留保者数の増加の原因は何か? ― 2005年10月09日
修習終了時の評価であることにもっと留意されるべきではないでしょうか。
裁判官任用希望者、9人不採用…1966年以降最多(読売新聞)
最高裁は5日、9月に実施された司法修習の卒業試験に合格した第58期修習生1158人のうち、裁判官への任官を希望した133人について採用の当否を審議し、9人を採用しないことを決めた。
不採用者数は、一昨年の8人を上回り、記録の残る1966年以降では最多となった。
一方、卒業試験に合格できなかった修習生は31人に上った。例年は10人前後で推移してきたが、昨年の46人に続いて2年連続の多さとなり、修習生の質の低下を懸念する声も法曹界から出ている。うち1人は「不合格」で、来春以降に修習をやり直さない限り法曹資格を得られない。残る30人は「留保」とされたため、今後の追試で合格すれば、法曹資格を得られる。
この記事に関連した紀藤弁護士のエントリについて,かなり議論が沸騰しているようですね。
ところで,上記新聞記事には「例年は10人前後で推移してきた」とありますが,私が修習を受けた期(第53期)に19人もの留保者が出る前は,留保者無しが通常で,留保者は出たとしても1~数名でした(ごくまれに二桁の留保者が出た年もあったようです。)。
それでは53期とそれ以前の違いは何か。53期から司法修習が,それまでの2年間から1年半に短縮されたのです。ちなみに53期の修習を受けた多くの修習生が合格した1998年(平成10年)の司法試験合格者は約800名。その前年が約750名ですから,合格者数にそれほど違いはありません。
合格者数と修習生の成績という点では,司法試験の合格者が1997年には約750名だったのが2003年には約1200名になったのですから,修習生間での成績のバラつきが広がるのは自然です。従前はこのバラつきを2年間の司法修習で下支え(底上げ)していたのを,53期からは1年半の修習で底上げしなければならなくなった,そこに無理があったと見るのが自然ではないでしょうか。
53期の修習については,1年半に短縮された修習でも送り出す法曹の質が落ちないようにと,司法研修所でもいろいろカリキュラムを工夫はしていたようです。しかしいくらカリキュラムを詰め込んでも,それまで2年間でやっていたものを1年半に押し込むのは無理があります。制度の無理を,それを担う者の努力で補おうとする「司法版プロジェクトX」の世界。しかも1年半修習で従前同様の能力向上を図ろうと焦るあまり,研修所による修習生管理は厳しくなりました。管理人は,自殺者の発生や鬱病になる者の増加も仄聞しています。そのような運営が司法を担う者を養成する機関で繰り広げられたことの是非について,1年半修習が6回行われた現時点で検証することが必要でしょう。
今後,修習は現行司法試験合格者についてもさらに短縮され,また,新司法試験合格者については1年間の修習しか行われないこととなります(何と実務修習は原則各2か月になるのです)。
修習を短縮しても本当に質を維持できるのでしょうか。それが可能だという幻想を抱いて管理強化のもと無理なカリキュラムを設定し,ついてこられない者は遠慮無く切り捨てる(留保又は不合格もしくは退所勧奨)というのは,制度設計の失敗を修習生の責任に転嫁して済ますもので,責任転嫁される修習生の立場からしたら弥縫策でさえありません。
この6年間の留保者数増加という状況を,単に「司法修習生の質が低下したからだ」などと修習生に責任を転嫁することですまさずに,合格者増・修習期間短縮といった制度改革が失敗ではなかったのか,質量一挙両得というのが無謀な企てであり,まやかしのスローガンにすぎなかったのではないか,ということを謙虚に見つめ直すことが,司法制度改革にたずさわった人たちに求められているように思います。
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