これで倫理を試せるの?2010年11月17日

法科大学院入学のために受験しなければならない,適性試験の受験料が値上げされるらしい。

『平成23年実施の適性試験について(お知らせ)』(PDF)

受験料の値上げについて,実施主体である「適性試験管理委員会」は,

新しい法曹養成制度の中核として法科大学院が創設された当初(平成15 年(2003 年))と比して法科大学院入学志願者数が著しく減少している現状などに鑑み、今後、唯一の実施機関として独立して適性試験を継続的・安定的に実施する観点から、受験料を上記のとおりに設定する。

と言い訳している。

しかし上記リンク先の資料に添付されているグラフを見て分かるとおり,適性試験の受験者数の激減は今に始まったことではない。

ここに至って5割増しという値上げを行ったのは,大学入試センターという競争相手がなくなって独占状態となり,価格決定にあたって競争相手を気にしなくてよくなったことが大きいのではないだろうか。

ちなみにこの適性試験管理委員会,(公財)日弁連法務研究財団,法科大学院協会と社団法人商事法務研究会によって組織されている。

商事法務研究会のサイトを見ると,平成21年度の収支計算書(PDF)上,適性試験収入は87,232,586円,適性試験事業費支出は85,831,537円となっている。つまり収支で言うと黒字になっているのだ。

日弁連法務研究財団のサイトでは,新公益法人に移行したばかりからかどうか,事業報告や収支報告が開示されているページは見あたらなかった。弁護士に公益性を説き,情報公開の推進を訴える弁護士会の外郭団体としてはどうかと思う。)

昨年の時点で黒字が出ている事業について,しかも今まで受験者数で後塵を拝してきた大学入試センター実施分の受験者を吸収することが見込まれるにもかかわらず(自団体実施分の受験者との重複分は2回実施することで吸収しようというもくろみであろう。)5割もの値上げをするのは,暴利をむさぼっているとしかいいようがない。それとも,そうでもしなければならないほどの受験者数の減少を見込んでいるのだろうか?

ところで,適性試験実施委員会を組織する一員である法科大学院協会は,いわずとしれた法科大学院の業界団体である。法科大学院では法曹倫理をも教えるわけだが,このような受験料の設定は,金を取れるときにはなりふりかまわず取れというのが法曹倫理の中核だと言いたいということなのだろうか?

それにしても,法科大学院経由の法曹への途は,これでますます金がかかるようになるわけだ。やはり,金や時間の有無にかかわらず法曹になる途が確保されるよう,法科大学院には法曹養成の中核からおりてもらう(とりあえずは予備試験枠の確保)しかないのではないか。

どうなる,ロースクール集会22010年10月13日

今,日弁連執行部は挙げて給費制維持にまっしぐら,という感のある昨今。給費制維持が貸与制に比べて好ましいことは(というか,貸与制がとんでもないものであることは)賛成であるが,問題の根底はそこじゃないよね?ということを敢えて問うてみることになりました。チラシが送られる範囲は諸事情により東京三会に限られているようですが,参加していただけるのであればそれ以外の方も歓迎のようです。

学習会~どうなる? ロースクール その2   

10月13日(水) 18:00~20:00

会場:弁護士会館(東京)10階1006号AB室

テーマ 

1 ロースクール生、修習生、若手弁護士の窮状

2 ロースクール制度の学費その他問題点

3 「給費制維持」運動は何をもたらすか

今年から導入が予定されている司法修習貸与制。最高裁から公表された概要では,保証人2名が用意できない場合にはオリエントコーポレーションの機関保証を得なければならないという凄まじい制度であることが明らかになっています。

では,このような貸与制を阻止すればそれでよいのか?日弁連の調査によれば,現状でも司法修習生の半数に「借金」があり,その具体的額は最高で合計1200万円,平均で318万円に上るとのこと。貸与される給与額(一般の場合月23万円)の合計よりも多い負債を既に抱えています。

しかも上記新司法試験合格者の陰には,そもそもロースクールに通うことができず、司法試験受験機会を奪われた多くの人が存在し,それは,予定合格者100名にも満たない旧司法試験の受験者数がなお1万人を超えていることにも現れています。

ロースクールについては合格率が当初喧伝されていたのと異なる,学費負担が高すぎると怨嗟の声が渦巻いていますが,では合格者数が当初予定の3000人となり,定数調整で合格率が7,8割となればそれでよいのか,奨学金制度が充実し学費負担がなくなればそれでよいのか,法科大学院制度の狙いとその「効き目」は何か,といったことについても突っ込んだ検討が必要ではないでしょうか。

司法修習給費制維持の主張一色の弁護士界の中で,こうした問題が隠されようとしているのではないかとの思いから,7月の学習会に引き続き,学習会を開催することにしました。

皆様是非とも御参加いただきますよう,ご案内申し上げます。

ちなみに第1回学習会についての報告文を,以下に挙げておきます。

ロースクールの過去・現在・そして未来は?

当会が呼びかけたロースクール問題の討論会が去る7月13日開かれた。法科大学院(ロースクール)は、法曹(≒弁護士)激増の基盤をなす法曹養成制度としての面と、1980年代後半の大学院大学構想から産学協同、大学の独立行政法人化、専門職大学院制度といった、従前の「リベラル」な大学を解体する流れの中にある面を持つ。さらには、弁護士会で初めて法科大学院構想を打ち出した第二東京弁護士会提言が同時に司法研修所の廃止を唱えていたように、“法曹養成の民営化”という面をも兼備するものだ。

法科大学院卒業生の報告によれば、現実の法科大学院では学生は専ら試験に役立つという観点から司法試験科目中心に科目取得し、学校でも卒業生を利用した司法試験対策が行われている。また、「法科大学院乱立の末」(7/19朝日)という事態の解決のための定員削減によって現実に起こっているのは、未習者枠の削減であるという。優秀と目された教員も離れていった。加えて、「弁護士になったけど」(同)とさえ報じられる就職難で、学生からは、「受かっても意味がない。借金ばかりが増えた。」との声があがっている。

法科大学院を支える「司法改革」(弁護士激増)、「大学改革」は、いずれも新自由主義の所産。法曹志望者も教員も幸せにしない、一部の者の利権にすぎない法科大学院の桎梏から、法曹志望者や大学を即刻解放すべきだ。

司法修習発展的解消論?閣議決定・約束違反?2010年09月13日

先週の土曜日,弁護士会で,司法シンポジウムなるものが開かれたようだ。

そこでは,新司法試験合格者による,司法修習発展的解消論なるものが唱えられた模様。要は,法科大学院を法曹養成の中核とする考え方を推し進めれば司法修習は不要となるというもの。司法修習がなくなれば,貸与制とか給与制とかいう問題もなくなるということらしい。

この発言者とおぼしき人のつぶやきとか見ると,法曹になるまでの拘束期間が長いことを問題にしているようだった。

でも,修習による1年間の拘束よりもずっと長い拘束が法科大学院によってかけられていることの方が問題だと思うんだけど,いかがなもんなんだろう?

それにこの人,今までの点による選抜が問題だったことは明らかというような論調でつぶやいているようなのだが,一発勝負での選抜がプロセスによる選抜よりよいという具体的根拠が明らかでないし,一発勝負で,そこまでの過程が問われない方が,より多様なルートから法曹になる人が輩出されることは明らかなんじゃないのかな。いわゆる三振制もなかったんだし。

私自身,現在の司法修習が優れたものかどうかについては,修習期間が1年半になって初年度の統制下の修習を経験したこともあって,かなり疑問視しているし,法曹養成について,現時点で貸与制か給与制かだけを取り上げて論ずることは反対だけど,司法修習をなくせば解決なんていう考え方には到底賛成できない。

あと,司法試験合格者3000人が達成されなかったことについて,閣議決定に反する,約束違反だという意見を最近ネット界隈で目にした。また,私の属する第二東京弁護士会の某派閥のニュースレターでも,公約違反とのトップ記事があった。

しかしこの点については前回の記事でも触れたけど,合格人数についてはしっかり前提条件というか留保がついているんだよね。

合格者数や合格率については,新司法試験初年度に,7~8割合格しないことについての文句の声も目にしたけど,7~8割というのは法科大学院の努力目標にすぎないのであり,7~8割というのが合格率の保障でないことは司法制度改革審議会意見書を読めば分かることなんだよね。

司法制度改革推進計画にしても,司法制度改革審議会意見書にしても,権力側が作った文書なわけで,その解釈については権力側が行うことになっている。それだけに,書面上の記載については後に権力側によってどのような解釈がされるおそれがあるのか,綿密に点検する必要があるのではなかろうか。

それをきちんと検討せずにか,検討して分かっているけど故意にかは知らないけど,約束違反だって騒ぐのはどうかと思う。

まあ,自分が権力側に自分がイヤなことをやられたら騒ぐだろうから,今回騒いでいる人は上記のことが分かってやっているんだろうけどね,というか,弁護士やそれになろうという人である以上,それくらい分かってやっているものと信じたい。

最近の「司法改革」をめぐる一連の動きを見ていると,「司法改革」を推進している人たちって,綿密にものごとを見聞き考えているわけではないんだなって感を強くさせられる。

私も,そんなこと今更気づいたのか,って言われそうだけれども。

法曹養成制度に関する検討結果(取りまとめ)2010年07月07日

法務省のサイトで公表されていました。

とりあえず論点整理して,結論は先送りという感じに見えますね(以下,いずれもPDF)。

検討結果概要 http://www.moj.go.jp/content/000050028.pdf

検討結果 http://www.moj.go.jp/content/000050026.pdf

資料 http://www.moj.go.jp/content/000050027.pdf

「課題解決士」のススメ?2010年06月20日

前の記事で取り上げた毎日新聞のコーナー記事で,高木元連合会長が以下のように述べていました。

先程言ったように、多様な課題解決に関与できるプロフェッショナルを育てるために、法科大学院や司法修習も、訴訟実務中心の教育を見直し、専門性を追求できるシステムにすべきだ。

 どこかで見た文言だと思ったら,「法曹養成制度改革に関する提言」にあったものでした。よく見ると,高木元会長も提言者に名前を連ねているではないですか。

 この提言では,日本が今後「途上型国家」から「課題解決型国家」へと脱皮するために法曹の役割が重要であり,法曹像についてもこれまでの「国内訴訟担当者」から「課題解決者」へと転換する必要があると述べています。

 「途上型国家」というのは,提言で引用している新成長戦略での記載から推し量ると,「坂の上の雲」(ここにも司馬遼太郎!)を夢見て経済成長を図ることを目的とする国家をいうもののようです。

 経済成長による国民生活の向上も1つの課題ではないかという点は措くとしても,課題解決って法曹以外の人では図れないものなんですかね?従前の公務員にも,公務員試験という,法律の知識も問われる試験をくぐってきている人が数多くいるわけで,そうした人が「法科大学院」を出た「法曹」に取って代わられなければならない理由が分かりません。

 提言では,法曹像の転換に伴い,法曹教育についても,「国内訴訟実務家養成」から「課題解決者養成」へと転換する必要があるとしています。その上で,研修所教育について,

修習内容としては,国内裁判実務の修習が中心である。

国内裁判科目の修習と修了試験に合格しなければ,法科大学院を修了し新司法試験に合格しても,法曹資格を取得することができない仕組みになっている。

国内裁判実務に就くことを予定していない新司法試験合格者が法曹資格を取得するためには,国内裁判実務修習を(2010年採用者からは)1年間無給で受けるか,あるいは弁護士法5条2号の定める法律関連実務に7年間就業しなければならない。

との認識に立ち,

司法修習制度について,現在の制度及び運用状況が「国内訴訟担当者」養成を想定したものであることは疑いない。そこで,「課題解決者」養成の観点に立った場合,法曹資格を取得するために必須の制度として現在の内容のまま維持する必要があるのかを含め,抜本的な検討を行うべきである。

としています。(点はコンマに直しています。)

 要するに,国内裁判実務に就くことを予定していない新司法試験合格者について,国内裁判実務のトレーニングを経ずとも法曹になれるように修習内容を変更せよ,そうしなければ修習なんて廃止だ,ということのようです。

 しかし,法的紛争は最終的に裁判によって解決されるのが原則である以上,課題の解決に当たっても,裁判に持ち込まれたときどのような手続でどのような判断がなされるのかまで考えて処理しなければならないはずのものです。事件の相談者・依頼者も,そこまで考えてもらうことを前提に弁護士に相談・依頼してくるのではないでしょうか。

 国内裁判実務の教育を積まない者について弁護士としての資格を与えることは,相談者・依頼者にとっても有害無益でしょう。

 もし,国内裁判実務についての教育や試験を経ない状態で課題解決に当たる存在を認めるとすれば,その人たちについては,法曹ではなく,「課題解決士」という新資格をつくり,そちらを付与することにしてはどうでしょうか。国内裁判実務のトレーニングを積んでいない以上,訴訟代理権は有しないことになります(この点では,現行の認定司法書士より権限が制限されることになります。)。

 その上で,新司法試験については課題解決士試験と名称を変更し,合格者には「課題解決士」の資格を修習無しで与えるものとし,一方,法曹については,旧司法試験同様,法科大学院卒業を受験資格としない試験を設けて選抜するのがよいと思います(合格者数は1000人程度が妥当でしょう。)。

 この提言,弁護士会への強制加入制度をあたかも問題であるかのように(「諸外国と比べて高額の弁護士会費を毎月納入し続ける必要がある。」)述べるなどもしています。

 弁護士会費,確かに安くはありませんが,それがいやなら,弁護士をめざさないという途もあるわけで,「課題解決士」制度の設置は,そのための選択肢を提供するという意味でもよい政策かと思います。

 ただ,その資格にどの程度需要があるのか,資格名称自体不当表示ではないのか,という疑問は残りますが。

司法修習給費制維持一斉行動日ということですが2010年06月10日

スローガンだけ掲げておきます。

法科大学院への補助金を司法修習生への給与に!

司法修習,給与制維持(復活)のための方策は?2010年06月02日

先週末の日弁連総会で,司法修習生への給与制維持を求める決議が採択された。

この決議自体,司法修習の貸与制(無給研修制)よりも法曹志望者に経済的負担を課している法科大学院義務化について何ら問題にすることなく,法科大学院生への支援拡充などといってごまかしているところは欺まん的でとうてい賛成できないが,貸与制への移行自体は見直すべきように思う。

ただ,改正法は成立しており,当該改正法を前提とした予算は成立しているので,今からでは間に合わないのではないかという意見も見られる。

この点については,とりあえず今期は修習生全員に貸与させた上で,来年度以降給与制に戻すよう法改正に向けた運動を継続し,当該法改正において貸与した資金の免除を織り込むようにするということで解決するしかないのではないだろうか。

なぜ施行間近になった今になって,という意見もあるが,弁護士会でも(表面的には)政権交代が行われたわけで,宇都宮会長はいわば前政権の負の遺産を背負わされたという面もあるから,今になって給費制維持を言い出すこと自体はそう責められるものでも無いように思う。もっとも,たまたま政権交代が起こっただけで,今回のようにアリバイ的に運動することは前執行部の時から予定されていたのかもしれないが・・・。