ステイクホルダー2011年07月19日

以下,とりとめもなく。

弁護士激増が給費制維持や貸金業改正運動と異なるのは, 直接の利害関係人(ステイクホルダー)が弁護士しかいない (弁護士の行動形態の変化により市民は影響を受けますが, それはあくまでも間接的なものでしかない。) ということだと思います。

したがって,弁護士以外の市民に運動を盛り上げてもらう, (貸金業法改正の時はそのような運動があったようです。) というようなことは期待薄で, 弁護士が当事者として,自身の大変さを訴えるというところからスタートしなければならないのではないでしょうか。

正に弁護士として生きさせろ,ということです。

弁護士が自らの利益を訴えるために業界団体である弁護士会を使うのは自然かつ当然で,何とか弁護士会を動かして運動を進めていくしかないでしょう。

ただ,弁護士会のトップにこの点についての危機感が無いようなのが困りものですが。

これと状況は異なりますが,新法曹養成制度も,それにより直接の被害を被る法曹志望者の姿が見えにくい(法科大学院生も被害者とは言えますが,法科大学院原則義務化で法曹への道が大きくふさがれた人たちが一番の被害者でしょう)という点で,多重債務者や司法修習生と異なる面を持ちます。

弁護士がほんとに人権救済を言うなら,こうした見えにくい被害に光を当てて,法科大学院原則義務化撤廃を働きかけるのが筋であるように思うのですがね。

冷遇される法科大学院生、就職は狭き門2011年07月01日

韓国の話だが・・・。

http://www.chosunonline.com/news/20110628000055

http://www.chosunonline.com/news/20110628000056

日本から韓国を視察に行った司法改革推進派の弁護士の中には,韓国は日本と異なり法学部をなくしたからうまくいっている(暗に日本の法科大学院がうまくいっていないことを認めている)などと言う人がいたが,中に入った学生の立場からすると,かなり厳しい状況のようだ。

韓国では来年1月に,ロースクール第1期生に対する弁護士試験が行われるが,1期生として入学した学生2000人のうち,試験に合格できるのはおよそ1500人とか。日本の司法研修所みたいな制度は,旧制度ではあった(司法研修院)が,上記の記事を見た範囲では,ロースクールを出て司法試験に合格したら直ちに弁護士などになるということであろう。

このような養成課程と,75%の合格率(今回が第1回ということで,本当にそれだけの合格者を出すのか疑問だが)ということを考え合わせると,2000人の合格者のうち就職先が決まっているのが300人というのはかなり厳しい状況だ。

法科大学院の学費も,記事に出てくる学生の場合,1学期で約61万円と,日本の法科大学院と比べても遜色のない高さである。このまま大企業や法律事務所に就職できないと路頭に迷う,年俸が(これまでの司法研修院の修了生に比べて)半額でも4分の1でも就職できればいいというのは切なる願いなのであろう。

しかも韓国では法学部廃止の余波か,法科大学院学生の約半数を占める法学部出身者が冷遇されているという。それにしても「法学部出身者はひたすら法律ばかり勉強してきたため柔軟な思考ができない」って,どんな偏見だよ・・。

記事で就職先として取り上げられているのがソウルの法律事務所や大企業法務ということで,他にも就職先はあるだろうとは思うが,学生に人気なのはやはり大法律事務所や大企業ということらしい。仄聞する学歴競争事情や財閥の影響力などからすると,この辺は日本以上に大事務所,大企業指向が学生に強いのかなとも思う。

韓国については,先行した日本の司法改革を横目で見ながらその失敗点を回避するように動いたという評価がなされることもあるけど,やはり,具体的な需要を精査せずに行った供給増は悲惨な結果を生むという点は共通ということだろう。

法科大学院と司法試験~もう切断しかない2011年06月11日

(人権擁護・二弁の会ニュースに掲載された文章です。)

 新司法試験の受験資格を得るために修了が必要とされる法科大学院。その入学者数は2006年度の5784人をピークに減り続け,2011年度には過去最低の3620人まで落ち込んだ。適性試験の志願者も,重複して受験可能な2回の合計で延べ約1万3000人と,2004年の延べ5万9000人に比べると,4分の1にも満たない。またこの数は,2010年度旧司法試験の出願者数1万6088人をも大きく下回っている。法科大学院を経て法曹になる途が魅力ないものであることはもはや明らかだ。

 しかも法科大学院は,多様な人材の法曹界への受入れをうたって未修者中心の教育をする建前のはずなのに,今年度の入学者中過半の53%が既修者コース。試験の合格率が既修者と未修者で大きく開いていることから,各校が定員減の指導に従うに当たり未修者コース中心に減らした結果だ。二弁が提携している大宮法科大学院も,未修者コースのみで開校したが,やはり合格率低迷から,既修者コースを設置するに至っている。「理念」を理由に提携したのだから,それをないがしろにした法科大学院と提携,協力する意味はどこにあるのか。

 激増のもと,弁護士の経済的状況も楽ではない現在でも,なお司法試験予備試験に約9000人もの出願者が集まることから分かるように,余計な費用と時間の支出を強制されなければ法曹になりたいという人は多く存在する。法曹志望者を法科大学院という時間的・金銭的縛りから解くこと,司法試験受験資格を法科大学院から切り離すことが急務ではないだろうか。

「救済」の範囲と本音2011年06月07日

もう10日ほど前のことだが,5月27日の日弁連総会で,「東日本大震災及びこれに伴う原子力発電所事故による被災者の救済と被災地の復旧・復興支援に関する宣言」が可決された。

この宣言では,福島第一原子力発電所事故への対応として,

(4) 国、電力会社その他原子力関係機関は、二度とこのような原子力発電所事故を繰り返さないために、原子力発電所の新増設を停止し、既存の原子力発電所は段階的に廃止すること。特に、運転開始後30年を経過し、老朽化したものや、付近で巨大地震が発生することが予見されているものについては、速やかに運転を停止し、それ以外のものについても、地震及び津波への対策を直ちに点検し、安全性が確認できないものについては運転を停止すること。

を提言している。

「廃止」をうたうのはいいのだが,「段階的」って,いつまでかかるのであろうか。その間発電所での労働者は被曝を続けるわけで,こうした被曝をできるだけ抑えようとすれば,即時廃止を訴えるか,せめてはっきりとした期限を設けるべきではなかったのか。

総会では,上記宣言案に関して,仙台の弁護士から,被災した司法試験受験生に配慮して,司法試験の受験回数や受験期間の制限について救済することを考えないのかとの質問もなされた。質問をした弁護士によると,法務省が東北地方の受験生に個別に電話をかけ,勉強に差し支えが無いか聴いたという。

これに対し執行部からは,法務省に受験生への配慮を要請したところ,法務省は該当する約500人の受験生に個別に電話をかけて調査したが,影響があるとする受験生は少なかったので特別の配慮措置は講じないと回答したという。

この回答を受けて,日弁連の法曹養成検討会議でもどう対応するか検討したが,今回の震災のみを特別に扱う理由がないということで,更なる要請等はしないことになったとのことであった。

法務省の対応はめちゃくちゃである(いかにも役人らしいといえば役人らしいが)。上記の質問をした方も言われていたが,試験運営を司る当局から勉強に差し障りは無いかと聴かれれば,差し障りがあると答えた場合に否定的評価を受けるおそれがあると考え,差し障りは無いと答えてしまうのではないだろうか。

法務省のやり方はめちゃくちゃであるが,日弁連の法曹養成検討会議の検討結果にもあきれるほかない。確かにこれまでも地震はいくつもあったかも知れないが,受験回数や受験期間に制限が設けられてからこれだけ大きな震災があったであろうか。

(まあ,中越地震の時にこのような点に配慮が及ばなかったのは,もともと受験回数制限自体否定されるべきと主張し続けてはいたものの,私自身反省すべきところではあるが。)

今回の決議,被災者の救済をタイトルにうたっているが,原発労働者や司法試験受験生といった,表には出しにくい(前者は原発事故の収束の緊急性に隠れてしまい,後者は法曹にとってはいわば将来の身内である)人たちを放置して,何が被災者救済だ,エエカッコしいだけではないのかと思わざるを得ないという思いが強く残るものである。

裁判員法施行2周年に際しての日弁連会長談話について2011年05月23日

日弁連が裁判員法施行2周年を受けて会長談話を出していますね。

裁判員法施行二周年を迎えて(会長談話)

最高裁が公表したアンケート結果によると、制度施行二年目も、95パーセントを超える裁判員経験者が、裁判に参加したことについて「よい経験と感じた」と回答しました。また、「審理内容は理解しやすかった」と回答した経験者も60パーセントを超えました。制度施行二年目も、制度の運用が順調に推移しているといえます。

数値を出すのであれば以下の点を指摘しないと公平さに欠けるでしょう。

裁判員 「義務でも嫌」4割(東京新聞)

「裁判員として刑事裁判に参加したいか」との問いに対し、「義務であっても参加したくない」と答えた割合は41・4%。昨年の調査より5・1ポイント増え、制度開始前の二〇〇八年に約一万人に行った同種調査も上回った。「あまり参加したくないが、義務であれば参加せざるを得ない」を合わせると、後ろ向きな回答は84%(昨年80・2%)に拡大した。

裁判員として刑事裁判に参加したいかという問に対して,「義務であっても参加したくない」と答えた割合は増え,参加に後ろ向きな回答は84%にまで達しています。この割合は裁判員制度が施行されてから減ったのではなく,増えているのです。これは

制度施行二年目も、制度の運用が順調に推移しているといえます。

などとは,到底呼べるものではないでしょう。

しかも,「審理内容が理解しやすかった」と回答している人の割合が60%を超えたと日弁連は評価していますが,これも,昨年の70.9%から減っているのです。

8割の人がイヤだと言っている制度,しかも審理内容が理解しやすかったという人が減っている現状。これを「運用が順調」などと呼ぶとは,日弁連もメチャクチャですね。

弁護士激増問題には市民の目が大切などと言っていることとのバランスが全く取れていないようにも思います。

法曹の養成に関するフォーラム事務局からのアンケートが来たが2011年05月16日

法曹の養成に関するフォーラム(PDF)事務局から,司法修習終了後の経済的な状況に関する調査についての調査票が送られてきました。

日弁連の宇都宮会長名の協力依頼書も添えられています。

調査票は,(1)収入・所得調査票と,(2)奨学金等調査票の2種類があるようで,(1)の収入・所得調査票は司法修習終了後15年以内(48~新62期)の弁護士,(2)の奨学金等調査票は,新司法修習を終了した判事補・検事・弁護士と,新司法試験に合格した司法修習生に送られているようです。

修習終了後の未登録者が増えている現状からすれば,当該未登録者に対してもアンケートを取るべきように思うのですが,そこまでは難しいということなのでしょうか。

(1)のアンケートでは,修習期,性別,年齢,扶養家族,所属先の種別・規模並びに所属先の所在地と,最近5年分(5年内に弁護士になった人は弁護士になって以後の収入・所得)が問われています。

この数年の収入・所得の推移を振り返るのもぞっとしますが,給与制維持のために役立つのであればアンケートに協力しようとは思います。しかし,司法修習についての給与制の可否は,修習を受けさせるという形で強制的に時間的拘束を加えることを,何らの見返り無くして行うことがいいのかどうかという問題であり,修習生が修習時ないしその後におかれる経済的状況によって決せられるべき問題ではないと思うので(その意味では,「給費制」ではなく「給与制」継続の問題と言うべき),修習生や修習修了者の経済的状況を調べる必要性自体,疑問なんですよね。

(2)のアンケートについては詳しい内容はわかりませんが,新司法試験合格者(現在のところは全員,法科大学院修了者)についてわざわざ聞く以上,このような奨学金の負担を生む法科大学院制度の可否にまで踏み込んで議論してほしいものです(フォーラムの趣旨に「司法制度改革の理念を踏まえるとともに」となっているので期待薄ですが。)。

韓国の司法研修院生ら入所式ボイコットの動き~背景に法科大学院生青田刈り2011年03月02日

法務部の方針に反発、司法研修院生ら所式ボイコット!?~法務部、ロースクールの学生を優先的に検察官に採用する方針Chosun Online | 朝鮮日報

ロースクール(法科大学院)の学生を優先的に検察官に採用するという法務部(省に相当)の方針に対し、司法研修院生らが反発し、2日に行われる同院の入所式への出席をボイコットするよう呼び掛けた。同院生約20人が先月末、入所式への不参加を呼び掛けるショートメッセージやメールを約800人の同院生に送っていたことが、1日までに分かった。また、同院生らは先月21日から、集団で法務部に抗議の電話をかけ、同部の業務をまひさせたという。

入所式ボイコットとはやりますな。韓国。まあ,非正規労働者の多さや受験戦争の苛酷さを見ると,抑圧も多そうだけど。

法務部が先月14日に打ち出した案は、ロースクールの3年生を院長の推薦により検察官として採用するというもので、優秀な人材をあらかじめ確保することを目的としている。

韓国のロースクール制度,日本より新しいはずなのに,すごい特権与えられているな。他国のことながら大丈夫なのか。

同部は、どの程度の学生を検察官に採用するかについてはまだ明らかにしていないが、全国に25カ所あるロースクールから二人ずつ採用したとすれば50人になる。昨年採用された検察官が139人だったことを考えると、かなりの人数になる。

検察官の採用人数,日本より多いじゃないか。

法務部がこのような案を打ち出したのは、人材の確保をめぐる裁判所との競争で遅れを取らないためだ。裁判所は来年から、ロースクールの卒業生と司法研修院の修了者を対象に「ロー・クリーク」制度を導入することを検討している。これは、裁判官を補佐しながら裁判業務に関する調査などを担当させるという、英国や米国にならった制度だ。

裁判所と検察が、人材確保をめぐり、このような青田買い競争を繰り広げていることに対し、ソウル地方弁護士会は先月23日に声明文を発表し、「裁判所と検察が打ち出した案は、裁判官や検察官として採用できる対象者を、弁護士の資格を有する者に限定した法律に違反する」と批判した。

ロースクール制度を梃子に,司法研修院での法曹志望者の合同修習が有名無実化して,分離修習になるという結果を招いているということか。

ロースクール制度を,官僚支配下の司法研修所からの脱出と,法曹一元に向けた道筋と位置づけたであろう人たちはどう考えるのだろうか?

(3/3追記)

本当にボイコットしたみたいですね。すごいことです。

司法研修院生、半数以上が入所式ボイコット

974人中520人が欠席ということですから,過半数が欠席したことになりますね。すごい団結力だと思います。