「課題解決士」のススメ?2010年06月20日

前の記事で取り上げた毎日新聞のコーナー記事で,高木元連合会長が以下のように述べていました。

先程言ったように、多様な課題解決に関与できるプロフェッショナルを育てるために、法科大学院や司法修習も、訴訟実務中心の教育を見直し、専門性を追求できるシステムにすべきだ。

 どこかで見た文言だと思ったら,「法曹養成制度改革に関する提言」にあったものでした。よく見ると,高木元会長も提言者に名前を連ねているではないですか。

 この提言では,日本が今後「途上型国家」から「課題解決型国家」へと脱皮するために法曹の役割が重要であり,法曹像についてもこれまでの「国内訴訟担当者」から「課題解決者」へと転換する必要があると述べています。

 「途上型国家」というのは,提言で引用している新成長戦略での記載から推し量ると,「坂の上の雲」(ここにも司馬遼太郎!)を夢見て経済成長を図ることを目的とする国家をいうもののようです。

 経済成長による国民生活の向上も1つの課題ではないかという点は措くとしても,課題解決って法曹以外の人では図れないものなんですかね?従前の公務員にも,公務員試験という,法律の知識も問われる試験をくぐってきている人が数多くいるわけで,そうした人が「法科大学院」を出た「法曹」に取って代わられなければならない理由が分かりません。

 提言では,法曹像の転換に伴い,法曹教育についても,「国内訴訟実務家養成」から「課題解決者養成」へと転換する必要があるとしています。その上で,研修所教育について,

修習内容としては,国内裁判実務の修習が中心である。

国内裁判科目の修習と修了試験に合格しなければ,法科大学院を修了し新司法試験に合格しても,法曹資格を取得することができない仕組みになっている。

国内裁判実務に就くことを予定していない新司法試験合格者が法曹資格を取得するためには,国内裁判実務修習を(2010年採用者からは)1年間無給で受けるか,あるいは弁護士法5条2号の定める法律関連実務に7年間就業しなければならない。

との認識に立ち,

司法修習制度について,現在の制度及び運用状況が「国内訴訟担当者」養成を想定したものであることは疑いない。そこで,「課題解決者」養成の観点に立った場合,法曹資格を取得するために必須の制度として現在の内容のまま維持する必要があるのかを含め,抜本的な検討を行うべきである。

としています。(点はコンマに直しています。)

 要するに,国内裁判実務に就くことを予定していない新司法試験合格者について,国内裁判実務のトレーニングを経ずとも法曹になれるように修習内容を変更せよ,そうしなければ修習なんて廃止だ,ということのようです。

 しかし,法的紛争は最終的に裁判によって解決されるのが原則である以上,課題の解決に当たっても,裁判に持ち込まれたときどのような手続でどのような判断がなされるのかまで考えて処理しなければならないはずのものです。事件の相談者・依頼者も,そこまで考えてもらうことを前提に弁護士に相談・依頼してくるのではないでしょうか。

 国内裁判実務の教育を積まない者について弁護士としての資格を与えることは,相談者・依頼者にとっても有害無益でしょう。

 もし,国内裁判実務についての教育や試験を経ない状態で課題解決に当たる存在を認めるとすれば,その人たちについては,法曹ではなく,「課題解決士」という新資格をつくり,そちらを付与することにしてはどうでしょうか。国内裁判実務のトレーニングを積んでいない以上,訴訟代理権は有しないことになります(この点では,現行の認定司法書士より権限が制限されることになります。)。

 その上で,新司法試験については課題解決士試験と名称を変更し,合格者には「課題解決士」の資格を修習無しで与えるものとし,一方,法曹については,旧司法試験同様,法科大学院卒業を受験資格としない試験を設けて選抜するのがよいと思います(合格者数は1000人程度が妥当でしょう。)。

 この提言,弁護士会への強制加入制度をあたかも問題であるかのように(「諸外国と比べて高額の弁護士会費を毎月納入し続ける必要がある。」)述べるなどもしています。

 弁護士会費,確かに安くはありませんが,それがいやなら,弁護士をめざさないという途もあるわけで,「課題解決士」制度の設置は,そのための選択肢を提供するという意味でもよい政策かと思います。

 ただ,その資格にどの程度需要があるのか,資格名称自体不当表示ではないのか,という疑問は残りますが。

ザ・コーヴ騒動について思うこと(ネタバレあり)2010年06月22日

昨日弁護士会館に出向いたところ,ザ・コーヴという映画に関するシンポジウムが開催されていた。

今日事務所に出たら,シンポジウムでか,関係者宛にということでか配られたとおぼしき同映画のパンフが。

パンフを見たが,この映画で表現されている点で注目すべき点があるとすれば,他の食物であれば規制値を超えることとなる量の水銀がイルカの肉に含まれている,それが学校給食にも使われていた,ということだろう。

これが,キケンなイルカを食べさせるな,と言うのならば,その趣旨にもうなずけなくはない。ただ,それはイルカ漁の是非とは別の話のはずである。また,イルカを鯨と表示しているというシーンもあったが,それ自体は食品表示の問題で,イルカ漁の是非とは別である。しかしこの映画では,水銀の話,食品表示の話に,さらに,イルカの屠殺のシーンが組み合わされていることで,イルカ漁への否定的評価が観客にすり込まれるようになっていると感じた。表現の自由は重要だから上映中止などはおかしいと思うが,公正な表現ではなさそうだなと感じるものだ。

ちなみにイルカが水銀に汚染されているのが問題だというアピールがなされていると知って私が思ったのは

水銀に汚染されていないイルカの肉が食べたい

ということだった。

食物連鎖の最上層に属するイルカだから自然に水銀が蓄積されてしまうのか,規制値を超える値まで蓄積されるのは海洋汚染が激しく進んだことによるのか。そういったところにも目を向けて,どうやったら汚染されていないイルカ肉が入手できるのか,といったところにも触れてくれれば評価できる映画になったかもしれないのにと思う。

裁判員裁判~無罪判決の成立過程は?2010年06月23日

裁判員裁判で,初の無罪判決が出ましたね。

これを伝える読売(紙面)の昨日夕刊の記事だったか解説で,裁判官全員が無罪と言うと,全体では有罪であっても無罪とせざるを得ないということを問題であるかのように取り上げていました。

上記解説を読むと,今回の無罪判決が,職業裁判官全員が無罪と主張したゆえに無罪になったかのような印象を受けます。

仮にそうだとするならば,市民の常識の反映で無罪判決が得られたとは言えないのではないでしょうか。こうした点を検証するためにも,判決の根拠となる評決結果についても公開されるべきなのではないでしょうか(私は制度自体反対ですが)。

それにしても,判決後の記者会見での裁判員のコメント(毎日記事 )を見ると,

男性裁判員の一人は「検察に『もっと頑張れ』という気持ち。サッカーで言えば(弁護側の)守りがよかったのではなく(検察側の)攻めが弱かった」と努力不足を指摘した。

などと,捜査機関を応援する気持ちを持つ人が目立つようにも思います。しかもこの記事を書いた記者自体

今月9日には、強盗致傷、詐欺罪などに問われた被告の裁判員裁判で、東京地裁立川支部が一部無罪を言い渡している。共謀したとされる少年らの証言の信用性を否定し、裁判員からは「証拠がない」「警察、検察の捜査が甘かった」との指摘が相次いだ。

裁判員制度開始から1年が経過し、今後は被告が本格的に無罪主張する事件の審理も相次ぐ見込み。裁判員裁判は、捜査当局に改めて緻密(ちみつ)で説得力のある証拠収集と立証を求めている。

って,被告人を有罪にするよう頑張れと発破を掛けているように見えるのですが,ちょっと方向が違うのではないでしょうか。

少年・刑事特別会費の増額と法律援助特別会費の創設って・・2010年06月25日

 日弁連から日弁連速報なるファクシミリが送られてきた。

 少年・刑事特別会費が月1100円増額となり,法律援助基金の財源に充てるための特別会費が月額1300円徴収されるようにすることについて,弁護士会に意見照会を実施したというものだ。実現すれば合計月額2400円の負担増だ。

 負担増の理由は,日弁連が日本司法支援センターに委託している法律援助9事業について,事業活動に充てられる贖罪寄付等の寄付金が減少する一方で,具体的な援助対象事件はいずれの事業においても想定以上に増加していることによる財源難を補うためだという。

 援助対象事件の想定以上の増加とは,みんないわゆる公益的事業に参加しているのだなあと思う反面,決して高いとは言えない援助事業による弁護士報酬でも良しとする弁護士が増えているのかなあ,不景気で弁護士費用を払えない人が増えているのだなあ,社会問題がより深刻化しているのかなあなどとも思う。

 一方,財源である寄付金の減少については,不景気による贖罪寄付者の資力低下もあろうが,弁護士激増による弁護士の経済状況の悪化や,法務省管下の日本司法支援センターに対する反発がかなりあるんじゃないだろうか。

 収入を増やそうと思うんだったら,法テラスからの委託の引上げと,激増政策撤廃による弁護士界の景況改善が,根本からの解決なんじゃないかと思う(でも今からようやく法曹人口政策会議を設置して政策立案を検討するなどと言っているようじゃ期待できないが・・・)。

 それにしても,月2400円の負担増って,弁護士の懐は打ち出の小槌とでも勘違いしているのではないだろうか。こんな負担増を続けていたら,弁護士会が会員から見放されて任意団体化してしまうことも避けられないのではないだろうか。

 この会費負担増には断固反対である。