従前の法曹って質が低かった?2010年06月01日

法務省のサイトで,法曹養成に関するワーキングチーム第4回会合の資料が公開されています。その中の井上正仁教授のレジュメ(PDF)を読んでみました。

まず,既存の法曹をよほど怒らせたいのかと思うようなことが書いてあります。

○従来の制度では,法律学の専門教育を受けたことを必ずしも前提にせず,司法試験に受かれば法曹資格を得ることができることになっており,合格者数が極めて限定されていたこと(昭和40年代以降長年にわたり500名前後),受験回数に制限がなかったことなども手伝って,合格率が極めて低いものとなり(昭和30年代半ばに3%台に低下,昭和50年前後から更に1%台にまで落ちた。その後,合格者数が段階的に1,000名まで引き上げられたものの,1999年でも合格率は3.35%),異常な受験競争状態を呈するようになってしまった。

受験生は,ともかく合格することのみを目的に,受験予備校に依存し,受験技術を身につけることに邁進することになり,各分野の基本書すら読むことなく,パターン化された答えを丸暗記するような勉強ばかりを積み重ねる結果,各法律分野の実質的な理解に裏打ちされない,論点羅列的で金太郎飴的な答案が著しく増え,法曹となってからも,マニュアル依存の傾向が見られるなど,法曹となる者の質の低下が憂慮される状況となった。

より深刻なのは,このような過酷な受験競争状態の結果として,優秀な学生が法曹を志願しなくなる傾向が見られたことであり,その意味でも,法曹の質的低下は看過できない状況にあった。

司法制度改革審議会での議論開始の時点で既に「看過できない状況」といえるほどの「法曹の質的低下」があったそうですよ。

うーん,丁度司法制度改革審議会での議論が始まる直前に合格した人間としては・・。私自身合格した時は33歳でしたから,パターン化された答えを丸暗記する勉強ばかりなど,つらくてとてもできるものではなかったですよ。井上先生は,若くして馬力をかけておぼえまくる人だけを合格者として想定しているのでしょうか?

ちなみに井上教授の本ペーパーは,上記のような状況(合格率が低いことで受験控えが起こることによる「質の低下」という状況)が存在したことが前提として,法科大学院制度の必要性を説いているので,この前提が崩れると法科大学院の必要性の論証も崩れることになります。

法科大学院制度推進派の現役法曹のみなさん,特に法科大学院修了者でない方々,このような前提を是認するんですか?

(他にもつっこみたいところはありますが,それは別稿で)

法曹を法科大学院の道連れにしないために2010年05月30日

大学入試センターでの法科大学院適性試験受験者の数が激減しているようですね。

平成22年度法科大学院適性試験の志願者数(確定)について(PDF)

来年から実施しなくなるような機関では受けてもしょうがないと考える人の存在を考えると,日弁連法務研究財団実施分の志願者数も併せて考える必要があるとは思います。

もっとも,法科大学院に魅力がなくなっていることは確かでしょうね。

今年の志願者減については,来年から司法試験予備試験が始まることへの期待(からの受け控え)もかなりあるように思います。そうであるからこそ法科大学院は予備試験合格者数の絞り込み(名目上は,予備試験合格水準の高水準での設定)に躍起になっているんでしょうが(悲しいことに,少なくとも今年3月までの日弁連執行部も同様でした・・),2~3年間の時間的・金銭的拘束を受けたその果てが就職難,生活難では,予備試験ルートを志望する人が増え,そちらをむしろ主流ルートとするのが本道というものでしょう。

法科大学院志望者減がそのまま法曹志望者減へと直結しないよう,最終的には法科大学院修了を司法試験受験資格としない途を進めるべきですが,当座は,司法試験予備試験を経て合格するルートをある程度(1000人くらい)確保し,よけいな負担無く法曹になれる途を確保してあげるようにすべきではないでしょうか。

給費制維持を唱えるのであれば,法科大学院に特殊な地位を与えることをとりやめ,その分補助金を削減することを唱える方が,財政負担減少を望む「市民の理解と支持」も得られやすいと思うのですが。

「司法試験予備試験の実施方針について(案)」に対する意見募集の結果について2009年07月15日

法務省から,上記の意見募集の結果が公表されています。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=3&CLASSNAME=Pcm1090&KID=300020005&OBJCD=&GROUP=

意見募集の結果について

(別紙)意見概要

(いずれもPDFファイルです。)

寄せられた意見は全部で80件とのことです。法曹志望者や既存法曹の関心がもっと高いのかと思いましたが,意外と少ないですね。

ちなみに私の出した意見は,意見概要を見ると,6イの中に分類されているようですね。同趣旨の意見が私以外に5件あったようです。

法科大学院、司法試験合格下位校は統廃合を…中教審提言2009年04月18日

紙面では1面トップニュースになっていましたね。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090417-OYT1T00968.htm

法科大学院のあり方を検討している中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の特別委員会は17日、法科大学院改革を巡る提言の最終報告をまとめた。

司法試験の合格率が低い大学院などに入学定員の自主的な削減や大学院同士の統廃合を検討するよう求めた。法曹の質と量を向上させるため、2004年に一斉開学した法科大学院にとって厳しい内容で、文科省は今後、最終報告書を各大学院に送付し、自主改革を迫る。

某巨大掲示板上のネタでは,国立大学法人に対しては一律2割削減を文科省が要求しているといったことが言われていました。

独立行政法人って,どこが独立なんだか・・・。

最終報告によると、定員削減の対象となるのは、〈1〉入学時の競争倍率が2倍に満たない〈2〉司法試験の合格率が低迷している――などの大学院。特に、小規模校や地方の大学院については、教員の確保が難しく、志願者が集まりにくいことから、統廃合を検討するべきだとした。法科大学院74校のうち、半数近い36校が定員50人以下で、今後、こうした小規模校を中心に再編が進む可能性がある。

日弁連は大都市の大規模校を中心とした定員削減を要求していましたが,それは一蹴されたように見えますね。

一方、最終報告は、三つの評価機関が法科大学院の教育内容をチェックしている第三者評価について、「『不適合』の認定は大学院教育の質に重大な欠陥がある場合に限定する」ことを求めた。今年3月までに22校が不適合の認定を受けたが、1クラスの人数が基準より数人多かっただけで不適合となるケースもあったためだ。また、評価機関によって評価基準にばらつきがあることも指摘し、「協議の場を設けて調整を図る必要がある」とした。

言っている内容は妥当なようにも見えますが,認証評価内容について文科省が口出しするということです。法曹養成制度に対して文科省に口出させることってどうなの?ということはもっと議論されていいのではないかと思うのですが・・・。

それに,「大学院教育の質に重大な欠陥」と言われることの内容が,司法試験受験対策をしっかりやることだったりするのではないかということを考えると,文科省との協議の場を設けたから改善されるとは到底思えません。

◆3校で合格者ゼロ◆

法科大学院は、当初の想定を大幅に上回る74校が乱立したことにより、新司法試験合格率の低下を招いた。昨年は前年比7・2ポイント減の32・98%。大学院別でも20%未満が33校に上り、愛知学院、信州、姫路独協の3校は合格者数がゼロだった。

入学希望者数の低迷も深刻で、昨年度まで2年連続で入学者が入学定員の8割未満にとどまった大学院は10校あった。姫路独協大は40人だった定員を今年度から30人に減らしたが、それでも今春の入学者は定員割れ。竹橋正明・法務研究科長は「さらなる定員減も検討するが、地方の法科大学院には存在意義があるので、ニーズの掘り起こしも図らないといけない」と話す。

ニーズの掘り起こしって,どこぞやの事業者団体の執行部が十年近く前から言い続けていまだ実現されていないことのようにも思えるのですが。

それに,ここで言われているニーズの掘り起こしって,法科大学院に通う時間と金をかけてまでも法曹(有資格者)になりたいという人のことになるのでしょうが,そのようなニーズが今までと比べて増えているのか,減っているのか。法曹のおかれた経済的状況を踏まえて冷静に分析することが必要ではないでしょうか。

一方、合格率の高い大学院でも定員削減の動きが出ており、東京大は来年度から300人を240人に減らし、京都大も200人を160人に削減する。東京大の井上正仁・法学政治学研究科長は「学生の質の向上をはかるため」と説明している。

100名規模(後記の日弁連意見)とは言えないまでも2割減らさせたことをもって日弁連執行部は成功だというのかも知れませんね。でも,この2割減(東大,京大ともに2割減と一致しているのは偶然でしょうか?)が文科省の指導によるものだとすれば,法曹養成過程の中核をなすはずのものである(あくまでも日弁連執行部によれば,ですが)法科大学院に対する官僚の統制であるとして厳しく指弾されるべきものなのではないでしょうか?

日弁連内部,というか第二東京弁護士会の一部の人たちが司法研修所に代わるものとして法科大学院制度の導入を提唱した理由には,司法研修所が最高裁判所当局の支配下にある,というものがありました。最高裁による支配がいけないのなら,同じ官公庁である文部科学省による支配についても指弾していくべきで,間違っても文科省(の息のかかった中央教育審議会)の削減案は評価できるなんていうべきではないでしょう。

しかし日弁連は,教育の質の向上名目とはいえ,「教育体制充実の見地から法科大学院の入学定員の見直し(適正化)に言及していることは,評価に値する。」(中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)」に対する意見)などと述べて定員削減の形での文科省の介入を容認しています(ほかには到達目標の策定など)。これでは法科大学院構想は法曹養成過程という新たな利権作りではないかと見られてもやむを得ないのではないでしょうか。

定員削減策について更に思うのは,法科大学院についていわば定員削減という形での供給調整が認められるのであれば,弁護士についても司法試験合格者数削減という形での供給調整が認められない理由はないのではないか,ということです。大学当局者や文科省におかれては,法科大学院の定員削減を唱えるのならば,司法試験合格者数削減についても併せて唱えていただきたいものです。

法科大学院入学後の能力向上は無視してもよいと?2009年04月11日

中教審って,まあ次から次へとむちゃくちゃなこといいますな・・・。

法科大学院「倍率2倍割ったら定員減を」 中教審提言へasahi.com

法科大学院のあり方を議論する中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の特別委員会が近くまとめる最終報告に、競争倍率が2倍を割っている大学院について、定員削減を求める趣旨の文言が盛り込まれる見通しとなった。

10日、特別委の会合が文部科学省内で開かれ、入学者の質を確保するための定員削減を議論するなかで方向がほぼ固まった。競争倍率が低く、入学時の試験の成績が悪くても学生を入学させている大学院があることをふまえた。

文科省によると、08年度入学生の試験では、倍率が2倍未満の大学院は全体の約3分の1という。

倍率が低いことと受験生の質が低いことがパラレルであるということなのでしょうか?そうなると,司法試験合格者の「質」を高くするためには,合格者に対する受験者数(法科大学院修了者+予備試験合格者)の割合を高めるべきということになるはずですが,中教審はそのようなことは主張しないんでしょうか(審議会の審議事項の範囲外と言って逃げるのでしょうが・・・)。

そもそも,大学の善し悪しって,どういう受験生を集めるかではなく,どういう卒業生を送り出すかで決まってくるのではないのでしょうか。中教審の意見は,今回の定員削減論にせよ,適性試験による足きり論にせよ,入学者の「質」の確保に重点が置かれていますが,このような考え方って,入学者の「質」=卒業者の「質」と見るもので,大学内でいくらよい教育が行われ,また入学者が努力してもそれは取るに足らないものなんだ,結局,法科大学院って単なる箱物でしかないんだ,とさえ言っているようにも見えます。

また,大学の志望動機って,就職に役立つかどうかというのもありましたが,特に私立大学の場合,校風や建学の精神などにも惹かれて入ってくる受験生もいるものです。仮に法曹の多様性確保ということを言うのであれば,少数だが特徴的なマニアックな受験生狙いの大学があってもいいはずで,一律に受験倍率で定員の多寡を判断するというのはいかがなものかという気もします。

どのような学生を募集し受け入れるかという大学教育の根幹に関わることについて「足きり」や「倍率」といった形で関与してくることは,大学の自治に対する介入と見てもよいのではないでしょうか。このような介入は本来,自由な教育・学問の場であるはずの大学を,法曹という専門職養成という公的意義付けをしてしまったために,招いてしまったものです。さっさと受験資格付与機関という軛を外すことが,法曹志望者のみならず,大学にとってもいいことなのではないでしょうか。

適性試験ってそんなに素晴らしいものなのか?2009年03月31日

大分前の記事ですが・・・。

法科大学院の適性試験、下位から15%「門前払い」案asahi.com

法科大学院の志願者に義務づけられている適性試験について、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の作業部会は、総受験者の下位から15%程度を目安に、大学院入学の「最低基準点」を設定するべきだとの案をまとめた。大学院入学者の質向上を目指すためで、単純計算で受験者の6.6人に1人が事実上「門前払い」される形になる。

作業部会は19日午後の中教審法科大学院特別委員会に報告した。特別委は近く、大学院改革の最終報告をまとめるが、作業部会のこうした提案も盛り込まれる見込み。

適性試験は、大学院での教育に必要な判断力や思考力が備わっているかをみるため、大学入試センターと日弁連法務研究財団がそれぞれ実施している。しかし、一部の大学院は、極めて低い点数でも合格させているという。

こうした点を考慮し、作業部会は「統一的な入学最低基準点を設定する必要がある」と指摘。下位から15%程度を目安に、各実施機関が受験者数や得点分布などを考慮し、毎年の最低ラインを設定すべきだとした。さらに、大学院が最低ラインを下回った受験者を合格させたりしていないか、認証評価の際に調査することが必要としている。

作業部会はほかにも大学院の「入り口」の改善策を検討。現時点で競争倍率が2倍を下回る大学院などは「早急に入学定員の見直しなど競争的環境を整えることが不可欠」と強い表現で指摘した。(大西史晃)

総受験者数の下位の一定割合を門前払いって,その年々によって受験者の水準は異なるでしょうに,不合理としかいいようがありません。

またそもそも,法曹になるための資質をはかるのに,そんなに適性試験って有用なものなのでしょうか?どんな資質を持った者を入学させるかも正に大学自らが自治によって決めることのような気もするのですが,大学にはそのような主張をする気概も失せているのでしょうか。

適性試験などという統一的な物差しで,しかも法曹になる3~4年前に志望者を切り捨ててしまうのは,多様な資質を持った法曹が現れるのを阻害するものではないでしょうか。

まあ,大学への入学からして「共通一次」(現センター試験)という統一的物差しで図ることにしてしまっている大学からすれば,違和感など感じないのかも知れませんが。統一試験を採用することと,その結果をどう使うかについて拘束がかかることとは別問題であることにもっと留意すべきように思います。

当面の法曹人口のあり方に対する日弁連提言案及び司法試験予備試験の運用について2009年03月17日

明日3月18日から日弁連の理事者会で法曹人口に関する提言案について審議がなされる予定となっている。

ホントはそちらの話が緊急性が大きいのだが,この問題については武本弁護士作成の意見書(PDF)に私も賛同したので,そちらへのリンクを貼っておくことで済ませることとする。

ちなみに私の属する第二東京弁護士会では,会としての常議員会の議決は取らなかった。ただ,常議員会では,日弁連提言案に反対の意見が多かったようだ。

代わりにというわけではないが,法務省(司法試験委員会)が出した「予備試験の実施方針について(案)」に対して私が出した意見を以下に掲載する。

第1 予備試験の実施に当たって一般的に配慮すべき事項について

損ねるべきでないとする「法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の理念」の内容があいまいであり,予備試験を通じて法曹となる途を不当に閉ざすこととなるおそれがある。

判定されるべき「法科大学院修了程度の能力」は,実際に法科大学院を卒業して新司法試験を受験している者が出てきていることから,現に新司法試験を受験している者のうち最低ランクの者に合わせるのが相当である。

司法試験法上,法科大学院修了者と予備試験合格者は新司法試験受験資格取得者としては全く同列に扱われているのであるから,現実の法科大学院修了者に比べ予備試験合格のために要求される基準が高くならないようにすべきである。

同時期に日弁連が出した意見書(PDF)のような立派なものはとてもできないので,コンパクトな意見とした。

ところで,ひとりごとさんの解説を見ると,日弁連意見では試験に対処するために勉強しなければならない範囲も広いものになるなど,予備試験受験者にかなり大きな負担を課すものになっているようだ。たかが資格試験の受験資格を得させるためだけに,そんなに広い範囲の勉強をしなければならないのはおかしいように思う。

日弁連意見書を見てみると,

予備試験自体の受験資格は何ら制限されていないことから,その実施・運用のあり方如何によっては法科大学院を経由しない安易なバイパスとなり,法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度の理念を損なうおそれがある。この点に十分配慮し,厳格な実施及び運用を行うべきである。

と記しているが,日弁連は明日以降審議予定の意見書案で法曹養成の基盤がまだ整っていないことを増員ペースダウンの理由に挙げているのだから,法曹養成制度改革についても同様に,法科大学院が新たな法曹養成の受け皿としての基盤となっていない以上,「法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度」への全面的移行についても見直すべきではないのだろうか。