決されました。
法科大学院修了のためには2,3年間にわたる時間的拘束のほか,年間200万ないし300万円の学費とその間の生活費の支出が必要です。これでは,社会人特に被扶養家族を持つ人が法曹資格の取得を志すことは事実上不可能です。加えて,法科大学院には,文部科学省が認証権限を有する「第三者評価機関」を通じて,官僚による間接的統制が及ぼされます。結果として,大学を卒業してストレートで法科大学院に入り,2,3年間のスクリーニングを経たという,同じような経歴の者で法曹界はあふれ,法曹は画一化することは必至です。
大宮法科大学院への協力も問題です。二弁の人員を割くのですから,費用負担は行わないというのはまやかしです。また,弁護士会が支援という形ではあれ特定の学校の運営に関与するのは,本来は総会の決議,会則の変更を経るべき重大事項です。しかし,協力決定に至るプロセスは,法科大学院設立というバスに乗り遅れまいという拙速さばかりが目立ち,十分な手続,議論に欠けています。
私たちが後生の法曹志望者ほか市民に対してなすべきなのは,法科大学院という成果の分からないプロセスに手間と金をかけ,法科大学院教員という新たな業務分野の拡大を図ることではなく,多様な経歴を持つ人々の中から志あるものが心おきなく法曹資格取得に挑戦できる仕組みを確保し,それによって多様な分野での多様な内容のサービスが市民に提供されるようにすることです。(後略)
将来の法曹を法科大学院の闇と軛から解き放とう(2003年12月作成)
法科大学院については,2003年11月27日に66校についての認可と4校についての不認可,2校についての認可保留という設置認可の過程の中で,設置認可基準がなかなか明らかにされなかった,予備校との関係という本来の教育内容と無関係の点が問題とされて不認可となるなど,文部科学省による恣意的介入のおそれが早くも現実化しています。
弁護士会執行部は不明瞭な審議過程を批判していますが,一方,自らの関与した大宮法科大学院については,その認可申請に当たっての文部科学省との間の議論の内容を明らかにしていません。
また,修了のために2,3年間にわたる時間的拘束のほか,年間200万ないし300万円の学費とその間の生活費の支出が必要であるという問題点は解決していません。社会人特に被扶養家族を持つ人が法曹資格の取得を志すことは事実上不可能なままです。
大宮法科大学院大学については,授業料だけで年間200万円が必要になることも明らかになりました。給付される奨学金についても,授業料の大幅な減額を受けられるのは定員100名のうち15名にすぎず,大多数の学生は学費だけで3年間600万円の支出を余儀なくされます。
また,教育ローンの利子補給について「二弁会員を中心として行う募金活動を通じて集められた寄付によって基金を作り、負担します。」とされ,基金が集まらなかった場合の責任が二弁にあるかのような記載となっている点は問題です。募金の依頼なども弁護士会の資金で行うべき筋ではありません。
法科大学院については,法曹となる途を制度的に極端に狭める点で,制度に根本的誤りがあります。この制度の欠陥を補填する司法試験予備試験制度が真に開放的なものであるよう,また,誰にでも開かれた司法試験という現行試験の美点を残すものとして機能するよう,その枠の確保と試験制度の改変を働きかけ,将来的には法科大学院修了を試験資格としない方向への改変を目指すべきです。
大宮法科大学院大学に対する支援については,取りやめる方向での抜本的な見直しが必要です。佐藤栄学園に対しては協定の厳正な遵守を求め,費用についても弁護士会が余計な負担を負わないように働きかけるべきです。
まだ実績も何もない法科大学院というプロセスを,自分たちが経験していないにもかかわらず良いものであるとして押しつける,それは傲慢と理不尽でしかありません。法曹となるための自由で開かれた道を確保する,それが後生に対する私たちの責任ではないでしょうか。(後略)
法科大学院の「枠」にとらわれない法曹養成制度を
法科大学院については、既習者コースの卒業者が受験する2006年度の合格者数について現行試験800名、新司法試験800名という素案が法務省から司法試験委員会に示されたという新聞報道をきっかけに、その制度的混迷が誰の目にも明らかになりました。
二弁は会長声明を出して前記素案を批判しましたが、新司法試験が前提とする「法科大学院における教育内容」が現在法科大学院で現実に行われている教育内容でよいのかどうかは何らふれていません。法科大学院の教育内容についての検証が何ら行われていない段階でその卒業者のみの合格枠=特権拡大を求める議論は乱暴です。成果も不明確な新制度を既存の制度よりも良いものであるはずと決めつける論法はまさしく詭弁です。
現行の司法試験について移行措置であることを強調し、法務省素案の合格者数が多すぎると暗に批判している点も疑問です。得体の知れない法科大学院に費用と時間をかけて通うのをためらうのは自然であり、他のルートで法科大学院修了者と同等の「知識、思考力、分析力、表現力」を身につけることを志す途が制約されるのは不当です。
法科大学院では入学者数に比べ卒業者数が絞られることを強調する人もいます。しかし、どの程度の法科大学院が学生募集に際して「厳格な成績評価・単位認定」をスローガンとして打ち出したのでしょうか。また、大学院側に厳格な成績評価・単位認定を行うだけの資質は備わっているのでしょうか。法科大学院というシステムだけで法曹志望者の選別を行えるというのは傲慢です。
新司法試験では受験資格取得後5年間以内に3回という受験回数の制限が設けられています。この受験回数制限に示されるように、新たな法曹養成制度は、法曹志望者を自分たちが関与した「法科大学院」を卒業した「短期合格者」へと選別排除していくものです。そこには制度の枠外に放り出された現行試験受験生、法科大学院中退者、受験資格を喪失した法科大学院卒業生・予備試験合格者への配慮は感じられません。(後略)
私は,弁護士人口激増によってとんでもない事態が弁護士業界に巻き起こると思っていますし,私自身それに巻き込まれる可能性は十分にあると思っていますから,弁護士激増に反対ですが,仮に激増が生じたとしても,法曹資格取得の入り口が広く開かれていれば,激増後の荒野の中から立ち上がってくる人が出てくるかもしれません。でも,法科大学院に行く手間と金を司法試験受験に当たって必要とする制度(さらに今後は,司法修習の際に借りたお金を返すという負担が加わります。)は,そのような人が出てくる余地を極めて狭めてしまう もので(私は,「プロセスによる法曹統制」と呼んでいます。),弁護士業界にとっても,市民にとっても不利益となると思います。なお,この問題は,奨学金制度の充実などによって解決できる問題ではありません(詳しくはこちらか週刊金曜日の拙文をご覧ください。)。
新法曹養成制度については,現に目の前に現れてくる新司法試験受験者や法科大学院生だけではなく,その背後に隠された法曹志望者に対しどう途を開くかといった観点から見直されるべきように思います。とりあえずは予備試験の合格者数について,「三振者」以外の人も合格できるように,相当程度の数を確保することが必要ではないでしょうか。また,新司法試験の「三振者」については,受験回数制限の適用を猶予する臨時措置法でも作って救済するようにすべきと思います。
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