景品と賭博の狭間2~ガチャとコンプガチャの法的規制を分けるもの ― 2012年05月08日
通常のガチャとコンプガチャ,前者が景品類の提供ではなく,後者が景品類の提供として規制されるとすれば,なぜ扱いが異なるのでしょうか。
まず考えられる理屈付けとしては,
コンプガチャでは,ガチャを引いたことで直接得られるアイテム(あたりアイテムも含みます。)の効用のほかに,あたりカードをコンプリートすることで得られるアイテム等の効用が得られるという点で,取引本来の内容をなす経済的利益とは別の利益が与えられる,
という考え方です。
ただ,この理屈によると,あたりカード自体にはコンプリートするための素材としての効用以外の効用は一切ない,という場合には,コンプリートによって得られるアイテムを取引本来の内容をなすものとしてとらえざるを得ないのではないか
ということになり,コンプ素材を何らの価値のないもの(金地金が取り入れられる前のパチンコの特殊景品を想定してください)とした場合の方が規制を逃れられる
という問題点が生じます。
もう1つ考えられる理屈としては,
「正常な商慣習」からみて,コンプガチャは取引本来の内容などとは言えない
といいきる考え方があります。
景品類の提供とされないものに「値引き」がありますが,値引きについては,懸賞の方法により値引きされるかどうかが決まるときは,景品類の提供に当たるとされています(「景品類等の指定の告示の運用基準について(PDF)6(4)」。つまり提供の方法(条件)により,景品類とされるかどうかが決まっているのです。
そこで,取引本来の内容に当たるかどうかの判断についても,提供の方法(条件)により決まるものとして,コンプガチャのような提供方法については,景品類の提供に当たるとすることが考えられます。
まあ,仮にコンプガチャのみを規制するとなった場合の,その実際上の理由は,ガチャ全体を規制すると波及的効果が大きいこと,ガチャ一般を景品類として規制する場合,得られるアイテムの価額をどう決めるのか(RMTでの価格?)という問題があることから,射倖性がより大きく,絵合わせとして全面的に禁止できるコンプガチャに限って規制することとするというものではないかと思いますが。
景品と賭博の狭間~ガチャ規制について考える ― 2012年05月06日
本当に景品表示法で規制されるとなったら,同法の運用上画期的なできごとと言えますね。
コンプガチャは違法懸賞、消費者庁が中止要請へ(YOMIURI ONLINE)
特定のカードをそろえると希少アイテムが当たる「コンプリート(コンプ)ガチャ」と呼ばれる商法について景品表示法で禁じる懸賞に当たると判断
景品表示法で規制の対象としているのは「景品類の提供」と「表示」ですから,コンプガチャを規制するためには,コンプガチャ商法で提供されているものが「景品類」に当たる必要があります。「絵合わせ」はあくまでも景品類の提供方法の一つにすぎず,「絵合わせ」として禁止されるためには,それによって提供されるものが景品類に当たる必要があります。
景品類とは,「取引に付随して提供される」ものを言います。「ガムを噛んでハワイに行こう!」(景品表示法制定のきっかけとも言われるCMです)といった場合,ガムの取引に付随して,ハワイ旅行というサービスが提供されることになるので,ハワイ旅行が景品と言うことになるのです。
これに対し,これまでは,ガチャにより得られる物(ソーシャルゲームやオンラインゲームにおいてはアイテム)は,パチンコの景品などと同様,「取引本来の内容」に当たるものとして,景品類には当たらないものと考えられてきました。
それが今回どのような理屈により景品類の提供とされるのか。
上記読売記事のもととなったとされる消費者庁長官記者会見では福嶋長官から
カードを組み合わせて、組み合わせによってレアカードが当たるというような仕組みがあります。これは場合によっては、景品に当たるということも考えられます
と述べられており,コンプガチャがすべて規制されるというものでもなさそうです。
オンラインゲーム,ソーシャルゲームのコンプガチャの場合,ガチャを引いたときの外れ商品であっても何からの効能を持つアイテムであることが考えられます(あたり商品であっても同様)。そのような場合には,アイテムとしての効能を持つ商品を得られたことが取引本来の内容であり,コンプガチャの完成に必要な一部であることは取引本来の内容ではない,と解釈すれば,景品類の提供として規制できるとも考えられますが,そのような解釈が購入者の通常の意思とどれだけ合致するものなのかという気もします。
ガチャについては,オンラインゲーム先進国の韓国始め諸外国では禁止されているところが多く,また,射幸心を過度にあおるものでよくないと思うので,日本でも禁止すべきだと思いますが,景品表示法による規制でよいのか,消費者契約法や賭博としての規制の方が実情に合うのではないかとも感じています。
原子力損害賠償法の免責要件について ― 2011年08月05日
もう結構前になりますが,東京電力の株主が,原子力損害の賠償責任が東電にないことを理由に,国家賠償請求を求めたというニュースがありました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110630/trl11063018000009-n1.htm
国賠ではなくて,経営者に対する株主代表訴訟を提起すべきではないかと思うのですが,その点はおきます。
賠償責任がないことの理由というのが,今回の地震,津波が原子力損害賠償法(原子力損害の賠償に関する法律)3条1項但書にいう「異常に巨大な天災地変」に当たるからだということでした。
原子力損害賠償法はこの免責事由を定める前提として,同法3条1項本文で原子力事業者の無過失責任を定めています。
ところで,この無過失責任を定めた立法としては,最近は製造物責任法の例があります。
製造物責任法では,欠陥ある製造物を製造などした事業者に,製造物の欠陥から生じた損害についての無過失賠償責任を負わせている一方で,開発危険の抗弁と言って,以下の事実が証明された場合に免責されることを認めています。
当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
この開発危険の抗弁については,欠陥の認識可能性を基礎付ける技術水準が最高程度の知識水準であることが分かるように書けと求める消費者側と,なるべく抗弁の認められる範囲を広くしようという産業界が対立していました。結局,少なくともこれまでの判例による救済水準を下回ることはしない,ということで,入手可能な最高の技術水準を示す「価額又は技術に関する知見」という言葉が採用されたのです。
その際参考とされた裁判例が,東京スモン訴訟第一審判決でした。(東京地裁昭和53年8月3日判決,判例時報899号)。
このスモン判決は,キノホルムとスモンとの因果関係を認定した上で,過失を基礎付ける予見義務について
ところで、医薬品を製造・販売するにあたつては、なによりもまず、当該医薬品のヒトの生命・身体に及ばす影響について認識・予見することが必要であるから、製薬会社に要求される予見義務の内容は、(1)当該医薬品が新薬である場合には、発売以前にその時点における最高の技術水準をもつてする試験管内実験、動物実験、臨床試験などを行なうことであり、また、(2)すでに販売が開始され、ヒトや動物での臨床使用に供されている場合には、類縁化合物をも含めて、医学・薬学その他関連諸科学の分野での文献と情報の収集を常時行ない、もしこれにより副作用の存在につき疑惑を生じたときは、さらに、その時点までに蓄積された臨床上の安全性に関する諸報告との比較衡量によつて得られる当該副作用の疑惑の程度に応じて、動物実験あるいは当該医薬品の症歴調査、追跡調査などを行なうことにより、できるだけ早期に当該医薬品の副作用の有無および程度を確認することである。なお、製薬会社は、右予見義務の一環として、副作用に関する一定の疑惑を抱かしめる文献に接したときは、他の(同種の医薬品を製造・販売する)製薬会社にあててこれを指摘したうえ、過去・将来を問わず、当該医薬品の副作用に関する情報を求め、より精度の高い副作用に関する認識・予見の把握に努めることが要請されるのである。
なお、右(1)(2)の場合を通じて、動物実験によつては、必ずしもヒトにおける重篤な副作用の予見が可能であるとは限らず、また可能であるとしても容易であるとは限らないのである(前記第四節参照)から、予見義務の内容として、製薬会社に第一次的に要求されるのは、国の内外を通じて、主としてヒトに関する臨床上の副作用情報の収集に努めることであるといわなければならない。
と述べています。
ここで収集すべきものとされている文献の範囲について上記判決は,かなり広い範囲の文献を求めており,南米の文献まで,取り寄せ可能な文献の範囲に含めています。
また,予見可能性を基礎とした結果回避措置の内容について判決は,
副作用の存在ないしその「強い疑惑」の公表、副作用を回避するための医師や一般使用者に対する指示・警告、当該医薬品の一時的販売停止ないし全面的回収
と,販売停止,全面的回収までありうべきことを示しています。
この理論からすると,
世界中の知見を集めて起こりうる天災を予見して対応を講じるべきであり, また,結果回避のための措置としては,運転停止(販売停止)や廃炉(全面的回収)まで併せて考えるべきということになるのではないでしょうか。
そして,今回の地震や津波については,世界的に例がないものではなく,日本でも貞観地震の例などが知られていたのですから,そのような天災は当然予見して対策を講じるべきだったということになるでしょう。
また,結果回避のための措置としても,運転停止や廃炉を含めて考えるべきだったことになります。
そう考えると,そもそも今回の原発事故による損害について東電には,事故発生について過失が認められてしかるべきということになるでしょう。
そして,無過失責任の定めは被害者保護の観点から入れられたものであることからすれば,今回のように世界的知見から予見可能な天災について「異常に巨大」なものとして免責の余地を与えることは妥当ではないでしょう。
「異常に巨大な天災」かどうかも,あらゆる知見を併せ考えて,世界的に全くありえないものなのかどうかという点から判断すべきで,そう考えると,上記のような事情からは,今回の震災・津波は「異常に巨大な天災」とは言えません。
法律制定時の審議では,「異常に巨大な天災」とは関東大震災の3倍くらいの大きさを指すといった議論もあったようですが,その議論が現在も通用するものではありません。原発事故による被害の深刻さ,重大さにかんがみれば,被害者保護の観点から,異常に巨大か否かの判断基準も厳格になされていくべきものです。
いずれにせよ,東京電力については免責を認めるべきではなく,生じさせた全損害について賠償責任を負ってもらうべきでしょう。
冒頭で挙げた筋違いの訴訟が,しっかりと請求棄却で終わることを切に望みます。
最優先で行うこと? ― 2010年06月18日
日弁連で,改正貸金業法の完全施行に関する会長声明が出されていた。 内容自体は概ね良いと思うのだが,気になったのは最後の部分。
さらに、貧困問題は克服すべき社会問題かつ深刻な人権問題であり、当連合会は貧困問題解決を最優先の課題として全力を尽くすことをここに表明する。
前半はまあいいけど,貧困問題解決が日弁連の最優先の課題?
弁護士の貧困問題の解決ということで限定すれば,最優先の課題ということも分からなくはないけど(その解決方法が業務拡大の推進などというのでは全く納得できないが),文脈からしてそのような限定はないよね・・。
足下の貧困問題の根本も見据えられないのに,世の中全般の貧困の解決に当たることなんてできるんだろうか?
○○を使っていない,という表示 ― 2010年05月17日
消費者が知りたいと思ったことでもその希望が誤った認識に基づくものである場合には表示してはだめということでしょうか。
口蹄疫に関する不適切な表示について(PDF)
4月20日以降、宮崎県の農場で飼養されている牛・豚などの、口蹄疫の患畜及び疑似患畜が確認されている件について、当庁では、消費者に根拠の無い不安を与えることがないよう、別添のとおり、食品関連事業者に対し、適切な表示を行っていただくよう要請する文書を作成し、HPに掲載いたしました。
別添文書の内容は以下のとおりです。
食品関連事業者の皆様へ
○4月20日以降、宮崎県の農場で飼養されている牛・豚などについて、口蹄疫の患畜及び疑似患畜が確認されていますが、感染が疑われるとの報告があった時点で家畜の移動が自粛されており、口蹄疫にかかった家畜の肉や牛乳が市場に出回ることはありません。
○口蹄疫は、偶蹄類の家畜(牛、豚など)や野生動物(シカなど)が感染する病気であり、人が感染することはなく、牛肉や豚肉を食べたり牛乳を飲んだりしても人体に悪影響はありません。
○安全上の問題はありませんので、飲食店・小売店において「宮崎県産の牛肉は使用していません」との表示を行うなど、消費者に根拠の無い不安を与えることがないよう、適切な配慮をお願いします。
○事業者の皆様におかれては、口蹄疫に関する正しい知識に基づき、適切な表示を行っていただくようお願いします。
平成22年5月17日
消費者庁
「宮崎県産の牛肉は使用していません」というのは,いわばネガティブな原産地表示といえるもので,実際に宮崎県産牛肉が使用されていなければ,本来は不当表示とはいいにくいものです。「適切な配慮」を求めるにとどめているのもそのような事情からでしょう。
ところで,このような表示が消費者に与えるおそれのある「根拠の無い不安」というのは,特定の産地で作られた牛肉が身体に害を及ぼすかもしれないというものです。しかしそのような不安は,小売店や飲食店がそのような表示をすることで生じるものなのでしょうか。むしろ,口蹄疫の発生状況についての政府・マスコミの報道により「不安」は生じるものでは?そして消費者としては,口蹄疫についてよく分からないうちは,その産地のものは避けておこうとするのはまっとうな行動であり,そのような行動の一助となるべく特定地域産のものではないことを示すのは,それ自体おかしなものとはいえないでしょう。
消費者庁も事業者への要望の一方,消費者団体等に対して,口蹄疫に関する情報について(PDF)という文書を発し,冷静な対応を呼びかけています。
ところで,このような消費者庁の一連の文書発付を見た限りでは,その目的は,危ないかもしれないなものを回避しようとする消費者の利益よりも,事業者(宮崎県の畜産業者等)が風評被害に遭わないようにすることを図ることにその主眼があるように見えます。
つまり,消費者保護というよりはむしろ,宮崎県産牛肉の関連業者がg競争上不当に不利にならないようにという点に主眼があるもので,景品表示法が独占禁止法の特別法であることから見ればそのようなねらいはわかる(公正な競争を確保するということになるから)のですが,消費者保護という観点からはどうなのかなあという疑問もまた残るところです。
総量規制で経済収縮? ― 2010年05月17日
多重債務を防ぐ改正貸金業法の施行で、6月以降、無収入の専業主婦(夫)は、消費者金融からの借り入れや、クレジットカードのキャッシング利用が難しくなりそうだ。無収入でも配偶者の同意書などを提出すれば借りられるが、業界大手は事務処理の費用がかかることなどを理由に専業主婦には貸さない方針のためだ。業界では、400万人以上が新規借り入れが出来なくなるなどの影響を受けると見ている。
これによって経済が収縮するといった見方(ボ2ネタ)も出ていますが,どうなんでしょうかね。
貸金業法が改正され金利の上限が利息制限法同様年15~20%となったわけですが,これでも現在の経済成長率を考えると遙かに高いもので,所得の上昇がなかなか見込めない昨今では,それだけの率の利息を払っていくのも困難でしょう。無理に利息の支払を継続し,不足分を補おうと借り増しすれば更なる利息の負担を招き,生活費の支出も圧迫されます。そのような生活を続けるよりは,いったん自己破産・免責により債務を帳消しにしてもらった方が消費の増大・維持につながるのではないでしょうか。
そもそも収入を上回る支出という事態が起こらずに済む生活をするような消費者教育が第一のような気もしますし,不慮の事態でそのような状況に陥った人の救済のための小口融資って,市民(国民)の生活保障ということですから,本来は公の仕事であり(現に小口融資を行っている地方自治体も存在します。),貸金業者の経営に配慮した法制度を維持することで達成しようとするようなものではない気がします。
神世界事件で24人が追加提訴 ― 2009年12月26日
有限会社神世界及びそのグループ会社並びに会社役員らに対し,その被害者ら24人が東京地裁に昨25日損害賠償請求訴訟を提起しました。
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009122501000640.htm
ヒーリングサロンを装った有限会社「神世界」(山梨県甲斐市)グループの霊感商法事件で被害を受けたとして、新たに10都道県の30~60代の男女24人が25日、神世界と関連会社などに計約7400万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。
神世界被害対策弁護団によると、集団提訴は今年5月に続いて2回目。原告数は計41人、請求総額は約2億4千万円になった。
訴状によると、グループは、警戒心を持たれないヒーリングサロンを装って被害者を誘い込んだ上で「御祈願をしなければがんが治らない」などと迫り、現金をだまし取った、としている。
弁護団の紀藤正樹弁護士は「グループによる被害は予想以上に深刻で、泣き寝入りする人を出さないよう新たな提訴に踏み切った」と述べた。
なお,神世界に対する第1次集団提訴による訴訟については,2010年2月3日午前10時10分から次回期日が開かれることとなっています(東京地裁611号法廷)。
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