米ヤフーへの支援~どっちもダメだろ2008年02月04日

どっちが支援するにしても,競争の主体が減って消費者にマイナスになるのでは?

グーグル、米ヤフー支援提案…マイクロソフトに対抗YOMIURI ONLINE

【ニューヨーク=池松洋】ソフトウエア最大手の米マイクロソフトがインターネット検索世界2位の米ヤフーに買収を提案したのに対抗し、ネット検索最大手の米グーグルが、マイクロソフトの買収を妨げるため、ヤフーに対し「どんな支援でも行う」と申し入れた。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(電子版)が3日、報じた。ヤフーを巡る大型買収劇は、マイクロソフト対グーグルという「IT(情報技術)2強」の全面対決に発展した。

同紙によると、グーグルのエリック・シュミット最高経営責任者(CEO)が、ヤフーのジェリー・ヤンCEOに直接電話で支援の意向を伝えた。ロイター通信も同日、ヤフーがグーグルとの提携を検討していると報じた。

ただ、米検索市場におけるシェア(市場占有率)はグーグルが約6割、ヤフーが2割強で、両社を合計すれば約8割になる。両社の経営統合は米独占禁止法に抵触する可能性が高く、グーグルによるヤフーの買収や、両社の合併の可能性は低いと見られる。

グーグルは、ヤフーとの業務提携のほか、ヤフーとマイクロソフト以外の企業との提携や、ヤフーの独立経営の維持の支援などを考えていると見られる。

マイクロソフトは1日、ヤフーに総額446億ドル(約4兆7500億円)での買収を提案したと発表した。マイクロソフトは米ネット検索市場のシェアが1割程度と苦戦しており、ヤフーとの統合で、グーグルを追撃したい考え。

しかし、圧倒的な資金力を持つマイクロソフトの攻勢はグーグルにとっても脅威であるため、グーグルも対抗してヤフーに支援を申し入れたと見られる。

ヤフーは3日までに、同社のサイトで、マイクロソフトの買収提案への回答は「かなり時間がかかる可能性がある」と交渉の長期化を示唆するとともに、マイクロソフト以外の提携先を探る可能性も認めている。

一方、グーグルのデビッド・ドラモンド上級副社長は3日、同社のブログでマイクロソフトの買収提案を非難する声明を発表した。

ドラモンド副社長は、「インターネットの開放性がグーグルやヤフーの登場をもたらし、技術革新がネットの利用者に利益を与えてきた」と指摘し、マイクロソフトがヤフーを買収すれば、電子メールサービス分野で圧倒的なシェアを占めることになり、ネット利用者の選択の余地が狭められると警告した。その上で、「世界の政策立案者が調査する必要がある」とマイクロソフトによるヤフー買収提案を独禁法違反の疑いで審査するよう求めた。マイクロソフトのブラッド・スミス上級副社長は直ちに声明を出し、「グーグルは、世界で支払われたネット検索による収入の75%を得てきた。マイクロソフトとヤフーの組み合わせは、インターネット市場に競争をもたらす」と反論した。

記事にもあるように,ヤフー+グーグルでは検索サイト分野での,ヤフー+マイクロソフトでは電子メールサービス分野(yahooメールとhotmailでしたっけ)の競争が阻害されることになるでしょう。

これを防ぐために,支援に当たり,競争を阻害することとなる分野の製品を第三者に売却させる措置を競争当局が講じることが考えられます。

そのような措置なくして支援を認めることは,消費者の選択を狭めることになり,消費者利益を損ねることになるのではないでしょうか。

公取委の審判廃止を検討 政府与党、権限集中弱める2007年12月12日

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/65403.html北海道新聞

政府、与党は11日、公正取引委員会が企業の不服申し立てを受けて行政処分の是非を自ら判断する「審判制度」を廃止する方向で検討に入った。公取委への権限集中を弱めるためで、実現すれば不服審査は裁判所などで行うことになり、競争政策上、大きな制度改正となる。

自民党は12日に開く独占禁止法調査会で、公取委の審判制度を廃止するとの結論をまとめる見通し。政府内でも廃止論が強く、公取委が主張する制度存続は極めて難しい状況となった。

私が在籍していた十年以上前ですら,審判にたえうる勧告ということで,審査部門はかなり慎重に審査を進めていたように思います。

最近は審判官も法曹人が増えるなどして,審査部門との独立性が高まっているように思えるのですが,審判で審決が取り消される割合はどうなっているかなど,公正さについての検証は行われたのでしょうか。

経済界が問題として主張するように

ひとつの機関が検事と裁判官を兼ねるのはおかしい

というのであれば,審判を行う部門を国税不服審判所みたいに別組織とするのがいいようにも思えますが,行革ばやりの昨今は難しいのでしょうか。

公取委が10月に示した独禁法改正案が自らの権限を大幅強化する内容だったため、自民党内でくすぶっていた審判廃止論が再燃し、独禁法調査会の大半の議員が廃止を主張。

って,自民党や経済界は公取を相変わらず煙たがっているんですね・・・。

コンマ以下だけど・・2007年07月24日

株式持ち合い:物流の日通、ヤマト、セイノーが計50億円

物流大手の日本通運、ヤマトホールディングス、セイノーホールディングスが株式の持ち合いを始めたことが23日、分かった。3社の株式取得総額は計約50億円。10月の日本郵政公社の民営化で、一段の競争激化が予想される中、共同事業の協力関係を強化するほか、安定株主を確保して敵対的買収に備える狙いもある。株式持ち合いは、世界的な業界再編の進む鉄鋼業界など幅広い産業で広がっているが、大手運送会社間で持ち合い強化の動きが明らかになったのは初めて。

07年3月期の各社の有価証券報告書によると、日本通運はヤマトとセイノーの発行済み株式のそれぞれ0.1%、0.4%を約20億円で取得。セイノーも日本通運、ヤマト株式の約0.1%を約20億円で取得した。ヤマトは日本通運株式の0・1%を約10億円で取得している。セイノー株については同報告書に記載はないが、購入している可能性もある。

同業者同士の株式持ち合いは,競争の実質的制限になる場合には独占禁止法違反となります。今回の持ち合い,所有する株式の割合がコンマ以下と小さいこともあり問題にはならないでしょうが,業界1位のヤマト運輸(ヤマトホールディングス)が入っているので,寡占化による競争抑制効果が働いてくることはないのか,慎重な審査の対象にすべきような気もしますね。

サッポロとアサヒ,資本提携の動き2007年02月19日

同業他社に資本提携を持ちかけるとは・・・。

アサヒ・サッポロ資本提携、月内の基本合意目指す

ビール業界,今でこそ激しく競争していますが,昔は価格の同調的引上げの常習犯で,しかも小売店での価格が各社均一だったことから,公取から希望小売価格が目安にすぎないことを小売店に周知徹底するよう申し渡されたこともあるところです。

アサヒビール自体,ビール業界で大きなシェアを占めており,これが業界3位のサッポロビールと資本提携すると,市場の寡占度はさらに高まることになります。

資本提携がどのような形でなされるのか分かりませんが,競争を実質的に制限するものとして,公取の排除措置の対象となる可能性も強いと思います。

個人的嗜好としては,アサヒビールで売れ筋のDは好きでなく,それならばまだサッポロのKの方が数段よいと思っているので,資本統合で製品統合などという事態には絶対になってほしくないものです。

公取委 企業合併緩和、シェア基準を維持2007年01月23日

合併審査基準を緩和する必要ってあるんでしょうか。

公取委 企業合併緩和、シェア基準を維持asahi.com

公正取引委員会は、企業合併審査基準の見直しをめぐり、撤廃を検討していた「シェア基準」を維持する方針を固めた。「競争を阻害する恐れは小さい」とみなす基準について、業界の競争状況を示す「寡占度指数(HHI)」とシェア基準を併用して「シェア35%以下でHHI2500以下」に緩和し、現在より企業が合併しやすいようにする。シェア基準撤廃に反発する経済産業省などに配慮したものだ。

HHIは、国内市場の各企業のシェアを2乗した値を足したもので、高いほど寡占化が進んでいる状態を示す。「競争を阻害する恐れは小さい」とみなす現行基準は「シェア35%以下でHHI1800未満」だったが、新基準は対象を広げる。月内にも与党に示し、年度内に最終決定する。

公取委は当初、シェア基準を撤廃し、HHIを採用する方向で検討してきた。しかし、基準の実質的な緩和につながらないとみる同省などは「分かりにくい」と主張し、調整を続けていた。

合併による効率化って,企業の競争力を高めるのには役立つのかもしれませんが,銀行の合併による支店の統合など,利用者にとってはかえって不利益なことが起こるように思います。

合併しようとする企業の側からすれば審査により是正措置を取らされるリスクは低い方がいいということなのかもしれませんが,消費者の立場からみると,合併により選択の幅が狭まり,実際に先に述べたようなサービス低下も起こるわけで,消費者利益の観点からは公取がより幅広に是正措置を講じる余地を残しておいてほしいものです。

<参考>

企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針

累積生産・出荷集中度データのホームページへの掲載について(PDF)

公取委、資格学校3校に警告・合格者数「水増し」表示で2006年10月13日

資格ばやりの昨今,優良誤認表示とされる基準も厳しくなってますね。

公取委、資格学校3校に警告・合格者数「水増し」表示でNIKKEI NET

大手資格試験予備校が公認会計士などの試験対策講座のパンフレットの合格実績に短期間の講座を数回受けただけの人も含めて表示していたのは景品表示法違反(優良誤認)の恐れがあるとして、公正取引委員会は12日、TAC(東京)、大原学園(同)、早稲田セミナー(同)の3校に警告した。

公取委によると、TACは2005年12月―今年6月に配布した公認会計士試験講座のパンフレットに、05年度試験の会員合格者数を「1079名 合格者に占める割合82.4%」と表示。この中には短期間の講座を数回受けただけの人や数年前の受講者も含まれていた。税理士試験講座のパンフレットでも同様の記載をしていた。

大原学園は税理士試験講座の、早稲田セミナーは公務員試験講座の各パンフレットで同様の表示をしていた。公取委は、各校とも正規の受講の成果とは認められない人が合格者数に2割程度は含まれていたとみている。

各校はすでに指摘されたパンフレットの使用を中止しており、「警告を真摯(しんし)に受け止め、今後は適正な広告表示に努める」などとコメントしている。 (22:44)

昨年東京リーガルマインド(LEC)に対して下された排除命令(PDF)では,司法試験口述試験会場までの送迎バスを利用した者,論文試験回答等の資料の提供を受けた者,受験願書の提供を受けた者等についても

会員として司法試験受験講座をご利用

した者の人数に含められていたことが問題とされており,排除命令の対象となった行為が違法なことは明らかでした。

それに比べると今回警告を受けた行為は,短期間のものにすぎないとはいえ講座受講者を含めたというだけのものなので,違法なのかどうか微妙なところです(そうであるからこそ警告にとどめているともいえますが。)。

本件に関する公取の新聞発表文(PDF)を見てみると,各社の違反被疑行為の概要に(注)として,各社がパンフレットで,合格者数には模擬試験のみの受験者や書籍購入者,情報提供登録者を除く旨うたってあることがふれられています。このようにわざわざうたったことで,模試受験者と同列に扱われるべき短期講座受講生も合格者数には含まれないとの誤認を消費者に生じさせるおそれがあるということで,かなり踏み込んだ認定を公取はしたという感を受けます。

ただ,公取はLECに対する排除命令に併せて,資格試験等の受験指導を行う主要な事業者に対して以下のような要望を出しており,本件各社の行為はその要望にもろに反するものでした。

3 要望の概要

資格試験等受験のための講座の受講生募集を行う際の広告表示において,次のような例が多く認められ,このような表示は,一般消費者の認識に沿った適切なものとは認め難いため,資格試験等の受験指導を行う主要な事業者に対し,景品表示法違反行為の未然防止の観点から,表示基準を策定するなどの表示の適正化を図るよう要望した。

(1)自らの合格実績として表示している合格者数,合格者数の比率等について,短期講座の受講生,公開模擬試験のみの利用者等,主要な講座を受講していない者を含めている。

(2)合格者について,単に自らの会員や利用者である旨のみを示し,利用した講座等の範囲を示していない。

本件各社が上記の(注)で指摘されたような記載をしたことが,LECと同じようなことさえしなければ排除命令は受けない,公取の要望を無視してもかまわないという意識の現れと公取にとらえられ,公取の逆鱗に触れたということが今回の警告の背景にあるのかもしれません。

本当に阪急ならよいのか2006年06月05日

村上ファンドとの比較で「よりまし」論が優勢なようですが,慎重に考える必要があるように思います。

村上ファンドがTOBに合意 阪急と阪神、経営統合へasahi.com

阪神電気鉄道の筆頭株主で村上世彰(よしあき)氏率いる投資ファンド(村上ファンド)は3日、阪急ホールディングス(旧阪急電鉄)による阪神株の公開買い付け(TOB)に応じ、保有する阪神株(発行済み総数の約47%)の大半を売却する方針を阪急側に伝えた。TOBの成立は確実とみられ、阪急と阪神は10月1日付で経営統合し、「阪急阪神ホールディングス」となる。大手私鉄同士の統合は戦後初めて。売上高(06年3月期、連結ベース)で東京急行電鉄、近畿日本鉄道に次ぐ私鉄第3位のグループになる。

阪神間を結ぶ鉄道3社のうち2社が同一の企業グループに属することとなるわけですが,「一定の取引分野における競争を実質的に制限」(独占禁止法第10条第1項)することにならないんでしょうか?>公取

それとも,阪神間では旧国鉄のシェアが大きいので,問題にならないといった事情でもあるのでしょうか(この点は輸送量などを調べてみないと分かりませんが)。

別の記事では

乗客減も統合の背景 阪神・阪急

 阪急ホールディングスと阪神電気鉄道の経営統合は、関西大手私鉄では57年ぶりの業界再編となる。村上ファンドの動きばかりがクローズアップされたが、100年のライバルが手を握った背景には、乗客減による鉄道事業の将来への危機感があった。

 「人口が減り始めた中で、今の事業だけで厳しい時代を乗り切れない。(村上ファンドによる阪神株の大量取得がなくても)いずれ、統合はあったのではないか」(阪神の西川恭爾社長)

 「阪急と阪神は競合していない。(鉄道やバスなどの)公共交通機関対マイカーの時代だ」(阪急の角和夫社長)

となっていますが,乗客減だから統合という理屈は,廃止された不況カルテルと同じ論理で,今の世に当てはまるのか疑問です。

村上ファンドではだめだが阪急ならいい,という論調は,村上ファンドに検察の捜査が入るだろうこともあって今後強まっていくと思いますが,阪急で本当によいのか,ということは,上記のような競争上の問題点や,過去に突然球団身売りを発表した前歴のある会社であるという点も含めて,慎重に考えていく必要があると思います。