代理出産:法律で一律禁止を 学術会議検討委が報告書案2008年01月18日

一方的な情に流されない報告で,ホッとしています。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080119k0000m040099000c.html

不妊夫婦のために他の女性が夫婦の受精卵を妊娠・出産する代理出産について、日本学術会議の検討委員会は18日、代理出産を法律で一律に禁止することを求める報告書案を提示した。法で規制する方針については合意したが、一部容認を求める意見も出され、調整を続けることにした。

この日は、背景説明や代理出産の許容性に関する部分の報告書案が示された。代理出産を許容するか否かに関し、▽死亡の危険性のある妊娠・出産を第三者に課す問題が大きい▽胎児への影響が不明▽「家」を重視する日本では強制や誘導が懸念される▽本来の生殖活動から大きく逸脱している▽胎児に障害があった場合の解決が当事者間の契約だけでは困難--などの問題点を指摘した。

そのうえで、このような技術を不妊夫婦の希望や妊娠・出産者との契約、医師の判断だけに委ねることは「妥当性を欠く」として、法律による規制を求めた。

だが、法律で禁止する対象や処罰の範囲については意見が分かれた。委員の中には「全面禁止にはすべきでない。報告書は両論併記にすべきだ」との意見もあり、次回の検討委を目指して調整することになった。

私は主に,代理出産者に対する身体的負担と,日本では強制や誘導が懸念されることから,代理出産契約は営利,非営利問わず禁止すべきと考えています。

規制を実効的なものにし,海外で行うことが跳梁跋扈することを防ぐためには,依頼者,仲介業者及び医師に対して,国外犯も処罰するという形の罰則規定を設けるべきでしょう。

また,強制や誘導のおそれという点からは,近親者による代理出産は特に強く規制すべきように思います。

ところで,毎日の別の記事では,

一方、代理出産に関する科学的な研究について、国の厳重な管理のもとで試行的に実施する方法があると言及している。具体的な実施方法については国が検討し、20~30年にわたり、生まれた子の成長過程や出産した女性の健康状況について報告義務を課すなど慎重な検討を求める声も出ている。

と書かれています。この試行的実施って,脱法行為として機能するおそれはないんでしょうか。

また,臨床試験としてではあれ,国が女性をいわば産む機械として扱うことを正面から認めるということであり,人間の尊厳を踏みにじるもので許されないのではないかという気がします。

代理出産の規制に反して生まれてきた子どもの戸籍上の扱いについては,記事で見る限りでは報告書上触れられていないようですが,別記事(「代理出産と戸籍上の取扱い」)で述べたとおり,代理出産者を実母とした上で,やむを得ない場合(代理出産者の養育が期待できない場合)に限り特別養子同様の手続を経て依頼者が親となれる手続を経させるべきでしょう。子どもがほしいという熱心さのあまり,子どもができた時点で燃え尽きてしまうことも考えられますし,目的達成のために人の身体に負担をかけることをいとわない人たちに本当に子どもの養育を任せてよいのかは慎重に考えるべきだからです。

代理出産~自分が代理母になる場合はどうなんだろう?

代理出産と戸籍上の取扱い

臓器移植・代理出産等で無償性を強調することの欺瞞

代理出産~自分が代理母になる場合はどうなんだろう?2007年06月22日

代理出産容認54% 自分なら利用10% 厚労省調べasahi.com

生殖補助医療について厚生労働省が実施した国民の意識調査で、子どもをほかの女性に産んでもらう代理出産を「社会的に認めてよい」とした人が54%にのぼったことが21日わかった。「認められない」は16%にとどまった。代理出産の是非などを巡っては、厚労省などの依頼で日本学術会議が年内にも結論を出す予定で議論を進めており、今回の調査結果は影響を与えそうだ。

調査は3月、一般国民(20~69歳の男女)5000人と小児科や産婦人科の医師らを対象に行った。

アンケートを取る際の情報の提供の仕方はどんなものだったのでしょうか。

代理出産については依頼者となる女性の側の卵子排出時の苦労の問題や,代理出産する女性の側の身体の危険,代理出産する女性に契約上課せられる種々の制約,代理母が出産経験者の場合の,既に生まれた子どもの精神に与える影響など,代理出産の具体的実態について知らされた上で調査しなければ,単に「子どもがほしいけどできない人がいるからかわいそう」という感情から賛成する人が増える気がします。

アンケートに当たっては,例えばこちらのページに書いてあることくらいは読んでもらうべきだったように思います。

代理母/代理母出産/代理出産arsvi.com

さて、妊娠期間中、代理母は妊婦服を買う費用として 200ドルを受け取る。交通費として 1.6キロメートルごとに15セントが支払われる。出産経費をカバーする医療保険に入るかどうかは代理母側の責任とされている。

人工授精は6月カ間、月2回、妊娠しなかったら計画からはずされ、新しい代理母に この場合、報酬は受けない 流産した場合も報酬はなし 死産の場合は契約を完了したとみなされる ……

ところでこの調査,記事の以下の部分を見ると,自分が代理出産を依頼する側に回ることだけ考えさせているかのようにも見えます。

ただ、自分が子どもに恵まれない場合の代理出産については「利用したい」が10%、「配偶者が賛成したら利用したい」が41%。これに対し「配偶者が望んでも利用しない」も48%おり、より慎重な傾向がうかがえた。

代理出産をしてもらう女性は誰がいいか(複数回答)は「姉妹」が38%で最も多く、「分からない」が34%。「仲介業者から紹介される女性」28%、「母親」16%だった。

この調査って,まじめに考えさせるのであれば,自らが頼まれる側になった場合の賛否についても問うべきように思うのですが・・・。そもそも日本でできないから外国に行って行うのはおかしいというのが容認論の理由の一つだったのだから,代理出産が容認されるということは,自分が依頼される側に立つこともありうるということなのですが・・。

新聞記事から見る限りでは,この調査で代理出産を認めるべきという結論を出すのはいかがなものかという気がします。

また,仮に一定の場合に代理出産を認めるとしても,代理出産で生まれた子どもの戸籍上の取扱いについては,既に述べたように,依頼者の実子としての届出を認めるべきではないでしょう。

特別養子縁組,申し立てる価値はあるのでは2007年04月12日

弁護士はどういう見通しを示しているんでしょうか。

代理出産の向井亜紀さん夫妻が会見 日本国籍取得を断念

タレントの向井亜紀さん(42)が11日、米国人に代理出産してもらった双子の男児(3)との法律上の親子関係を認めなかった3月の最高裁決定の後、初めて記者会見をした。決定について「正直がっかり」と悔しさをにじませた。男児らの出生届を出すことを断念し、日本国籍は取得せずに米国籍のまま育てていくことを明らかにした。

最高裁決定後、東京法務局から「2週間以内に男児の出生届を出さないと、今後日本国籍を与える機会はない」との連絡があり、11日が期限とされたという。

しかし、向井さん側は出生届を出さなかった。法務局が、届け出の父親欄に高田さん、母親欄に代理出産した米国人女性を記入するよう指示してきたからだ。

指示に従って「母親」とすれば、訴えられる可能性がある。代理出産契約で、米国人女性には男児の親としての権利義務を一切負わせないよう取り決めているためだ。

米国にいる代理母側が訴えて来たとしても,向井さんたちが財産を差し押さえられたりする可能性がどれだけあるのか疑問です。

心配するよりもまず,日本の最高裁判決で親子関係が決まってしまったという,不可抗力な事情によるものだと説明することが必要なのではないでしょうか。

また、最高裁決定の補足意見で、法的な親子関係を成立させるための選択肢として勧められた「特別養子縁組」をするには、子の「実の親」の同意が原則必要になり、やはり契約が壁となる。「高いハードルを感じている」と嘆いた。

代理懐胎してくれた女性に,あなたの子どもに対する親としての権利義務関係を絶つために必要だから,と説明しても,同意してくれないのでしょうか。

男児は米国人として外国人登録し、この春から幼稚園に通い始めている。このため、具体的には、特別養子縁組のうち外国人を養子とする「国際特別養子縁組」が考えられる。この場合、米国法上は実の親の向井さん夫妻が「同意者」になり、同時に申請者にもなるという不自然な形をとって申し立てることを余儀なくされる。

「最高裁が特別養子縁組を認める余地はあると言った以上、申し立ては通るのではないか」とみる裁判官もいるが、家裁が認めるかどうかは、申し立ててみないとわからない。

特別養子縁組,認められないと決まったわけではなく,最高裁判事の事実上のお墨付きもあるのですから,申し立ててみてはどうでしょうか。何か,特別養子縁組を殊更に毛嫌いしているようにしか思えません。

子どもを米国籍のまま生活させるというのも一つの途ではありましょうが,日本国籍を持っていた方が日本では生活しやすいのも現実です。特別養子縁組の請求について前向きに考えてみた方がよいのではないでしょうか。

代理出産と戸籍上の取扱い

代理出産と戸籍上の取扱い2007年01月11日

今日の毎日新聞の「記者の目」に,代理出産等についての法整備の必要性を説く記事が載っていました(記者の目:不妊治療 統一ルール作り急務(永山悦子)。)。

代理出産自体の可否について私自身は,国外で行った場合も処罰する規定を併せて設けた上で,刑罰付きで禁止すべきだと考えています(国民について国外で行った犯罪を処罰する例としては,児童買春防止法第10条があります。)。

ただ,禁止しても実際に行う男女が出てくることはありうるでしょう。その場合戸籍上どう取り扱ったらよいのでしょうか?

生まれてきた子どもには罪がないから実子としての届出を認めるべきだ,とか,父母として届け出た者の精子と卵子を使っていれば実子として扱うのが遺伝子との整合性から妥当だ,という趣旨の意見を見たことがありますが,納得できません。

代理出産を依頼した男女というのは,

他人の身体を自らの欲望達成の手段として利用することをいとわなかった人(たち)

です。こんな人(たち)に子どもの養育を任せていいのかどうか,子どももまた父母となろうとする人の欲望達成の手段にいいように使われることがないかどうか,慎重に判断するべきではないでしょうか。特別養子同様,親子関係を認めるに当たっての待機期間を設けることが妥当なように思います。

依頼者である男女が親としてふさわしくないが,代理出産者も養育を拒否するという場合には,社会で育てる方策を考えるしかないでしょう。

遺伝的に依頼者である男女の実子として扱うのが自然という見解については,遺伝子が全てなのか?という疑問があります。分娩という事実はそんなに軽いものなのか,とも。

子の福祉上,養子というのが戸籍上残るのが望ましくないというのであれば,特別養子同様の救済制度を設けて戸籍に養子という記載が残らないようにするという方法で解決すべき問題のように思います(もしくは,特別養子制度を拡張して適用する。)。

代理出産については現在日本学術会議においてその是非について検討中とのことですが,仮に代理出産を容認するにしても,代理出産が他人の身体を欲望達成の手段として使うものであることには変わりないのですから,実子としての届出を直ちに認めるという扱いはすべきでありません。

臓器移植・代理出産等で無償性を強調することの欺瞞2006年11月22日

最近,患者間の対価のやりとりを伴った臓器移植や,「謝礼」を支払ってやってもらう代理出産など,「高度医療」「生殖補助医療」に対価の提供が伴う例が議論となっています。

臓器移植や代理出産が有償で行われることは問題だと私も思います。では,「無償」で行われればいいとする議論に問題はないのでしょうか?

代理出産についてこれを積極的に進めようとする医師は,有償で行われることを問題視し,ボランティアで行うものならばよいとするようです。

しかし,全ての関係者が「無償」でやっているのでしょうか?推進論者であるこの医師は「実費相当分」を含め一切の対価を受け取っていないのでしょうか?

臓器売買についても同様の問題があります。

「脳死」者からの臓器移植についても,金員のやりとりが発生しないわけではありません。関係する人や組織は対価を得て施術や臓器運搬などの業務にたずさわっているのです。

無償性を強調する人自らが,「実費相当」という名目ではあっても金員を授受している。これが欺瞞でなくてなんでしょうか。自分たちの儲けや新規業務開拓や研究のために行って,しかも仮に実費相当であるとしても費用を取っている者は,ドナーや代理出産者に対して費用を取ることを非難することはできないでしょう。

「無償」の行為とされているものについても,お金が利害関係者の間で動いているという事実をふまえた議論が必要だと思います。