弁護士激増見直し批判についても横並びですか2008年03月03日

これで大手3紙そろい踏みですか。横並び体質もここまでくるとある意味立派かもしれません。

司法試験合格者 増加のスピードを緩めるな(3月3日付・読売社説)

それにしても

弁護士の間でも、3000人計画の見直しを求める声が高まっている。法曹人口の8割以上を占める弁護士が、大都市部を中心に、就職難に直面していることが、主な理由だ。

しかし、就職難という理由から増員に反対するのでは、一般の理解は得られまい。

過当競争になり、利益至上主義の弁護士が増えるという指摘もあるが、弁護士が依頼者のためにサービスを競い合うのは、当然のことだ。むしろ、競争によって弁護士の選別が進み、全体の質の向上につながるのではないか。

といいながら,

合格者の増加が計画通りに進まなければ、法科大学院の経営や教育内容にも影響が及ぶだろう。そうなれば、実務型の法律家養成という、法科大学院創設の理念が崩れかねない。

というのは,どういうことなんでしょう?

「過当競争になり、合格者輩出至上主義の法科大学院が増えるという指摘もあるが、法科大学院が学生のためにサービスを競い合うのは、当然のことだ。むしろ、競争によって法科大学院の選別が進み、法科大学院全体の質の向上につながるのではないか。」

ってなぜ言えないのでしょう。なぜ弁護士には競争が必要で,法科大学院には競争が不要なのでしょう?

また,

来年からは、容疑者段階での国選弁護の対象が拡大され、昨年は6760件だった対象事件が10倍にもなるとされる。弁護士の過疎地域でこの制度は機能するのか。偏在解消を優先すべきである。

といいますが,司法支援センターなどと契約しなければ国選弁護ができないようにして弁護士の反発をかっている現状を改めることが先でしょう。また,報酬も弁護士が事務所経営を気にすることなく専念できるようなものにしないと,偏在解消は行き詰まるでしょう。

ところで読売社説は,

最高裁は、合格者増による質の低下を防ぐため、司法修習のあり方を検証する必要がある。

とも述べています。

「合格者増による質の低下」に防止策が必要と認めてらっしゃるわけですから,合格者増が質の低下につながることも認めているわけですね。

質の低下を防ぐためには,司法修習の期間伸長が一番の特効薬だと思うのですが,そのような論陣は張っていただけるのでしょうか?

質の低下の防止が政策上必要だということであれば,そのための費用(給与支給)なども国が手当てすべきだって主張していただけるんですよね?

制度の転換点にある今、考えるべきは、利用しやすい司法システムの構築だ。

弁護士を含む司法システムを利用しやすくする方法としては,法律扶助の拡充により市民の費用負担を軽くするとか,国選弁護人の推薦権を日本司法支援センターから弁護士会に戻すことで国選弁護人就任への弁護士の抵抗感をなくすとか,新聞が弁護士の広告については掲載料を無料にするとか,様々な方法がありえます。

利用しやすい司法システムの構築のために年間3000人という合格者数が本当に必要なのか,また年間3000人に増やせば司法システムが利用しやすくなるのか,全く検証がなされていないのではないでしょうか。

ところでこの読売の社説,標題と結語が一致していないようにも読めます。実はこの社説,新聞社の横並び意識(広告主である法科大学院への配慮?)からやむを得ず書かれたもので,激増はやはりまずいのではないかという意識が書き手にかすかにではあれ存在するものではないでしょうか。もっとも,激増の問題点について分かっていながらあえてこのような文章を書くこと自体極めて悪質なもののような気もしますが。

延期することの意義2008年03月05日

新潟県弁護士会で,裁判員制度実施延期に関する決議が採択されたようですね。

裁判員制度「数年延期を」、新潟県弁護士会が決議(NIKKEI NET)

新潟県弁護士会、裁判員制度の実施延期求める決議(YOMIURI ONLINE)

裁判員制度の延期を決議 新潟県弁護士会(asahi.com)

延期ではなくて廃止を求めるのが筋道では?という考え方もありましょうが,いったん決まった法律の施行時期が延期されるというのは極めて重大なことです。

制定された法律は,施行に向けて関係者が労力をかけて努力をしていきます。延期されても次の期限に向けて努力は続けられるのかも知れませんが,努力の継続は大変なことであり,それだけの努力を続ける意義があるのかという声が関係者の中にも大きくなることは確かです。しかも,いったん決まった実施時期が延期されるということは,場合によっては再延期や廃止の可能性もあるということですから,施行に向けての動きが停滞することにもつながります。

このように,実施延期は,運動論としては非常に大きな意義を持つものであり,それだけに,推進論者の抵抗も激しくなる(現に,埼玉と仙台では決議案が否決された。)ものと言えるでしょう。

2007年問題の後遺症は2008年問題だけじゃない2008年03月06日

先日,在京弁護士会での集まりでのこと,60期の弁護士の話をきいてびっくり。ノキ弁になったがそれもやめて宅弁をやっている弁護士や,ノキ弁先,勤務先をやめる弁護士が続出しているという。

背景には,ノキ弁という境遇が劣悪なこと,ノキ弁に限らず法律事務所に勤務しても待遇がやはり劣悪なこと,弁護士を雇う側の意識もこれまでと異なり,かなり安く使おうという意識が見られるものがあるということのようだ。

勤務先やノキ弁先を変えることができる人はまだよい。劣悪な業務・労働環境にもかかわらず,新たな就業先や独立採算のめどもたたずに頑張っている人も含めれば,就業・労働環境に苦しんでいる人はかなりの数にのぼるのだろう。

増田さん

就職難もそうですが、運良く採用されたとしても、労働条件の切り下げや解雇問題、パワハラ、果ては、イソ弁労働組合に対する不当労働行為など、問題はいよいよ深刻化してくることでしょう。

と懸念されていることが既に現実化しているのだ。このように2007年問題はその傷跡を依然として残している。これを解消するためには,即刻激増取りやめに動くしかないのではないだろうか。

廉売規制で公取と経産省が連携するとは・・2008年03月06日

時代が変わったと感じます。

不当廉売:公取委と経産省が連携、摘発強化へ

公正取引委員会と経済産業省は6日、連携して不当廉売など「不公正な取引」による違法行為の摘発を強化する枠組みをつくる方針を、自民党の独占禁止法調査会に示した。経産省の職員を臨時で公取委の職員として併任し、企業の調査を強化するのが柱。

原価割れで販売し、ライバル社を市場から締め出す「不当廉売」や、大企業が下請け業者に対し不当な要求をする「優越的地位の乱用」の取り締まりを強化する。建設業、ガソリンスタンド、酒販売店などの業種を想定している。【瀬尾忠義】

経産省の職員を臨時で公取委の職員として「併任」するって,私の感覚では泥棒が警官になるようなもののような気がします。十数年前であれば公取の事務サイドは徹底的に抵抗したと思うのですが,時代の流れなんでしょうか・・・。

不当廉売規制の強化って言いながら実際には単なる安売り規制に堕してしまわないようにしてほしいものです。

言うのなら弁護士資格を返上してからにしてほしい2008年03月24日

橋下知事、「代用監獄は必要性ある」 府議会委で(asahi.com

大阪府の橋下徹知事は24日開かれた府議会警察常任委員会で、警察の留置場を本来の拘置所の代わりに使う代用監獄制度について、「治安維持などの点から考えると、実務上の必要性もある」との考えを示した。代用監獄制度は「冤罪の温床になっている」との批判が根強く、昨年5月には国連の拷問禁止委員会が日本政府に改善を求めている。

「国の拘置施設の整備が遅れているので、警察の留置施設を代用しなければいけない実態がある」という委員の指摘に対し、橋下知事は「単なる収容能力の問題に限らない。事案の真相解明という観点からも考慮する必要がある」と述べた。

「事案の真相解明という観点からも考慮する必要がある」って,報道された限りでの文脈では,事案の真相解明のために取調が容易にできる代用監獄は必要だ!と言っているように見えます。本気で言っているのでしょうか?

光市母子殺害事件に関しての弁護士懲戒扇動時の発言(一審なら世の中を敵に回しても弁護するけど,最高裁まで来たのだから従うべきといった旨の発言を以前テレビで見ました。)にしても,この人,権力に尻尾を振るのが好きなんですね。よく言えば機を見るに敏ということかもしれませんが。

弁護士でもこんなことを言っているなどと言われるのは心外なので,さっさと弁護士バッジを返上して,タレントと政治活動に専念してほしいものです。もちろん,時間外労働を事実上強要するような,順法精神に欠けた言動は政治家としてもやめていただきたいものですが。

3000人前倒しは避けられそうだが・・・2008年03月25日

第一報は朝日でしたが,読売はより詳しく載せていますね。

司法試験「3千人」前倒し達成を政府断念、合格率低迷で

政府は25日の閣議で「規制改革推進のための3か年計画」の改定を決定した。司法試験合格者数を2010年ごろまでに3000人程度とするという政府目標を「前倒しして達成」するという文言を削ったほか、目標達成後の司法試験合格者数についても「更なる増大を検討する」との目標も削除しており、司法制度改革の減速が懸念される。

今回の改定は、政府の規制改革会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)が昨年末にまとめた第2次答申を踏まえたものだ。司法試験合格者数について「現在の目標(10年ごろまでに3000人程度)を確実に達成することを検討するとともに、その後のあるべき法曹人口について、法曹としての質の確保にも配意しつつ、社会的ニーズへの着実な対応を十分に勘案して検討を行う」とした。

政府は02年3月に「10年ごろには司法試験合格者数3000人程度を目指す」とした「司法制度改革推進計画」を閣議決定した。さらに07年6月に閣議決定した「規制改革推進のための3か年計画」では、この政府目標を「前倒しして達成するとともに、その達成後の法曹人口について、更なる増大について検討を行う」と明記するなど改革の加速化を図ってきた。これに対し、今回の閣議決定は、「政府目標前倒し達成」と法曹人口の「更なる増大」の二つの文言が削除された形だ。

背景には、政府が司法試験合格者増大の有力な手段として見込んでいた、法科大学院の司法試験合格率が、07年で約40%に低迷するなど予想を大幅に下回っていることがある。規制改革会議委員の福井秀夫政策研究大学院大教授は「他の先進国と比べれば日本の法曹人口は圧倒的に少ない。3000人以上の合格者は必要だが、供給源となるはずの法科大学院の教育がうまく離陸していない。まずは3000人の着実な達成のため、法科大学院の教育を改善すべきだ」と指摘している。

このほか、規制改革3か年計画の改定は、混合診療の範囲拡大や保育所の入所基準の緩和など、17分野にわたる規制改革が新たに盛り込まれた。

(2008年3月25日11時55分 読売新聞)

「司法制度改革の減速が懸念される。」って,司法制度改革はどんどんすすめるべきものだっていう先入観を露骨に表してますね。

それにしても,増員前倒しを取りやめる理由が,「法科大学院の司法試験合格率が、07年で約40%に低迷するなど予想を大幅に下回っていること」というのは論理的におかしな気がします。司法試験合格率の低さは,合格者数を前倒しで増やすことにより(程度の問題はあれ)解消できる問題だからです。

増員前倒し取りやめの理由は,朝日新聞の記事にあるように,

法曹人口の急増による「質の低下」や弁護士の就職難、訴訟社会の進展

への懸念が広がったからというのが正確なところでしょう。読売の上記記事は増員の問題点を意図的に隠しているように見えます。

ところで,規制改革会議の3000人実現前倒し論は否定されたものの,司法制度改革推進計画の,2010年に3000人という計画は「確実に達成することを検討」されるべきものとして残っています。

宮崎次期日弁連会長は会長選挙の際,3000人達成時期の延期を主張すると言っていました。平山現会長が3000人見直しに言及せずに,ニーズの「検証」にいそしんでやっていらっしゃったのでしょうから,宮崎新会長におかれては,就任後即座にその検証結果を踏まえ,3000人達成時期の延長,更には,3000人自体の見直しまで踏み込んだ提言をしてほしいものです。

それにしても気味悪いのは,福井秀夫教授の発言です。

「他の先進国と比べれば日本の法曹人口は圧倒的に少ない。3000人以上の合格者は必要だが、供給源となるはずの法科大学院の教育がうまく離陸していない。まずは3000人の着実な達成のため、法科大学院の教育を改善すべきだ」

というのは,さらなる増員を諦めていないということです。そもそも,合格率が低いという問題は,福井教授のロジックからすれば,合格者数を増やすことで解消すべきということになるはずですが,それをはっきりと打ち出せない状態にまで追い込まれながら,なおかつ増員をあきらめないというのは,往生際が悪いとしかいいようもありません。それにしても,このような教授に教えを受けなければならない人々(特に大学院に派遣されている公務員の方々)は気の毒としか言いようがありません。