法務省:取調べの可視化に関する省内勉強会の中間取りまとめの公表について2010年06月18日

法務省の記者発表資料は以下のとおりです。

http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00003.html

千葉法務大臣,弁護士出身なのか?と思うばかりの方針転換ですね。

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100618dde041010026000c.html

千葉景子法相は18日の閣議後会見で、取り調べ可視化の対象事件を限定して法制化を進める方針を発表した。検察の取り扱う事件は年間約200万件に上り、交通違反、事故など供述の任意性が争いとならない事件が対象に含まれるほか、コスト面の負担が大きすぎると指摘。「実務上の課題を踏まえると、全事件の可視化は現実的ではない」と結論づけた。

民主党は昨年衆院選で作成したマニフェスト(政権公約)で全事件・全過程の録音・録画の実施を明記。千葉法相も昨年の就任時には「基本的には全面可視化」と発言していた。だがその後、省内の勉強会で「可視化は真相解明に程遠くなる」などと捜査現場から反発を受け、現実的な路線に方針転換した。

「真相」って,捜査機関が真相と思いこんでいるものにすぎないのでは?

法務省内の勉強会の中間とりまとめ結果は

被疑者取調べの録音・録画の在り方について~これまでの検討状況と今後の取組方針~(PDF)として公表されています。

そこに記載された外国との比較では,日本の特徴として取調べの時間が諸外国に比べかなり長いということが挙げられ,そのような長い取調べを録音・録画したDVDを捜査関係者や弁護士,裁判官・裁判員が見なければならなくなるということが,全面的可視化の問題点として挙げられています。

しかしそもそも,長時間にわたる取調べを前提にすること自体,いかがなものなのでしょうか?可視化の推進にとどまらず,長時間の取調べ自体(並びにその前提となる自白偏重)を改めさせるようにすべきではないでしょうか。

裁判員制度は未だに「試行」?2010年04月16日

高木剛前連合会長、佐藤幸治京都大学名誉教授らが法務大臣あてに提出した「法曹養成制度改革に関する提言」を見ている。 司法試験合格者3000人を未だ言い続けている点に関して調べてみようと思ってざっと見たら

2(2)「国内的課題」の「●裁判員」のところの記述に目がいった。そこには,

司法制度改革の柱の一つが、裁判員制度である。2009年5月から実施され、2009年末までに130件以上の裁判に、800人以上の国民が裁判員としてすでに参加している。この試みは、単に刑事司法制度の改革にとどまらず、わが国の民主主義の深化に重要な意義を持つ。国民がその責務を十全に果たせるような裁判のルールと運営を構築するとともに、国民に奉仕できる能力を持った法律家を養成することが喫緊の課題である。

との記載がなされている。

国民に奉仕できる能力を持った法律家,という場合の「国民」は,裁判員としての「責務」を担わされる「国民」と読むのが自然だろう。すると,弁護士や裁判官,検察官といった「法律家」は,裁判員に奉仕する存在ということになる。

提言者の中に刑事の専門家がいないので仕方がないのかも知れないが(でも憲法の中に刑事訴訟に関する条文があるのだから,佐藤教授がしっかりしていればこんな文章は書かないはずだが・・),弁護人として刑事訴訟に臨む際,裁判員への奉仕の心を忘れないようにしなければならないというのではたまらない。弁護人はあくまでも被告人のために最善をつくすべき存在であり,それ以上でも以下でもないはずだが。

それ以上に気になったのが,「この試み」という表現である。裁判員制度ってテストの段階だったのか?130件の刑事訴訟に国民が動員され,有罪の判決が被告人に対して下されてきているのが,テストにすぎないというのだろうか?

まあ,焦ってにわか作りで提出したものなのだろうが,それだけに提言者の人たちの上から目線と人権感覚の欠如が如実にあぶりだされた提言のように見えた。

「司法におけるジェンダー・バイアス【改訂版】」出版記念シンポジウムのお知らせ2009年12月03日

私の属している第二東京弁護士会両性の平等委員会の「ジェンダー問題諮問会議」のメンバーが中心となって作った本の出版記念シンポが以下のとおり開かれます。

参加希望の方は第二東京弁護士会人権課(担当:鳥海)までお問い合わせください。(TEL03-3581-2257)

「司法におけるジェンダー・バイアス【改訂版】」出版記念シンポジウム

日 時:平成21年12月10日(木)18時~20時

場 所:弁護士会館1003会議室

参加費:無 料

~プログラム~

第1部 法科大学院におけるジェンダー法教育の模擬授業

~会場参加者によるグループディスカッションと講評~

講師:長谷川卓也(大宮法科大学院大学非常勤講師/両性の平等に関する委員会)

第2部 司法にジェンダーの視点を~本書執筆者によるパネルディスカッション~

パネリスト

江 原 由美子(首都大学東京大学院人文科学研究科教授)

大 村 芳 昭(中央学院大学法学部教授)

宮 園 久 栄(東洋学園大学人文学部教授)

小 倉 京 子(両性の平等に関する委員会 委員 弁護士)

コーディネーター :菅 沼 友 子(両性の平等に関する委員会 委員 弁護士)

臓器移植法「改正」~生命がネガティブ・オプションの対象になったが2009年07月14日

臓器移植法「改正」法が成立しましたね。

あらかじめ拒否の意思を示しておかない限り「脳死」の状態で臓器が摘出されることになったわけです。

これまでは生きていたとして扱われていた命が,あらかじめ拒絶の意思を示さないと奪われてしまうわけで,まさに命についてネガティブ・オプションの仕組みが導入されたと言えるでしょう。

このネガティブ・オプション,まさに人の生き死ににかかわるものですから,市民の生命に対する権利の保障を十全なものにするため,「脳死」状態での提供拒否の意思表示の仕組みを政府は周知徹底させるべきではないでしょうか。

今のままでは,「脳死」はまだ死ではないと考えている人が,提供拒否のためには拒絶の意思表示が必要であることをしらないまま「脳死」判定さらには臓器移植をされてしまうという事態が頻発するおそれがあります。これは生命に対する権利の重大な侵害であり,放置しておいてよいものではないでしょう。

刑務所内も医師不足?2009年07月11日

今日は事務所に来てまず,弁護士会の人権救済事件の書類作り。

一段落したところでアンテナ先を見ると,落合弁護士のブログ経由で以下の記事が。

医師不足、ついに「塀の中」にも波及…長野

全国的な医師不足のあおりを受け、長野刑務所(長野県須坂市)では2005年9月から常勤医の不在が続いている。外部の医療機関で受診するなど、地域の医師の協力で何とか対応しているのが現状だ。

受刑者の健康管理について刑事収容施設・被収容者処遇法は、一般社会と同水準の医療を受刑者に提供すると規定している。法務省の組織規程は、各刑務所に医務課を設けて医師を置くよう定め、各施設は収容人数などをもとに医師の定員を決めている。

弁護士会に申し立てられる人権救済事件には刑務所内での事件についてのものが縷々見られるのですが,適切な医療を受けられないという申立ても多く見られます。

刑務所に入っている人はいずれ社会復帰する人が大半なのであり,社会に出たときにきちんと暮らしていけるためにも,刑務所内できちんとした医療を受け,健康を維持することが必要です。きちんとした医療を受刑者が受けられるようにするため,そして医療を受けられないことを理由とする人権救済申立てが増えないようにするために,刑務所内での医療の充実維持を図ってほしいものです。

それと併せて,刑務所で提供される医療の水準を決めることとなる,一般社会での医療についても,より充実させるような政策を展開していってほしいものです。

住民訴訟と議会による賠償請求権放棄の意味するもの2009年07月05日

賠償請求の対象となった行為がなされた背景にも目を向けるべきではないでしょうか・・・。

住民訴訟敗訴…首長への賠償請求阻む自治体YOMIURI ONLINE

ボ2ネタ経由で知りました。)

住民訴訟で敗訴し、判決で「違法な公金支出があり、首長に賠償を求めなければならない」と認定された自治体が、判決の確定前に、賠償請求権を放棄するケースが相次いでいる。

請求権放棄には議会の議決が必要だが、議会が首長へのチェック機能を果たすどころか、“先手”を打って首長への責任追及を阻んでいる形だ。地方議会の多数派が首長を守るなれあいの構図が背景にあるとみられるが、住民側は「訴訟を起こす意味がなくなる」と反発。国は、請求権放棄の議決の制限を検討し始めた。

上記記事に,議会が賠償請求権を行使した事例のが載っていました。その表によれば,各自治体で問題となった支出や損害は

千葉県鋸南町:町職員の時間外手当

新潟県旧安塚町(現上越市):第3セクター派遣職員の給与

山梨県旧玉穂町(現中央市):公共工事談合を巡る損害賠償

大阪府茨木市:臨時職員への一時金

大阪府大東市:非常勤職員への退職慰労金

神戸市:外郭団体派遣職員の人件費

東京都檜原村:非常勤職員の手当

となっています。

上記対照表を見て気づくのは,山梨県旧玉穂町を除き,職員,特に非常勤職員や嘱託職員についての人件費(嘱託職員や非常勤職員については「物件費」)が問題になっているということです。

現在は地方自治体の現場で職員の非正規化,業務の民間委託が進んでおり,例えば,2008年2月時点での東京都三多摩26市の職員の正規・非正規の割合は,正規職員62%,非正規職員38%となっています(布施哲也『官製ワーキングプア』(七つ森書館)62頁)。

総務省からの人件費圧縮の要請(圧力)の一方で,自治体が住民に提供すべきサービスの総量はそれほど減らないことから,対応策として職員を非正規化し(非正規職員の給与は経理上「人件費」ではなく「物件費」として扱われるため,経理上「人件費」は圧縮された形となります。),又は業務を民間委託することが広く行われるようになりました。

同じ職場の中で,正規職員と同じ仕事をしながら,非正規職員と言うだけで昇給も退職金も受けられないという扱いを受ける(非正規職員が正規職員を指導することもあるそうです。)。このような扱いが不合理だとして,その是正のために非正規・嘱託職員への一時金支給をあえて行うことは,不合理とは思えません。

また,民間委託に伴い第3セクターや外郭団体に派遣された職員の報酬分を,職員の待遇維持のために支給する(民間委託の是非は別論として,当該職員の退職後は経費節減となるのが通常です。)ことも,不合理とは思えません。

こうした報酬の支給については地方公務員法との関係で微妙なところがありますが(詳述は避けます。),実際に現場で働く職員のために支給を決断した首長の判断を議会が賠償請求権放棄という形で支持するというのは,地方自治の現れと評価してもよいものであり,無下に否定されるべきものではないように思います。また,議決によって,条例上規定の無かった一時金の支給を事後的に根拠づける役割を果たすものと見ることも考えられてよいでしょう。

メディアも,単に住民訴訟の意味を無にすると批判する側の声を取り上げるだけでなく(本件に関しては朝日も3月の記事で取り上げていました。),なぜこのような違法とされる公金支出が行われるのか,また議会の議決がなされるのかといった背景事情にまで迫った記事を書いてほしいものです。

裁判員制度施行日に2009年05月21日

裁判員法が施行日を迎えた今朝の「めざましテレビ」に,裁判員制度推進の旗頭である四宮啓弁護士が出ていた。番組では裁判員制度に対する国民の反対論の根拠として,人を裁くことはイヤだというのが提示されていたのだが,それに対して四宮弁護士,人を裁くというのではなく,裁判がきちんと行われているか中に入って監視するのです,という。 また,裁判員となるのには権利としての側面がある,ともいう。

しかし判決内容を決める評議に加わるということ自体,人を裁くことそのものではないか。また,中に入って監視するのであれば,評決にかかわる必要はなく,評議を傍聴するだけでもいいはずだ。公判傍聴だけでもプレッシャーにはなるだろう。

また,権利としての側面があるというが,権利だったら行使しない自由があるはずなのに,裁判員に選任されたら原則として辞退できないし,出頭しないと刑事罰が科されるのだ。ごまかしもいい加減にしろと言わざるをえない。

その後の番組である「とくダネ!」では,高橋省吾元裁判官がインタビューで,死刑にするか無期懲役にするかといった量刑について,今までの基準ではなく市民が新たな基準を作るのだという話をしていた。この高橋元裁判官,番組では,無期懲役の一審判決を破棄して高裁で死刑判決を言い渡した裁判官として紹介されており,また,ググってみたところ,被告人に厳しい判決をする傾向のある人のようだった。この人が期待する新たな基準なるものがどのようなものかは言わずもがなであろう。もっとも,職業裁判官の裁判においても近時重罰化は進んでいるが,基準によるタガがはずれるということになれば,重罰化は更に進行することにならないだろうか。

また,新たな基準作りといっても,裁判員に選ばれた人が実際に行うのは,被告人が死を強制されるのか,それともどの程度の期間自由を奪われて拘禁されるのかを判断,決定するという作業である。人の一生,場合によっては生命の存否を左右する,そんな作業は気が重い,やりたくないという気持ちはごく自然なものである。

昨日の記事でも述べたが,実際に裁判員が参加して行われる公判が開かれるまでにはまだ時間がある。保坂展人議員のブログによれば,議員連盟では停止も視野に入れた法改正を今国会で成立させるべく動き出すという。裁判員の負担減にとどまらず,是非とも,最低限執行停止を勝ち取る方向でがんばっていただきたいと思う。