新人弁護士は法テラスへの人身御供か2006年10月10日

契約自由の原則はどこにいってしまったのでしょうか。

(「人権擁護・二弁の会ニュース」2006年10月10日号から)

司法支援センターの始動目前と言うことで,臨時に開かれた常議員会。出席者も少なく支援センター関係の準備案件が粛々と用意されていく。誰かが本気で,人々のためになるすばらしい制度と思って作っているのだろうか?制度を積極的に肯定する意見はほぼ皆無。賛成する立場の理事者の答弁も「できても大丈夫」という防御的なものばかり。

それにしても,新入会員は原則として,個別研修の必修項目の国選弁護をやるためにセンターと契約しなければならないとは,何ともいいようのない陰湿な強制だ。(後略)

前にも危惧したとおり,新人研修の一環として,司法支援センターとの契約が新人弁護士に事実上強制されようとしているようです。

背景には,日本司法支援センター(法テラス)と契約する弁護士の割合が弁護士会執行部の思うようにあがらなかったことがあるのかもしれません。事情をよく知らないであろう新人弁護士に研修だからといって契約させようという意図があるのでしょう。

しかし既存の弁護士の契約が進まないからといって新人弁護士に契約させることにより契約率をあげようというのは筋違いでしょう。

法テラスと契約する弁護士が思うように増えなかったのは,法務省の管轄する法テラスのもとでは自由で充実した刑事弁護ができないおそれが大きいからであり,合理的な理由があるものです。

また,新人弁護士にも当然契約の自由はあります。

弁護士会が強制加入団体であることをよいことに,また,新人弁護士には自らの受ける研修内容を決定する権限は無いことをよいことに,新人弁護士に法テラスと契約させようというのは,新人弁護士の契約の自由,さらには思想信条の自由をあまりにもないがしろにしたもので,許されざるものです。

新人弁護士は弁護士会執行部のおもちゃではないし,法テラスへの人身御供とされるべきものではありません。

常議員会で提案された案では,新人弁護士は研修として「国選またはそれに準ずるものと研修センターが認めるもの」をやらなければならないとされていたようです。

新人弁護士が日本司法支援センターと契約するかしないかの自由がきちんと保障されるよう,研修センターには,「国選・・に準ずるもの」の範囲を広く認めてもらいたいものです。

弁護士会の日本司法支援センター(法テラス)への奉仕活動について2006年10月11日

この10月から日本司法支援センターが開業しているが,ここには弁護士が「オペレーターアドバイザー」として派遣されている。

このアドバイザー,今年6月末ころに弁護士会から募集のファクシミリが届いていたが,それによれば,派遣費用は,1コマ2時間30分で,1回当たりの日当が1万2600円であるという。

超初級革命講座さんによれば,時給1900円以上だすつもりはないとのことだから,少なくとも

12600-1900×2.5=7850円

が1コマ当たり弁護士会から補てんされる金員ということになるのだろうか。

各コマ3名,1日9人体制で,月曜日から土曜日まで週6回行われるということなので,1年間52週とすると,

 7850円×9×6×52=2204万2800円

が弁護士会から補てんされる計算となる。

法テラスで働く弁護士に対する弁護士の支援はまだある。

弁護士会会費については,法テラスが支給するのが原則だが,その額には上限があるという。その上限を超える部分の負担について,各弁護士会に,会費の減免などの形で配慮してほしい旨日弁連が要請したということが,先日の日弁連速報に載っていた。

会費とは異なるが,私の所属する弁護士会でも,今年3月の常議員会において,日本司法支援センターに常時勤務する弁護士に対しては,入会金や会館特別会費(弁護士会館建設・維持のための費用)の支払を猶予するという会規の改定がなされた。転勤ごとに弁護士会を替わることとなるので,その度に入会金か会館特別会費を支払っていては大変だというのがその理由であった。

だが,弁護士法人に勤務する弁護士が地方の支所に勤務を命じられた場合にも同様の状況は生じるのに,日本司法支援センター勤務の場合を特別扱いする理由が不分明だし,転勤を命じることによってスタッフ弁護士に負担が生じるのであれば,それは雇い主である日本司法支援センターが負担するのが筋ではないか。

何年で転勤になることが想定されているのかと常議員会で質問したところ,はっきりしない答え。5年間くらいいるのであれば,入会金を負担させてもおかしくない。弁護士が弁護士会に所属して活動していくに当たっては入会金の支払が不可欠であると日本司法支援センターに主張し,給与に入会金分の上乗せを働きかけるようにすべきだろう。

日本司法支援センターのために働く弁護士の支援だけでなく,日本司法支援センターという組織自体への便宜供与もすさまじい。

東京の霞ヶ関にある弁護士会館の3階は,9月まで,その3分の1が法律扶助協会,残り3分の2が東京三弁護士会の法律相談センターとなっていた。ところが,10月以降,東京三弁護士会の法律相談センターが大幅に縮小され,日本司法支援センターが入り込むこととなった。法律相談も行われているようだ。

一方,弁護士会がそれまで行っていた法律相談は,そのほとんどが,四谷の日本司法支援センター東京地方事務所(法テラス東京)の入っているビルに間借りして行われることとなった(法テラス東京は1~3階。弁護士会法律相談センターは2階。)。そのために弁護士会が支払う賃料もかなり膨大なものだった(額は失念した。)。霞ヶ関の一等地に自社ビルを持ちながらそこを明け渡して賃料を支払うというのはどうなんだろう?霞ヶ関の3階を使わせていることへの対価はどの程度取っているのだろうか?

それにしても,弁護士会はどこまで日本司法支援センターに奉仕しなければならないのだろう。日本司法支援センターが弁護士,弁護士会に対しきちんとした対価を支払おうとしないのであれば,そのことを明らかにした上で場合によっては協力拒否という措置を取っていくべきであり,「よりよい法テラス」のために協力をなどといつまでも言っていてはむしり取られる一方のように思う。

司法修習二回試験の追試廃止は筋違いではないか2006年10月12日

なんか筋違いではないでしょうか?

司法修習“追試救済”やめます…質低下防止、来年からYOMIURI ONLINE

司法試験に合格した修習生が、法曹資格を得るために受ける司法修習の卒業試験について、最高裁の「司法修習生考試委員会」(委員長・町田顕長官)は11日、試験の落第者を対象に行ってきた「追試」を来年から廃止することを決めた。

司法制度改革の一環で司法試験合格者数が増加する中、今秋の落第者が107人と過去最高となるなど、修習生の質の低下が懸念されており、法曹の質の確保を厳格にすることにした。

司法修習は、司法試験合格者が裁判官や検事、弁護士になるための専門知識や実務を1年半かけて学ぶ。修習の卒業試験に合格しないと、法曹資格は得られないが、従来、落第者のほとんどは「合格留保」となり、約3か月後の追試で不合格科目だけを受験し直し、追加合格の形で“救済”されてきた。

ところが、落第者数は、司法修習の期間短縮や、司法試験の合格者数の増加に伴って年々増え続け、2000年秋の試験では789人中19人(2・4%)が落第し、初めて2ケタとなった。

司法試験合格者が1000人を超えた04年秋は1183人中46人(3・9%)、今年9月の試験では1493人中107人(7・2%)と、落第者数も割合も過去最高になるなど、修習生の質の低下に対する危機感が強まっていた。

司法試験の合格者は、10年度には現在の2倍にあたる年間3000人に増加する。同委員会は、「最低限の水準に達していない修習生に対する追試制度を維持することは相当でない」と判断、追試の廃止に踏み切ることにした。

来年から落第者は全員、司法修習生としての資格を失うことになる。1年間“浪人”して翌年の試験で全科目を受け直し、合格すれば法曹資格を取る道も残されている。同委員会では、この再試験の回数制限についても今後、検討していく。

(2006年10月12日3時12分 読売新聞)

追試といえども試験なのだから,一定レベルに達していないと合格とはされないはずでしょう。一定レベルに達するのが2~3か月遅れただけで,追試で卒業した人が本試験で卒業した人に比べて劣ったレベルにあると言い切れないと思います。

まあ,仮に,「追試の合格基準が実は今までは緩かったが,これからは厳格にする」というのであればまだ筋の通る話ではありますが,それでも追試自体を廃止する理由にはならんでしょう。

旧60期の修習からは,司法修習が1年4か月に短縮されています。実務修習は1年で変わらずに,前期と後期の修習が短縮されたようです。しかし,実務修習で学ぶことについては各地域でばらつきがあり,二回試験で試される起案能力については,前期と後期での座学を通じて身につけたことが大きかったというのが私の修習生活を通じての実感です(この点は人によって違うのかもしれませんが・・)。 「修習生の質の低下」がもし起きているとすれば,以前,「留保者数の増加の原因は何か?」でも書いたように,修習期間短縮が最大の要因でしょう。

来年二回試験を受けることとなる旧60期の修習生については,危機意識の特段の高まりといった事情の無い限り,遙かに多くの不合格者が出ることも予想されます(もっとも,今回もっとも多くの不合格者を出した刑事弁護については,実務修習で鍛えるべき能力の問題ではないかと思われる点もあるので,(59期修習生2回試験 合格留保97名 不合格10名(ろーやーずくらぶ)),不合格者増はそれほどではないかもしれませんが)。質の低下を理由に追試を廃止するという論理が前述のようにおかしなものであることからすれば,来年から追試を廃止するのは,大量の不合格者に対して追試を行うのが大変だからにすぎないのではないでしょうか。最高裁は教育機関としての責任を放棄して自らの負担軽減に走ったとしか考えられません。

以前述べたように,合格者が増えれば,修習生の「質」にバラつきがでるのは自然なことであり,それを期間の短縮された修習で補おうとするのは無理なことです。このような無理の生じた原因について率直に発言することこそが司法研修所の運営にたずさわる者に求められていることでしょう。また,期間が短縮された前期・後期修習については,所長講話・事務局長講話などの時間を削減すべきでしょう。それをすることなく,自分たちの時代にはあった追試という救済措置を後生から奪って自分たちの負担軽減を図るというのは,教育・研修機関としての責任を放棄した身勝手な行動でしかありません。追試は存続すべきです。

(注) 来年二回試験を受ける修習生には新司法試験合格者(新60期)もいますが,彼(女)らは制度上法科大学院で2年間にわたり起案能力などの法的素養を習得してきていることになっているので,旧60期に比べると(また,旧59期に比べても)二回試験不合格の割合は下がる筈であり,したがって,上の議論からは捨象しています。

公取委、資格学校3校に警告・合格者数「水増し」表示で2006年10月13日

資格ばやりの昨今,優良誤認表示とされる基準も厳しくなってますね。

公取委、資格学校3校に警告・合格者数「水増し」表示でNIKKEI NET

大手資格試験予備校が公認会計士などの試験対策講座のパンフレットの合格実績に短期間の講座を数回受けただけの人も含めて表示していたのは景品表示法違反(優良誤認)の恐れがあるとして、公正取引委員会は12日、TAC(東京)、大原学園(同)、早稲田セミナー(同)の3校に警告した。

公取委によると、TACは2005年12月―今年6月に配布した公認会計士試験講座のパンフレットに、05年度試験の会員合格者数を「1079名 合格者に占める割合82.4%」と表示。この中には短期間の講座を数回受けただけの人や数年前の受講者も含まれていた。税理士試験講座のパンフレットでも同様の記載をしていた。

大原学園は税理士試験講座の、早稲田セミナーは公務員試験講座の各パンフレットで同様の表示をしていた。公取委は、各校とも正規の受講の成果とは認められない人が合格者数に2割程度は含まれていたとみている。

各校はすでに指摘されたパンフレットの使用を中止しており、「警告を真摯(しんし)に受け止め、今後は適正な広告表示に努める」などとコメントしている。 (22:44)

昨年東京リーガルマインド(LEC)に対して下された排除命令(PDF)では,司法試験口述試験会場までの送迎バスを利用した者,論文試験回答等の資料の提供を受けた者,受験願書の提供を受けた者等についても

会員として司法試験受験講座をご利用

した者の人数に含められていたことが問題とされており,排除命令の対象となった行為が違法なことは明らかでした。

それに比べると今回警告を受けた行為は,短期間のものにすぎないとはいえ講座受講者を含めたというだけのものなので,違法なのかどうか微妙なところです(そうであるからこそ警告にとどめているともいえますが。)。

本件に関する公取の新聞発表文(PDF)を見てみると,各社の違反被疑行為の概要に(注)として,各社がパンフレットで,合格者数には模擬試験のみの受験者や書籍購入者,情報提供登録者を除く旨うたってあることがふれられています。このようにわざわざうたったことで,模試受験者と同列に扱われるべき短期講座受講生も合格者数には含まれないとの誤認を消費者に生じさせるおそれがあるということで,かなり踏み込んだ認定を公取はしたという感を受けます。

ただ,公取はLECに対する排除命令に併せて,資格試験等の受験指導を行う主要な事業者に対して以下のような要望を出しており,本件各社の行為はその要望にもろに反するものでした。

3 要望の概要

資格試験等受験のための講座の受講生募集を行う際の広告表示において,次のような例が多く認められ,このような表示は,一般消費者の認識に沿った適切なものとは認め難いため,資格試験等の受験指導を行う主要な事業者に対し,景品表示法違反行為の未然防止の観点から,表示基準を策定するなどの表示の適正化を図るよう要望した。

(1)自らの合格実績として表示している合格者数,合格者数の比率等について,短期講座の受講生,公開模擬試験のみの利用者等,主要な講座を受講していない者を含めている。

(2)合格者について,単に自らの会員や利用者である旨のみを示し,利用した講座等の範囲を示していない。

本件各社が上記の(注)で指摘されたような記載をしたことが,LECと同じようなことさえしなければ排除命令は受けない,公取の要望を無視してもかまわないという意識の現れと公取にとらえられ,公取の逆鱗に触れたということが今回の警告の背景にあるのかもしれません。

法テラス 弁護士がもっとほしい~どんな弁護士が?2006年10月16日

朝日新聞の本日付社説ですが, 法テラスの制度設計の問題点について検討はしたのでしょうか?。

全国各地にくまなく弁護士を行き渡らせるためには、欧米に比べて極端に少ない法曹人口を増やす必要もある。

司法制度改革では、合格率3%ほどだった従来の司法試験にかわり、法科大学院の修了者を対象にした新試験が始まった。合格率は48%に上がった。合格者枠は今年の約1千人から少しずつ増やし、10年には3千人程度になる見通しだ。

だが、それで足りるかどうか。合格者の人数枠にとらわれることなく、一定の水準に達していれば合格させたらどうか。社会に出て法律家として役に立たなければ、転職するだろう。

「一定の水準」としてどの程度のものを要求されているのでしょうか?一定の水準の設定次第では,合格者が1000人となった,という事態も生じうると思うのですが。

法テラスを血管だとすれば、そこを流れる血液が法律家だ。末端にまで十分に行き渡るだけの量を、一日も早く確保したいものだ。

法律家という人を血液というモノ扱いしないでほしいなと思います。なぜ法テラスに弁護士が行こうとしないのか,法テラスがどんな性格を持ったものなのか,きちんと検討してほしいものです。

金剛山歌劇団の会場使用許可取り消し 岡山・倉敷市2006年10月16日

http://www.asahi.com/national/update/1016/OSK200610160027.html

岡山県倉敷市の市民会館で今月26日に開かれる予定だった在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)系の金剛山歌劇団の公演について、倉敷市は16日、会場の使用許可を取り消すと発表した。北朝鮮による核実験問題で右翼の街宣車による抗議活動による混乱が予想されるため、市民の安全確保を優先したとしている。

市によると、同公演には9月15日付で使用許可を出していた。だが、今月初めまでに右翼団体の街宣車が市役所周辺を巡回して「会場を貸すな」と抗議行動があったという。北朝鮮による核実験発表もあり、右翼団体の抗議行動の活発化が予想され、市民会館周辺の住民から不安の声も寄せられたため、使用許可の取り消しを決めたという。

金剛山歌劇団は1955年に在日朝鮮中央芸術団として創設、民族舞踊などの公演を内外で開いている。倉敷市でも隔年で公演していた。同県内の在日朝鮮人らでつくる公演の実行委員会は16日、倉敷市に使用許可取り消しの撤回を申し入れるとともに、岡山地裁に使用許可取り消しの取り消しを求める仮処分を申し立てた。

今回の倉敷市の処分は,1996年(平成8年)3月15日最高裁判決に照らし合わせれば違法なケースではないでしょうか。

朝鮮本国の政治がひどいものであるとしても,現在日本でくらしている在日朝鮮人の人たちに罪があるわけではありません。彼らの芸能活動の自由は保障されるべきです。

また,朝鮮本国の政治がひどい状況である今こそ,日本での生活は朝鮮での生活に比べてこんなによいものであるということを在日朝鮮人の人たちに実感してもらって社会の安定を図るチャンスでしょう。むしろこうした文化活動は今こそ促進されるべきものです。「右翼団体」の人たちも,妨害行為に出るのではなく,日本古来の文化や芸術を盛んにする運動にいそしんではどうなんでしょうかね。

問題なのは「灰色金利」よりもむしろ「高金利」2006年10月17日

消費者金融の金利が高いことの問題性をもっと明らかにすべきではないでしょうか。

自殺直後の遺族に督促 灰色金利、非情取立て横行asahi.com

灰色金利がなくなっても,現在提案されている法案のように利息制限法所定の利率の実質上の引上げ(金利区分の変更)が行われれば,記事のような悲劇はなくならないでしょう。むしろ弁護士の介入によっても任意の弁済はできずに破産に至るケースが増えるのではないでしょうか。

問題なのはグレーゾーン自体ではなく,いったん借りると利息の返済で手一杯となってしまうような高金利にあるということをなぜマスメディアは端的に指摘しないのでしょうか?