<司法修習卒業試験>落第者向けの追試を廃止 最高裁 ― 2007年01月19日
本当に廃止していいんでしょうか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070118-00000138-mai-soci
司法試験合格者が専門知識を学ぶ「司法修習」の卒業試験で落第者が急増しているが、最高裁の「司法修習生考試委員会」は落第者を救済するための「追試」を廃止することを決めた。委員会が「最低水準に達していない修習生を追試で救済するのはふさわしくない」と判断したため。
司法修習二回試験の追試廃止は筋違いではないかでも述べたように,これまでやってきた追試を廃止する合理的理由はないように思います。
報じられている司法修習生考試委員会の判断内容によれば,追試で「救済」されてきた人は追試合格時点でも「最低水準に達していない」ということになりますが,そうすると,最高裁はこれまで,「最低水準に達していない」者が法曹となることを認めてきたことになります。そんなふうに解される発言を最高裁がしてよいのでしょうか。本試験で留保となり,その後追試に合格した人が必ずしも法曹としての適格性を欠いているとは思えないのですが・・・。
江東に巨大スカパーアンテナ 差し止め提訴 ― 2007年01月22日
落合弁護士のページ経由で知りました。
衛星放送のスカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー、本社・東京都渋谷区)が、江東区内に建設を計画している新放送センターをめぐり、周辺のマンションの住民らが十九日、電磁波の健康被害の恐れがあるとして、同社を相手取り、巨大な送信用アンテナの設置差し止めを求める訴訟を、東京地裁に起こした。
提訴したのは、予定地に隣接するマンションの住民ら十八人と、付近に土地を所有する一法人。
訴状などによると、同社は、都内三カ所にある放送センターを統合して地上五階、地下一階の新放送センターを建設し、屋上に直径約八メートルの送信用アンテナ十二基を設置する計画を来年の完成を目指して進めている。アンテナは衛星に電波を送るが、周辺にも微弱な電磁波が拡散するという。
原告側は「微弱な電磁波の危険性を指摘する疫学調査は数多くある」と主張。精神的苦痛や景観破壊、資産価値の低下といった被害も受けるとして「憲法で保障された人格権を侵害する」としている。記者会見した原告代表の猪又和子さん(64)は「マンションが林立するこの地域になぜ設置するのか。不安と恐怖を感じる」と話した。
これに対し、スカパー社は「計画や安全性について説明をしてきたにもかかわらず、理解をいただけなかったのは残念」としている。
送信用アンテナの設置は,付近住民にとっては便益(衛星放送の受信)よりもリスク(強度の電磁波の被曝)の方が圧倒的に上回るものでしょうから,反対するのは当然でしょう。住宅地近くに電磁波発信装置を設置することについてはもっと強度の法規制を敷いてよいように思います。
同様の理があてはまるもので,さらにもっと大きな被害が懸念されるものとしてすみだタワー(問題点はこちら)があります。こちらについては計画が決定したものの,十分な議論がなされたとは言えません。この日本の東京の下町に巨大楼閣が必要なのかという点も含め慎重に検討していくべきではないでしょうか。
住基ネットと自己情報コントロール権に関する集会 ― 2007年01月22日
知人から集会の案内が送られてきましたので掲載します。 自治体(市議),学者,市民団体それぞれの立場からの話が聞けるというのはきわめて興味深いものです。特に西邑さんの話がおもしろそうですね。
<転載歓迎>
反住基ネット連絡会・連続講座第10回記念集会
もう後戻りできない!住基ネット訴訟が開いた 自己情報コントロール権の扉――自治体・市民はどう応えるか?
日時 2007年2月4日(日) 13時30分~16時30分
会場 東京・目黒区立中目黒住区センター第5・6会議室
東急東横線・東京メトロ日比谷線中目黒駅10分山手通
地図 http://www.city.meguro.tokyo.jp/benri/maps/113_5.htm
2006年11月、大阪高裁で違憲判決が出され、被告の箕面市がこれを受け入れて一部確定するなど、住基ネットをめぐる状況はこれまでにない局面を迎えています。
また、圧倒的多数の合憲判決においても、もはや「自己情報コントロール権」自体は否定できないという司法判断が確定的になりつつあります。
市民の訴えが開いたこの扉を、私たちはどのように住基ネットの廃止につなげていくか、そして確立されつつある市民の権利に対して、自治体はどのように応えて行くことができるかを話し合います。ぜひご参加下さい。
■プログラム■
- 牧野直子(箕面市議) 箕面からの報告(仮)
- 右崎正博(獨協大学教授) 住基ネット関連訴訟判決から見た自己情報コントロール権の定着の方向性
- 森田 明(弁護士) 反住基ネット運動と自己情報コントロール権(仮)
- 西邑 亨(情報人権WS事務局) 「削除」の実務的検討
■参加費 999円
■主催 反住基ネット連絡会
都市交通シンポジウム「道路は誰のためにあるのか」の今後~主催者側の一員として(notツーキニスト) ― 2007年01月22日
標記シンポジウムが去る1月20日に行われ,約100名の方が来られました。昨年末になって急遽開催を決定したものであり,十分な広報期間がなかったにもかかわらずこれだけの人が集まったのは本当に驚きでした。弁護士会のサイトでの公開も,シンポ開催時期の決定がサイトへの掲載申込期限に間に合わなかった(弁護士会も頻繁にサイトを更新するだけのお金はないのです・・。)ために叶わず,ビラと,パネラーの疋田さんや小林さんのネットワークを通じての呼びかけに頼ることとなったのですが,これだけ集まるとは・・・。この問題についての,自転車利用者の関心の高さを強く感じました。
シンポの中身についてはganymanさんのページやkogkogさんのページで触れられているのをごらんいただければと思います。弁護士会でも,今回のシンポをできるだけ早く報告書にまとめようとしているようです。上記のような事情でウエブサイトへのアップは遅れるかもしれませんが(ちなみに公害対策・環境保全委員会のサイトはこちら),今回パネラーとして出席された方には少なくとも配布されるでしょうから,入手を急がれる方はそちら経由で入手されるのがよいかもしれません。
公取委 企業合併緩和、シェア基準を維持 ― 2007年01月23日
合併審査基準を緩和する必要ってあるんでしょうか。
公取委 企業合併緩和、シェア基準を維持(asahi.com)
公正取引委員会は、企業合併審査基準の見直しをめぐり、撤廃を検討していた「シェア基準」を維持する方針を固めた。「競争を阻害する恐れは小さい」とみなす基準について、業界の競争状況を示す「寡占度指数(HHI)」とシェア基準を併用して「シェア35%以下でHHI2500以下」に緩和し、現在より企業が合併しやすいようにする。シェア基準撤廃に反発する経済産業省などに配慮したものだ。
HHIは、国内市場の各企業のシェアを2乗した値を足したもので、高いほど寡占化が進んでいる状態を示す。「競争を阻害する恐れは小さい」とみなす現行基準は「シェア35%以下でHHI1800未満」だったが、新基準は対象を広げる。月内にも与党に示し、年度内に最終決定する。
公取委は当初、シェア基準を撤廃し、HHIを採用する方向で検討してきた。しかし、基準の実質的な緩和につながらないとみる同省などは「分かりにくい」と主張し、調整を続けていた。
合併による効率化って,企業の競争力を高めるのには役立つのかもしれませんが,銀行の合併による支店の統合など,利用者にとってはかえって不利益なことが起こるように思います。
合併しようとする企業の側からすれば審査により是正措置を取らされるリスクは低い方がいいということなのかもしれませんが,消費者の立場からみると,合併により選択の幅が狭まり,実際に先に述べたようなサービス低下も起こるわけで,消費者利益の観点からは公取がより幅広に是正措置を講じる余地を残しておいてほしいものです。
<参考>
国内業者が卵子バンク 日本人ドナーから韓国で採卵 ― 2007年01月24日
国内業者が卵子バンク 日本人ドナーから韓国で採卵(asahi.com)
不妊に悩む夫婦らに、第三者の日本人女性の卵子を販売する「卵子バンク」を、東京などを拠点に精子バンクを運営する業者が始めた。日本の業者による、日本人女性の卵子バンクは初めて。提供者(ドナー)の卵子を韓国で採り出し、夫の精子と体外受精させて妻の子宮に移す。ドナーには報酬が支払われる。業者によると、20~33歳の8人の女性が登録しているという。これまでに数件の問い合わせはあったが、契約したケースはないとしている。
第三者の卵子を使った体外受精って,ドナーの人から卵を取り出す際にドナーにかかる負担についてきちんと説明したのでしょうか?排卵させる過程での排卵誘発剤の使用による副作用の大きさなどは無視できないものです。また,ドナーが傷を負ったり病気になったりした場合の業者の責任はどのようになっているのでしょうか。
上記記事によれば
ドナーと、生まれた子どもの間には、一切の権利義務関係はないことを、双方の契約書で確認する。
とありますが,生まれてくるこどもに遺伝上の親を知る権利を認めないでよいのか疑問です。
さらに疑問なのは
ドナーは、身長や体重、学歴などを申告し、写真を提出。要望があれば、体のスリーサイズも教える。
という点です。何故に「身長や体重,学歴など」を申告してもらう必要があるのでしょうか。単に子どもがほしいというのでなく,自分の希望通りに育つ可能性が高いようにと作った子ども=「デザイナー・ベイビー」がほしいという男女の欲求が背後にあることは明白です。このような欲求は優れた能力を持つ者のみが生まれてきてしかるべきという優生思想の現れですが,そうでない子どもは生まれてきちゃいけないんでしょうか?
「不妊に悩む夫婦らに」と書かれると,いかにも悩みを解消するよい事業のように見えますが,人間の果てしのない欲望に訴求して人の卵子をネタに金を儲ける事業であることは確かです。上記に挙げたような問題点を考えた場合,早急に禁止も含めた法規制を検討すべきように思います。
追記(1/25)
前記記事では
03年に韓国の業者が卵子バンクの営業所を日本に開いたことがある。しかし、韓国で精子、卵子の売買を禁止する生命倫理法が施行された05年1月の直前に撤退した。
のにもかかわらず,
生命倫理法について、佐々木代表は「契約や金銭のやりとりは日本で行われるので、法律上、問題ない。日本人の卵子がいいという顧客の要望にも応えられる」と主張している。
とのことですが,本当に大丈夫なのでしょうか。
ちなみに日本の刑法では,
第1条 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
とされており,犯罪の実行行為又は結果のいずれかがその一部でも日本国内において生じていれば日本の刑法が適用されるものと解されています。
韓国の刑事法がその適用範囲についてどのように定めているかは私は知りません。しかし仮に同様の定めが置かれているとすれば,契約上を履行するプロセスである「採卵」→体外受精→受精卵の子宮への移植という行為が犯罪の実行行為であるとして,韓国の生命倫理法の適用を受ける可能性は高いでしょう。
その場合,業者は日本にいるので事実上処罰を免れるが,かかわった韓国の医師とドナー,依頼者夫婦は処罰されるといった事態が想定されます。
ドナーにしてみれば,お金に魅力を感じて応募したら,刑事罰を受けた上,報酬も没収されたということになりかねません。
東京高裁に発破をかけられたNHK~バウネット事件 ― 2007年01月31日
政治家に阿って番組内容を改変することはダメだって言われたんですよ>NHK
「NHKが番組改変」 200万円賠償命じる 東京高裁(asahi.com)
旧日本軍による性暴力をめぐるNHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKなどに総額4000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は「制作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないよう番組を改変した」と指摘。「憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱した」と述べ、NHKに200万円の支払いを命じた。NHK側は同日、上告した。
この問題については以前別ブログで述べたことがありますが,
この度判決文を入手できたことから,読んでみました。
編集権についてはこの判決はかなり広く認めていますが,本件のNHKの行為については強く断罪していますね。
判決では,番組内容改変の経緯について詳細に事実認定した上で
(平成13年1月)26日以降,本件番組は制作に携わる者の制作方針を離れた形で編集がなされていったことが認められる。
上記のような経緯をたどった理由を検討するに,前認定のとおり,本件番組に対して,番組放送前であるにもかかわらず,右翼団体等からの抗議等多方面からの関心が寄せられて一審被告NHKとしては敏感になっていたこと,折しも一審被告NHKの予算につき国会での承認をえるために各方面への説明を必要とする時期と重なり,一審被告NHKの予算担当者及び幹部は神経を尖らしていたところ,本件番組が予算編成等に影響を与えることがないようにしたいとの思惑から,説明のために松尾と野島が国会議員等との接触を図り,その際,相手方から番組作りは公正・中立であるようにとの発言がなされたというものであり,この時期や発言内容に照らすと,M放送総局長とN局長が相手方の発言を必要以上に重く受け止め,その意図を忖度してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み,その結果,そのような形へすべく本件番組に直接指示,修正を繰り返して改編が行われたものと認められる。
と認定しています。
その上で判決は,この改編について,「当初の本件番組の趣旨とはそぐわない意図からなされた編集行為」であるとし,その認定を前提として,本件番組の制作・放送について,「憲法で尊重され保障された編集の権限を濫用し,又は逸脱したもの」「取材対象者である一審原告らに対する関係に置いては,放送事業者に保障された放送番組編集の自由の範囲内の者であると主張することは到底できない」としています。
また判決は,NHKらの原告らに対する説明義務違反を認定するに当たり,「一審被告NHKは憲法で尊重され保障された編集の権限を濫用し,又は逸脱して変更を行ったものであって,自主性,独立性を内容とする編集権を自ら放棄したものに等しく」とまで述べています。
つまり,国会議員の発言の意図を忖度して番組内容を改編することは「編集権」の行使ではないと言っているのです。これは,高裁がNHKに対し,編集権というのは政治家の発言の意図を忖度して行使されるものであってはならない,政治家からの自主性,独立性を発揮する形で行使しろと発破をかけた(叱咤激励した)ものと言えるでしょう。
この問題に関して読売は社説(1月30日付)で,
ただ、懸念されるのは、編集の自由の制約に関する司法判断が拡大解釈されて、独り歩きしないかということだ。
報道の現場では、番組や記事が取材相手の意に沿わないものになることは、しばしばある。ドキュメンタリー番組や新聞の連載企画などでも、より良質なものにしようと、編集幹部が手を入れたり、削ったりするのは通常の作業手順だ。
「編集権」の中の当然の行為だが、それすら、「期待権」を侵害するものとして否定されるのだろうか。2審では「期待権」の範囲がNHK本体にまで拡大された。そのため、報道機関全体に新たな義務が課せられる恐れが強まった。
としていますが,判決は,予算審議への影響を考え,政治家の発言の意図を忖度してなされた番組改編行為であって,当初の本件番組の趣旨とはそぐわない意図からなされた編集行為である(つまり,「より良質なものにしようと」した行為ではない)と認定しているのですから,読売の言う心配は当てはまりません。私から見ると,むしろ判決はかなり広く編集の自由を認めているという感を受けました。
この事件について問題となった政治家(安倍官房副長官(当時))からの圧力の有無についてはヤメ蚊さんのページで既に詳しく論じられているとおり,個別具体的な指示・圧力はなかったかもしれないが暗黙の圧力(少なくとも,圧力と感じられるような状況・行為)はあったというのが適当でしょう。
このような圧力を感じ,それに阿るようなNHKの番組編集,運営のあり方を本判決は問題視するものですが,NHKに無いものねだりをするわけにもいきませんから,NHKが政治家の圧力を受け流せるような制度作り(予算審議権を通じた放送内容への介入の排除)を市民の側で考え,提案することも必要なのかもしれません。
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