司法修習二回試験の追試廃止は筋違いではないか2006年10月12日

なんか筋違いではないでしょうか?

司法修習“追試救済”やめます…質低下防止、来年からYOMIURI ONLINE

司法試験に合格した修習生が、法曹資格を得るために受ける司法修習の卒業試験について、最高裁の「司法修習生考試委員会」(委員長・町田顕長官)は11日、試験の落第者を対象に行ってきた「追試」を来年から廃止することを決めた。

司法制度改革の一環で司法試験合格者数が増加する中、今秋の落第者が107人と過去最高となるなど、修習生の質の低下が懸念されており、法曹の質の確保を厳格にすることにした。

司法修習は、司法試験合格者が裁判官や検事、弁護士になるための専門知識や実務を1年半かけて学ぶ。修習の卒業試験に合格しないと、法曹資格は得られないが、従来、落第者のほとんどは「合格留保」となり、約3か月後の追試で不合格科目だけを受験し直し、追加合格の形で“救済”されてきた。

ところが、落第者数は、司法修習の期間短縮や、司法試験の合格者数の増加に伴って年々増え続け、2000年秋の試験では789人中19人(2・4%)が落第し、初めて2ケタとなった。

司法試験合格者が1000人を超えた04年秋は1183人中46人(3・9%)、今年9月の試験では1493人中107人(7・2%)と、落第者数も割合も過去最高になるなど、修習生の質の低下に対する危機感が強まっていた。

司法試験の合格者は、10年度には現在の2倍にあたる年間3000人に増加する。同委員会は、「最低限の水準に達していない修習生に対する追試制度を維持することは相当でない」と判断、追試の廃止に踏み切ることにした。

来年から落第者は全員、司法修習生としての資格を失うことになる。1年間“浪人”して翌年の試験で全科目を受け直し、合格すれば法曹資格を取る道も残されている。同委員会では、この再試験の回数制限についても今後、検討していく。

(2006年10月12日3時12分 読売新聞)

追試といえども試験なのだから,一定レベルに達していないと合格とはされないはずでしょう。一定レベルに達するのが2~3か月遅れただけで,追試で卒業した人が本試験で卒業した人に比べて劣ったレベルにあると言い切れないと思います。

まあ,仮に,「追試の合格基準が実は今までは緩かったが,これからは厳格にする」というのであればまだ筋の通る話ではありますが,それでも追試自体を廃止する理由にはならんでしょう。

旧60期の修習からは,司法修習が1年4か月に短縮されています。実務修習は1年で変わらずに,前期と後期の修習が短縮されたようです。しかし,実務修習で学ぶことについては各地域でばらつきがあり,二回試験で試される起案能力については,前期と後期での座学を通じて身につけたことが大きかったというのが私の修習生活を通じての実感です(この点は人によって違うのかもしれませんが・・)。 「修習生の質の低下」がもし起きているとすれば,以前,「留保者数の増加の原因は何か?」でも書いたように,修習期間短縮が最大の要因でしょう。

来年二回試験を受けることとなる旧60期の修習生については,危機意識の特段の高まりといった事情の無い限り,遙かに多くの不合格者が出ることも予想されます(もっとも,今回もっとも多くの不合格者を出した刑事弁護については,実務修習で鍛えるべき能力の問題ではないかと思われる点もあるので,(59期修習生2回試験 合格留保97名 不合格10名(ろーやーずくらぶ)),不合格者増はそれほどではないかもしれませんが)。質の低下を理由に追試を廃止するという論理が前述のようにおかしなものであることからすれば,来年から追試を廃止するのは,大量の不合格者に対して追試を行うのが大変だからにすぎないのではないでしょうか。最高裁は教育機関としての責任を放棄して自らの負担軽減に走ったとしか考えられません。

以前述べたように,合格者が増えれば,修習生の「質」にバラつきがでるのは自然なことであり,それを期間の短縮された修習で補おうとするのは無理なことです。このような無理の生じた原因について率直に発言することこそが司法研修所の運営にたずさわる者に求められていることでしょう。また,期間が短縮された前期・後期修習については,所長講話・事務局長講話などの時間を削減すべきでしょう。それをすることなく,自分たちの時代にはあった追試という救済措置を後生から奪って自分たちの負担軽減を図るというのは,教育・研修機関としての責任を放棄した身勝手な行動でしかありません。追試は存続すべきです。

(注) 来年二回試験を受ける修習生には新司法試験合格者(新60期)もいますが,彼(女)らは制度上法科大学院で2年間にわたり起案能力などの法的素養を習得してきていることになっているので,旧60期に比べると(また,旧59期に比べても)二回試験不合格の割合は下がる筈であり,したがって,上の議論からは捨象しています。

コメント

_ h ― 2006年10月16日 12時35分28秒

修習生の質について,いろいろ言う人は多いようですが,修習の質については,なぜか検証をという話すらでませんね。

_ 手遅れ? ― 2007年10月31日 02時27分03秒

粗製乱造に歯止めは必要でしょう。

_ ノムラ ― 2007年11月02日 17時34分13秒

>手遅れ?さん

粗製濫造への歯止めは必要かも知れませんが,それは二回試験の合格水準を従前同様にしておくことだけで満たされるのであり,二回試験の追試を廃止することは筋違いのように思います。

>hさん
(1年以上経過した回答で恐縮ですが・・)
修習期間の短縮による修習全期間を通じて見た修習の質について問われないのは本当に不思議です。法曹三者が関わっているだけに問題にしにくいということなのでしょうか?

_ 二回試験合格しました(新60) ― 2007年12月18日 23時33分43秒

質の低下を、修習生のせいだけにされても困りますよね。
自分たちの教育も見直して欲しい。まして、勝手に修習期間を短縮しておいて質の低下とは、何をかいわんやという感じです。

あと、質の低下と追試廃止は、具体的にどうつながるんでしょうね。この点の説明が全くなされておらず不合理な印象を受けます。
追試を廃止すれば質が向上するということなんでしょうか。よくわかりません。質が下がってきた原因をどう考えているのでしょうか。その原因に手当てしないと、質の向上など望むべくもないと思うのですが。

それにしても、民裁、後期起案も本試験も、「紛争類型別…」にはないところから出まくりです。これをやっとけばいい、という神話は完全崩壊ですね。

_ ノムラ ― 2007年12月19日 01時14分02秒

>新60さん
合格おめでとうございます。

「質の低下」という言い方自体ミスリーディングで,
質のバラつきの増大というべきでしょう。

いずれにせよ,修習生が問題であるような言い方になりますが,
修習生の問題というよりもむしろ,制度の問題でしょうね。

仮に質のバラつきの拡大が起きているのだとすれば,
それは合格者数増加と修習期間短縮が原因だと思います。

また,仮に「質の低下」が起こっているのだとすれば,
法科大学院卒業を受験資格として,法曹の輩出母体を狭めたことも
原因でしょう。

対応策としては,法科大学院通学義務づけの廃止,合格者数の抑制(1000人程度),修習期間の延長を行う(つまり「司法改革」以前に戻す。)のが妥当でしょうね。

いずれにせよ,修習生を非難することは,制度設計の失敗を何ら罪のない者に責任転嫁するもので,問題解決には何ら資さないでしょう。

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_ ろーやーずくらぶ - 2006年10月13日 19時18分10秒

 司法修習生考試委員会は、司法修習終了時の試験(いわゆる2回試験)で合格水準に達しなかった修習生について、「合格留保」として、科目ごとに追試を実施していた措置を取りやめると発表しました。この場合、来年の2回試験に再受験することになるそうです。読売新聞
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